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51話

トイレに駆け込み潜んで数分後、ようやく落ち着きを取り戻す。まるで本当に便意と戦った猛者さながらのげっそりした疲労がどうしようもない。


 あんな風に女の子達に囲まれるなんて体験初めてだったとはいえ、動揺しすぎた。しかも柊まであんな真似を。


 不可解すぎる。


「あ、大上くん大丈夫?」

「!?」


 なんとトイレの出入り口前にいたのは山峰さんだ。


「ど、どうしてここに?」

「ん~~~。具合悪そうだったし、気になっちゃってね~~」

なんて良い人なんだろう。柊なんかとは大違いだ。

「ありがとう。大丈夫だよ」

「そっか。でも本当に驚いたよ。まさか柊さんと大上くんがさぁ」


 そのまままた戻ろうとするけど、山峰さんは動きだそうとしない。そのまま通路の壁に背中を預けながら話し始めたので、立ち話とあいなった。


「隠すなんて水臭いぜ。このこの~~~」


 おどけた調子だけど、どこか乾いていて、天真爛漫な彼女にはどこか不自然さがあった。表情と声音、テンションがそれぞれ一致していないというのだろうか。


「それは、なんというか・・・・・・・・・ほら。最近柊と一緒にいると周りが色々噂したりしてるだろ? それがちょっとさ」


「あ~~~。たしかに。でもしょうがないんじゃない? 柊さん高嶺の華だしさ」

「うん、そだね・・・・・・・・・」


 高嶺の華。自分でも彼女のことをそう呼んでいたときが懐かしくなり、愛想笑いしかできない。


「それに大上くんも最近評判良いしね」

「え? それどういうこと?」

「ほら、藤田くんから庇ったときあったじゃん? それからなにかと話題になること多くなったんだよ」

「あ~~~・・・・・・・・・」

「それに柊さんと一緒にいるし、イメチェンしたのもあって女子の間でもあれ? あの人誰? って増えてるし」


 それ俺だって気づかれてないってことだよね? 


「ギャップ燃えに女子は弱いからね~~~。これからモテ期くるんじゃない?」


 モテ期・・・・・・・・・モテ期かぁ。


 そんなまさか。はははワロスという気になるけど、もしもそんなことになったら、と想像すると・・・・・・・・・うん、ヤバいな。


 ガクブルする。


「モテ期なんて来なくていいよ。きっと俺の性格とか生き方が悪いほうに加速しちゃうから」

「どんだけネガティブなのさ・・・・・・」

「というか、女子の話題になってるっていうのも信じられない」

「でもさ。私は皆の考えに共感できるよ」

「え、なんで?」

「ん〜〜。今までなんともおもってなかった人の男らしいところとか垣間見たり、話してみたら意外と良いっていう感触でかな」

「へぇ〜」


な んだかすんなり納得できたかもしれない。柊の意外なキチケモモフリストとしての姿を知ったときと正反対の反応ということだ。


「単純だし調子がいいかもしれないけど、誰かが他人に興味を持つのってそんなきっかけなんだよ。ちょっとしたことで好きになったり意識しちゃうんだって」

「なるほどなぁ・・・・・・毎日食べてた牛肉が実は大豆だったら驚くもんな」

「その例え方、本当にわかってる?」


 呆れているのか、大きく肩を竦ませた。


 けど、その話だと山峰さんが俺を意識してるっていう風にも受け取れる。


「? どうしたの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 ははは。まさかな。


 そんな勘違いしそうになってドキドキしてしまうほど、俺はチョロくない。


 あれ? もしかしてこの子俺に惚れてる? って勘違いほど悲惨な結末が待っているんだ。実体験含めてな。


「あ、そろそろいこっか」


 トイレに男入ろうとしたお客さんと擦れ違ったのがいい頃合いだったんだろう。どちらから合図したわけじゃなくても歩きだす。


 それに、そろそろ柊達の元に戻らないと。下手すると恵里奈姉ちゃんがなにをするか。クラスメイト達と遭遇して保護者ムーブをかますおそれがある。


 ギュッ。


「!?」


 手を、繋いできた・・・・・・・・・!


「山峰さん!?」


 まだなにがおこっているのか信じられず、軽くパニック状態になって彼女に引かれるまま追従してしまう。


「なに? どったの?」

「ど、どったのって・・・・・・・・・」


 こっちがどっただよ。


 こんな簡単に異性の手を繋いでくるなんて、いくらなんでも過激すぎるし、なんの意味もない。なんだ? なんで山峰さんは手を繋いでくる?


 もしかして山峰さん俺のこと―――


「だって大上くん歩くの遅いし。それに人も多いじゃん。はぐれちゃってもめんどうだし」

「友達なら普通じゃない?」


 普通!? 異性でも手を繋ぐのって普通なの!? 俺高校で手を繋いでる男女ってカップルしか見たことないよ!


「おっくれてるなぁ~~~。最近のJKの間では男子と手を繋ぐのがトレンドなんだよ」

「マジで!?」


 JKに人気なのがタピオカ等々くらいの認識でとまってるんだけど!? いつ流行りだした!?


