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39話

「ああやって説明したほうが良いとおもったの」

「へぇ〜・・・・・・」

「仮に一緒にいるところを目撃されても不思議におもわれないでしょ?」

「そうですね〜・・・・・・」


 ツンとすましている柊の隣にいるだけでテンションが下降し続けている。


 あれから山峰さんはホームルームが始まるまでずっと興奮した様子でどういうことか聞きまくってきた。クラス中の生徒達の色めきだった内緒話と嫉妬の視線は授業中でもおかまいなし。


 こうして廊下を歩いているだけで好奇の視線に晒され続けているのを考慮すると、学校中に広まっているんじゃないだろうか。


 だけど、こんな状況を作り出した張本人は悪びれることもなく、ただ淡々としている。


「こうして人々の意識が向くことなんてなかったでしょう? それであなたのメンタルも自ずと鍛えられるはずよ」

「ああ、さようですか」

「ずいぶんとご不満ね。しょうがないじゃない。あのときはあのときはあれしかアイディアが浮かばなかったの」


 だからって、もっとマシなごまかし方もできただろうに。あんな言い方じゃあ絶対勘違いされるだろ。


「むしろ追い詰められながらもチャンスに変えられた機転を褒めてほしいわね」

「だからって」

「山峰さんとなにを話していたの?」

「唐突に話題変えるなよ!」

「過去を悔やんでも未来に得るものはないのよ」

「悔いなきゃいけないのお前だよ!」

「なに? 人には話せないことだったの?」


 いやにしつこい柊に、諦めがついて溜息をつく。


「なんでもないことだよ。髪の毛切った方がいいとかマスクも外したほうがいいとか。それでなんでマスクいつも付けてるのかって」

「・・・・・・どうして?」

「そうしたほうが印象変わるとか」

「そう。お節介ねあの子」

「というより、単に面白がってるだけなんじゃないかな」

「それで、切りに行くの?」

「ん〜〜〜〜〜〜・・・・・・微妙」


 どういうことよ、とばかりにブスっとした。


「美容院に行くのがこわいし、店員さんとなに話せばいいのかわからないし。そもそもマスク外さないといけないだろ」

「あなた、人狼以前にマスク依存症になってない?」

「とにかくさ。アドバイスされたことはありがたいけど実行するのは難しい」

「たしかにまだあなたには無理でしょうね。なんだったら私が一緒に・・・・・・あ」

「?」


 考え事をしているような、おもいつめた表情を暫くしていた柊が、こちらを向く。


「なら、私が切ろうかしら」

「は?」

「私なら多少慣れているから緊張しないんじゃなくて?」

「それはそうだけど・・・・・・お前髪切ったことあるの?」

 

 なんだか柊のイメージと上手く結びつかない。だって普通人の髪の毛を切る女子高生っていないんじゃないか?

 

 どちらかというと不器用で失敗と調整を繰り返された挙句、悲惨な髪型になりそう な・・・・・・。


 うん。どっちかといえばすげぇありえそう。めっちゃ不安。


「妹の毛先を整えたり少し短くするくらいなら普段からしているけど」

「マジで?!」

 

 急に大声を出したのがうるさかったのだろう。左耳を塞ぐ動作をしてムッとされた。


「悪い。でもそうか。なら安心かな」

「どういうことよ。それに、昔はよくトリーミングしていたし」

「トリ、なに?」

「ペットの毛のお手入れ。カットしたり抜いたりするの」

「へぇー、なるほど・・・・・・ってちょっと待て」

「じゃあ今日の放課後早速――――」

「待てって言ってるだろ! こら! お前やっぱりまだ!」

「それに、今後のことも相談しないといけないし。家なら人目も気にしなくていいでしょ」

「人の話聞く気配見せろ! 俺がなに聞こうとしてるかわかってるだろお前!」


  足を早めた柊の背中を追い詰める。こんにゃろ、やっぱり俺を犬扱いしたいのか!?


 ちょっと怒り心頭気味だったために、すれ違う生徒とぶつかりそうになりながら追いすがり、もう少しというとき。


「あ、」


 思いもかけなかった人物と遭遇してしまった。


「藤田・・・・・・」


 ヤバイ。カラオケでの一件以来、遭遇してなかった。柊にしつこく告白していた藤田が、こんなときに柊と会ったら。


「あ、やぁ大上くん。柊さん」


 え?


「おはよう・・・・・・元気? カラオケではごめんね・・・・・・」


 虚ろな目で乾いた笑みを浮かべられる。よくよく見るとげっそりと頬が削げていて生気がない。しょぼくれた表情は整った顔立ちに陰が走っていて、悲愴さを醸し出している。


「柊さんも・・・・・・久しぶり。体調崩したって聞いてたけど」

「・・・・・・」

「あ、ごめんね。俺なんかが知る権利ないよね」


 少し警戒していた柊も、どうしたことだろうと不審がって互いに顔を見合わせる。自信に溢れていたイケメンぶりは見る影もない。どちらかというと廃人だ。


「じゃあ・・・・・・これで」


 頼りないゆっくりとした足取りでそのまま明後日のほうへと去っていく。暫く彼の背中を見つめていたけど、すぐに雑踏に紛れて見えなくなってしまった。


「山峰さんが言ってたわね。カラオケの後、皆から絞られたって」

「・・・・・・」

「それとすぐに噂が広まってクラスの女子達からも総スカン。罵詈雑言を浴びせられているらしいわ」

「そ、そうか・・・・・・」

「あとクラスのグループチャットでも広まっているんですって。彼のSNSも荒らされて実名で注意喚起されてるらしいわ」

「えげつねぇな?!」


 やりすぎともいえることをされ続けて、流石の藤田も懲りたってことだろうか。なにか復讐されるとおもって身構えてたけど壮大な肩透かしを味わったよ。


 自業自得。そんな言葉がふさわしいのかもしれないけど、なんだろう。ちょっと哀れだ。


「とにかく。これでもう彼も私に付き纏ったりしないでしょうね」

「まぁ・・・・・・柊には喜ばしいことだよな」

「あなたにとってもじゃない」

「え?」

「彼が告白してきたりしなくなったってことは邪魔される心配をしなくてすむってことだし」

「あー。たしかに」

「・・・・・・邪魔っていうのは私達が二人でいる時間、それに伴う体質改善のことよ。勘違いはしないように」


 ? なにを勘違いすると?


「ああ。わかってるよ」

「・・・・・・」


 え、なにその反応? なんで不満げ?


「なんでもないわ」


 なんだろう。最近、笑顔を見れるようになった。それと同じように怒ったり不機嫌な姿もチラホラ見る頻度も多くなっているような?


 なんでそうなっているのか皆目見当もつかない。なにかしたのか? なにかあったのか? と実際今も悩んでしまう。


 でも、何故か嫌じゃなかった。


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