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50話

「いや〜、こんなところで会えるなんて奇遇だったね〜、あっはっはっは〜」


 まさかの遭遇後、ゲーセン内にある憩いスペースに移動した現在。雑談ということになったけど、まだ事情を上手く把握しきれていない山峰さんは遠慮がちに奢られた飲み物を一啜りしている。


「えっと、大上くんのお姉さんでいいんですよね?」

「そっそ。従姉妹だけどね〜。実質この子の姉みたいなもんよ」

「ちょ、やめろって」


 頭を無造作にくしゃくしゃと撫でられる。クラスメイトの前で子供扱いされるのが嫌なだけじゃない。なんというか、友達と一緒にいるとき偶然親に遭遇してしまったときにスルーしたいのと同じ心理が働く。


「私、山峰です。大上くんのクラスメイトです」

「く、クラスメイト・・・・・・!?」

「はい。今日は仲良い皆で遊びに・・・・・・」

「皆で遊びに!?」

「えっと、そんなに驚くことですか?」


 涙ぐみながら口を隠し、こちらをウルウルさせた瞳で見つめる。


 うん、どうしてそうなるかわかる。感動してるんだろう。けどやめてくれ。恥ずかしい。まさか今夜はお赤飯だね、なんて言わないだろうな。


「今夜はケーキとチキンだね、謙ちゃん」


 想像の斜め上だった。


 まさかのクリスマス規模? なんの記念日?


「山峰さん。これからもウチの子をよろしくね」

「いい加減保護者特有の思いやりでメンタル追い詰めんのやめぇや!」

「なによ。お友達に挨拶するのは当然でしょ。義務義務」

「そういう無自覚な優しさが子供を傷つけるんだよ! 明日絶対ネタにされるに決まってるんだ!」

「大上くん。イジられるだけいいじゃない。いままでのあなただったらきっとスルーされるんだから」

「フォローどうも柊! でも微妙な思春期男子高校生にもうちょっと配慮してもらえませんかね!」


 それ遠回しに空気だったって言ってるのとおなじだからね!


「いやー、柊ちゃんは優しいね。謙ちゃんにも見習ってもらいたいよ」

「というか保護者ぶるんならインスタント以外の料理つくれるようになってからぶれよ!」

「ふふん、残念でした。最近は冷凍物もできるようになったんだからね〜」

「誇れるもんじゃねえよ! お手軽さで言ったら同レベルだよ!」

「あはははは。仲良いんだね大上くんとお姉さん」


 そこからは恵里奈姉ちゃんが中心になって会話が進む。仕事のこととか学校のこととかだけど、驚いたことにまったく会話に淀みがない。


 なんで山峰さん打ち解けちゃってんの? この子のコミュ力高すぎるでしょ。そんで恵里奈姉ちゃんも普通にやりとりできてるし。


 普通初対面だったらこんな仲良くお喋なんて・・・・・・・・・。


 いや違う。


 振り返れば恵里奈姉ちゃんは柊とも初対面である程度の仲を構築できてた。俺にはできないことだ。


 まさか恵里奈姉ちゃんって以外と社交的?


 いつも家に引きこもってズボラな生活しか送っていないダメっぷりを晒していたから自然と俺と同じタイプなんだって思い込んでた。


 けど、もしもそうじゃなかったとしたら? 見習うべき人はすぐ側にいたのか!?


「そういえば二人はなにか部活入ってんの?」

「いえ、特には」

「放課後は遊びたいから無しにしてるんですよねー」

「ええ〜。部活も楽しいじゃん。同じ部員達と一緒に帰ったり汗を流したり苦楽を共にできるし」

「恵里奈さんはなにかやってらしたんですか?」

「バスケ部だったよ〜。元々スラダンにはまって」

「陽キャじゃねえか!」


 バスケ部なんて運動部の中でも人気がある人とか中心になる人が入るもんじゃん!


 「あと軽音部も幽霊部員みたいなかんじでやってたけど」


 まさかの掛け持ち!?