 俺にとって普通のJKを象徴している山峰さんが言うからには、謎の説得力がある。たしかになんだかよくわからないものが話題になりやすいし、いつの間にか流行ってるもんだよねってかんじで。


「あっはっはー。難しく考えるなくっていいよ。だから普通だってこれくらい」

「ふ、普通・・・・・・・・・普通・・・・・・」


 ごくごく自然にそう言われてしまうと、受け入れざるをえない。


 大丈夫か? 俺。女の子と手を繋いだことなんて幼稚園以来だぞ。柊と恵里奈姉ちゃんは特殊すぎるから除外するとしても。


 あ、ヤバい。手汗が気になってきた。気持ち悪がられない? ああ、ダメだ余計汗かきそう。というか息苦しくなってきた。マスク外してぇ。でももうマスクは体の一部みたいなもんだし外すなんて絶対嫌だし。


 あ、ダメだ気持ち悪くなってきた。意識が遠のきそう。


「あ! そうだゲーセンときたらあれがあった!」


 フラフラとする意識をなんとか保っていると、急にグイグイ引っ張られて狭苦しいところに連れ込まれた。


「ここは、プリクラ?」

「うん、そだよー。大上くんはどのフレームがいい?」


 お金を入れると手際よくボタンを操作していく。慣れた手つきに目を見張るけど、限られた空間と天井の低さから自然と密着度が高まる。


「これ皆と来るといっつもやるんだよねー。だからやっておかないとなんだか不完全燃焼になっちゃうんだよねー」

「そ、そうなんだ。え、ちょっと待って!」

「なに? 別のフレームがよかった?」

「そこじゃない!山峰さんここに来たってことはプリクラ撮るってこと!?」

「そうだけど、なんでそんな驚いてるの・・・・・・・・・」

「俺と!?」

「だからそうだってば」

「だ、だって・・・・・・・・・」


 これが驚かずにいられるだろうか。


「だってプリクラって一緒に撮った人とズッ友になれる魔法の機械なんでしょ?」

「プリクラをなんだとおもってるの!?」

「友達とか仲良しの人同士じゃないと入れない神聖な場所、聖地にも等しいと評判じゃないか!」

「どこで評判になってんの! 大袈裟すぎてこわいよ!」


 主にネットの受け売りだけど。


「じゃ、別にいいじゃん」


 でも、これが山峰さん。普通の人達にとっては普通、当たり前なこと。


 そうか。俺はやっと普通になれたんだ。


 いや、今までの経緯を振り返れば、そんなことでは片づけられない。


「ありがとう・・・・・・・・・俺の初めてをもらってくれて・・・・・・・・・」

「なんだかキモい・・・・・・・・・」

「そりゃあ初めて誰かとプリクラ撮れたら、嬉しいって・・・・・・・・・」

「そこまで感極まって泣きそうになられると逆にこっちが恐縮しちゃうよ・・・・・・・・・」


 「もう、やっちゃうからね」とふて腐れたようにそのままドンドン操作画面を進めていき、あっという間にカウントダウンがはじまる。


 というかどこを見ればいい? どこがカメラになっているかもわからないから視線をあちこちに巡らせる。折角の初プリなんだ、気合いを入れないと。


「でもそっか・・・・・・・・・初めてなんだ」


 え?


 カシャリ。


 気をとられてしまったせいでタイミングに間に合わせられなかった。


「あ、ちょ、ちょっとま――――」


 そこからすぐに次のカウントがはじまり、気持ちが焦ってしまう。


 結局、最後まで気合いを入れたのは撮れなかった。


「あははは! おっかし~~~!」

「そんなに笑わなくても・・・・・・・・・」


 出来上がったプリクラは、自分でもわかるくらいのおかしい挙動ばかりが写っていてこそばゆくなってくる。


 ほいほい、と軽快なリズムで落書きやマーク、スタンプでデコレーションされていく。俺も誘われるままに適当に加工していく。


 下手だなぁ、失敗したなぁ、変だなぁ。ええー、いいじゃん、こうしちゃお、というやりとりを得て、出来上がったやつの一枚を手に取っても間抜けな自分にやっぱり苦笑してしまう。


でも、なんかいいな・・・・・・・・・こういうの。


「山峰さん、ありがとう」

「ちょ、だから大袈裟だってば! なに?! 

「なんでもないようなことが幸せだったとおもうんだ」

「どこの十三章のフレーズさ」

「印税十六億円相当の価値があるってことだよ。俺にとっては」

「マジいみふー。まんじー。本当は柊さんとも撮りたかったんじゃないのー?」


 それは・・・・・・・・・ちょっとやだ。


 だってあそこは人目がないし密着せざるをえない空間だ。そのせいでまたあいつはモフりたい衝動に駆られるかもしれない。


「ははは」

「あ、大上くん初めて笑ったね」

「え?」

「ゲーセン来たときもそうだったけど、今まで笑ったところ見たことなかったし」

「っ」

「マスクとったらもっとわかりやすいんじゃないかな」

「えっと、それは・・・・・・・・・」


 咄嗟にマスクに手をやったところで、ある考えが浮かんだ。


 最初は緊張していたけど、今はそうじゃない。それは彼女の人柄もあるけど、純粋に人狼だとかそういうことも不安になっていなくて。


 自然でいられたから。


 そして最近の自分のことを鑑みると、もしかしたら克服しつつあるんじゃないだろうか・・・・・・・・・と。


 だから、もう少し一歩を踏みこんでいいんじゃないか?


山峰さんにも正体を教えても。


 こんなに優しくて楽しい人だったら。陰キャの俺を受け入れて友達でプリクラを一緒に撮ってくれる人だったら。一緒にいても人狼であることを考えない、そうおもえるくらいの間柄の人だったら。


 そしてもう一つは。


「探したわよ。二人とも」


 え?


「や、やっほー。遅かったねー」

「あ、」

「ひいら――――」


 突然現れたとしかおもえない二人の登場で思考が中断された。


それだけじゃない。喋りかけるのを躊躇ってしまう。


「え、え~~~っと、さ? あ、あはははは?」


 まず、柄にもなく気まずそうな恵里奈姉ちゃんに違和感を持った。

 

「なにをしていたの?」


 そして、何故か怒っていると感じられる柊。


 そんな二人が醸しだす独特な空気。なんだか緊迫しているものとしか感じられなくて仕方なかった。



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