 しかもこれまた人気のやつじゃん! 文化祭でワーキャーされるやつじゃん!


 くそ! 裏切られた! 味方だとおもってたのに本当の敵はすぐ傍にいた!


 学生時代の思い出を語る充実してた、懐かしい、ていうキラキラした言葉一つ一つが俺の心に刺さる! 身内に刺されるとはこのことだ!


「どしたん、大上くん?」

「うう、別に・・・・・・」

「大上くんはいいとして。でも、ここでなにしてたんですか? 恵里奈さん」

「ん? 気分転換」


 隣の椅子に並べた景品をポン、と軽く叩いた。


「いや〜。仕事が一段落したから遊びたい気分だったんだけど友達と予定合わなくてさ〜」


 以外と残念な理由で草。ざまぁだ。


「皆ほとんど結婚しちゃってるし会ったら会ったで既婚者特有の愚痴聞かされて独り身のあたしはなんでだか劣等感を刺激されるからいいんだけどね。あはは」


 以外と切実な理由で草。


「恵里奈はいいよね、仕事が恋人なんだから(笑)って羨ましがられるのを笑顔で応えなきゃいけないしね」


「「「・・・・・・」」」


 く、くさ・・・・・・。


「憂さ晴らしも兼ねて昔と同じように遊んでたらあれ? あたし一人でなにしてるんだろう、周りは友達やカップルばかりなのにって軽く鬱になりそうなところで会えたから良かったよ〜。あははは〜」


 ダメだ。草生やせねえ。俺とは違う方向性のぼっち感が痛々しい。


 陽キャだった人の成れの果てってかんじ。


「姉ちゃん。今度一緒にゲーセン行こうか」

「私、欲しい服があるんです。良かったら」

「今度パンケーキ食べに行きましょ!」

「うん、ありがとう・・・・・・でも三人とも。今は優しくしないで?」


 さっきとは別の理由で涙ぐんでる姉ちゃんを慰める形に。もう少し優しくしようって気持ちになった。


「でも、謙ちゃんよかったね。柊ちゃんだけじゃなくて他にも友達できて」

「柊、ちゃん?」

「あ、」

「友達ってよりも――――」

「もしかして二人とも知り合いだったんですか?」


 俺を遮ってぐい、と身を乗り出した山峰さん。


「知り合いもなにもあたしと柊ちゃんはお友達よん。昨日もウチでご飯一緒したし。謙ちゃん経由だけどねー」

「・・・・・・へぇ」

「・・・・・・」


なんだろう。なんか嫌な雰囲気。


「なんというか、最近柊さんと大上くん仲良いなーっておもってたけどまさか家族とも知り合いだったなんてびっくりしちゃったよー」

「別にわざわざ言うことではないとおもったし話題にも出なかったから敢えて言い出すことでもないでしょう」

「そりゃそうだけどねー。でもまさかまさかだよ」


 そりゃそうだ。山峰さんだけじゃなくて他の人達にとっては俺達はつい最近仲良くなった。なのに身内とまで仲が良いなんて驚いてもしょうがない。


「そこまで二人の関係が進んでたなんてさ」


 いや、驚いてるだけじゃないな。もしかして別の意味に捉えられてる気が。特にこの子は俺と柊の関係を勘ぐって面白がってる節がある。


「関係が進むって、なにか変な意味に聞こえるよ」


 ここで柊にアイコンタクトを試みる。念を込めるだけじゃなくて激しくウインクしたり瞼を瞬かせる。


 気づいたらしい柊は、一瞬だけハッとしてコクンと小さく頷いた。


「そうよ。そのとおり。なにもおかしいことはないわ。だって大上くんだって私の妹とお母さんと知り合いなんだから」

「そうそう。そのとおり」



 ってちょっと待てぇぇえええ!!!!



「え、そうなの!?」

「いや、それは!!」


 山峰さんは隣にいた俺を強引に振り向かせる。そして距離を詰めながら追求してくる。


 柊の言い方だとお互いの両親と知り合ってて更に仲が良いと風に誤解されるだろうが!!


「違くて、柊が言ってるのは!?」

「じゃあどういう意味!?」


 なんだか山峰さんの様子がおかしい。面白がっている気配じゃない必死さがある。


「そうだよ謙ちゃん柊ちゃんのご家族に会ってたならどうしてあたしにも教えてくれなかったのさ!」


 しかも余計な人も加わってきたよおい。


 両側から詰め寄られ、あーでもないこーでもないと頭の中がグルグルしてしまう。


「あら。山峰さんどうしたというの? 私と大上くんがそれぞれの家族と仲がよかったとしてなにが問題なの?」

「そういうわけじゃないさ! でも・・・・・・」


 これ以上はまずい、そう感じて止めようとした。


「!!!」

「あら、どうしたの大上くん?」

「く、」


 膝の上に柔らかくほんのりとした重みが加わった。それが艶めかしく動くのだ。


 ツツー、ツ。ツツツツツツツ・・・・・。時に早く、ときにゆっくり。快感にも似たゾクゾクとした擽ったさを味わい、まともじゃいられなくなる。油断すると変な声が出そうだ。


「大上くん?」

「!?」


 しかも山峰さんは心配げにずいっと顔を近づけて覗き込んできた。


「ねぇねぇ謙ちゃん。柊ちゃんのお母さんと妹さんってなにが好き?」


 そしてその反対側からは恵里奈姉ちゃん。両側を女の子に挟まれ、頭がクラクラしてくる。前兆めいたものがおこりそうですらあって。




 ガンッッッ!!!



「〜〜〜〜!!」


 鋭利で重みのあるなにかが太腿に振り下ろされた。


 その衝撃が凄まじく、突然でもあったからテーブルに頭をぶつけてしまう。


「ちょ、どうしたの?!」

「く、だ、大丈夫・・・・・・」

「まったく。少しは落ち着いたらどう?」


 一人だけ素知らぬ反応をしている彼女に、こいつだと即座に察知した。


 なんだ、何をした? なにが目的でこんなことをする?


「ちょ、ちょっと、お腹が痛くなっちゃったってだけだから・・・・・・」

「ちょっとってレベルじゃなかったよ? もう限界! ってレベルだったけど」

「まだファイナルステージには至らなかった・・・・・・八十パーセントレベル・・・・・・」

「意味わかんないけどなんとなくわかった・・・・・・具合が悪いならトイレ行く? 私と付き添うけど」


 純粋で優しい山峰さんはそんな風に気遣ってくれた。申し訳ないけど、このまま嘘を通してトイレで隠れたほうがいい。


 いつまた人狼化してしまうかわかんないし、なにより今の柊と一緒にいるのは危険だ。


なぜだかもなにをしているのかも不明だけど、俺が人狼化してもおかしくないことを確実にしている。


 まさかこの状況で特訓?


「ああ。そうだね・・・・・・ちょっと痛さのボルテージが下がってきたから今のうちにーー」


なにはともあれ、今が好機。



ツツツツツツツー・・・・・・。


「ぐう、な、おう!?」

「本当にどうしたの!!」


 また膝の上の動きが再開した。


 しかもさっきより巧みで、より激しい。


「だ、だいじょ、んんん!! ふぐ、おう!」


ダメだ、俺じゃもうどうしようもない。こんなときこそ保護者の出番だと視線で助けを求める。


「あ、ふぅ〜ん」


 けど、恵里奈姉ちゃんはニヤニヤしてた。


 なんでだよ!! 保護対象が苦しんでんだぞ! 普通なにかあったって心配する場面だろが!!


 面白がってるようにしか見えねぇぞ!


 あんたの従兄弟が人狼だって秘密がばれるかもしれないんだぞ!

 

ドクン!


「!」


ガタン!!


「お、俺トイレ行ってくるうううううう・・・・・・!」



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