38話
クラスに到着して何人かが気づいた結果、クラスメイト達が柊を囲む。
珍しく病欠した柊を心配してのことだけど、彼女を取り巻く人達がひっきりなしだ。時折捌けて、また人が集まってを繰り返して留まることがない。
外野からそんな様子を観察しているとやっぱり柊と俺はちがうんだなぁ、と苦笑が零れた。
「や、どうしたの? しょぼくれてさ」
「おはよう山峰さん」
朗らかに微笑みながら机の前までやってきた彼女は、そのまま前の机に腰掛けた。視覚的に太腿が目の前に飛びこんでくる光景に。
「? どしたの?」
「いや。山峰さんは柊のとこに行かないの?」
「私は昨日お見舞い行ったからねー」
直視することが憚られて、視線を別方向へ。
「ああ、そういえばそうだっけ。俺とタイミング合わなかったけど」
「ねー。でも昨日本当にトイレにいたの?」
「え、いたけど」
「ふぅーん? おかしいなぁ。私帰るとき、一応声かけたんだよね」
「っ」
「でも返事なかったし、それに誰も入ってなかったし。もしかして――――」
「そ、それって別のトイレだったんじゃない?! 柊の家って一階と二階と一つずつトイレあるし!」
「あ、そうなんだー。へぇー」
危ない・・・・・・・・・・・・もしかしたら俺が柊のベッドで隠れていたのがバレるところだった。
「具体的に何階のトイレにいたの?」
「えっ」
まさか疑われてる?
「そんな私のどこが好き? って彼氏に聞いてくる彼女の質問と同じくらいどうでもいいことは放っておいてさ!?」
「どうでもいいっていうかめんどいがってるよね?」
「山峰さん最近俺に話しかけてくるよね?! なんで!?」
「ん~~~。なんでって、今まで関わりなかったけど一度遊んだし。だったら普通に話したりするでしょ?」
そうかな? 俺は別にそこまで他人と関わったり興味持ったりしないんだけど。
逆に一回話しただけで凄い親しげにされるとキモがられるんじゃって不安に・・・・・・・・・・・・
あ、こういう発想がダメなのか。はは、根っからの陰キャなんだな、はは。
「でも、山峰さんといつも一緒にいる人達とタイプ違うじゃん」
「そりゃあまぁそうだけど。でも仲良くなるなんてそんなきっかけじゃん? 今まで話したことなかったけど、話してみたらあれ? 全然おもってたのと違う~~~。みたいな?」
これは、彼女独自の感性か性格なんだろうか。それとも普通なんだろうか。どちらにしろ、俺には縁がなかった考え方だ。
なんにせよありがたい。柊以外と上手く話せない俺にも気軽に明るく接してくれてるし、なによりなんだか話しやすい。想定していた気まずさはなくて、あれ? 本当に柊が言ってたみたいに慣れてきてるのかも? と自信が強くなってくる始末だ。
「凄いなぁ。俺はそこまで勇気出ないよ」
「勇気って。そんな大袈裟な」
「今まで挨拶したことなかったのにいきなり挨拶したらドン引きされるんじゃないかとか話かける内容どうしようとか気になる」
「ネガティブだなぁ・・・・・・・・・・・・」
「いざ決意しても、夜も眠れなくなるレベルだよ」
「小心者だなぁ・・・・・・・・・・・・」
「それで、結局話しかけられなくて家に帰って落ちこむんだ・・・・・・・・・」
「どんだけよ! でもこの前一度カラオケ来たし、柊さんとも話してたじゃん!」
「あのときは・・・・・・・・・・・・偶然だよ。多分一生分の力使った。痣が出るくらい」
「ぷ、あはははあ! え、なに? 唐突に鬼滅? 呼吸法使えないとダメじゃん! あ~~~、おっかしい!」
山峰さんが何故か笑いだした。それに伴って周囲からなんだ? という視線がいくつか集中する。うう、キツい。俺と山峰さんが話してるなんて今までなかったし、珍しがられるのはわかるけど。
「はぁ~~~・・・・・・・・・大上くんと話すと面白いな~~~! そっか~~~」
少しドキッとした。
「柊さんとのお見舞いにも来てたし。あ、ふぅ~~~ん」
今なに察した?
「だったら、見た目から変えてみれば? 髪の毛整えるだけでもそこそこイケるとおもうよ?」
それ、昨日も柊に話してたな。そこそこってどのレベルなんだろう。
「見た目変えるってなにか関係あるの?」
「人って第一印象が大切だからね~~~。モサモサ髪の暗い雰囲気の人から突然挨拶されるのと清潔感ある人に突然話しかけられるのと全然違うさー」
それ、直接的に俺のことモサモサ髪の暗い雰囲気の人って言ってるよ?
いや、事実だけどさ。
「うう~~ん。そうか・・・・・・・・・・・・でも美容院行ったことないし。なんだか恥ずかしいし」
「プッ。どんだけよっ。ちょ、ウケる!」
この人は笑いのツボが浅いのかな。
笑いが止まらなくなっている山峰さんが落ち着くまで、何気なく視線を変えると、あることに気づいた。
柊がこっちを見てる。
というか睨んでる。
目が合った途端、目つきが鋭くなった。
「じゃあまずはマスクを外すところからやってみたら?」
話に気づいて、意識を山峰さんに戻した。
「・・・・・・・・・・・・・・・うう~~~~~ん・・・・・・・・・・・・」
「なんでそこ悩むの?」
「だってマスク・・・・・・・・・マスクかぁ・・・・・・・・・例えるなら・・・・・・・・・・・・そうだな。山峰さんはお化粧してなくて鼻毛ボーボーの状態で人前に出れる?」
「え、そんな恥ずかしいレベルなの?」
「それにもう長い間付けてるから、ないと違和感あるんだよ。体の一部なかんじ。ダースベイダーの生命維持装置とマスクみたいに」
「命に関わるレベルじゃん・・・・・・・・・・・・どんだけよ・・・・・・・・・・・・」
「いや、でもマスク付けてると花粉症も防げるし風邪もインフルエンザも予防できるし」
「夏とか息苦しいでしょ。そもそもなんでマスク付けだしたの?」
「それは・・・・・・・・・・・・」
「ねぇなんで?」
俺が人狼だってことと大きく関わっているから、いざ事情を知らない人に説明すると想定外だから困ってしまう。
「?」
どうしよう。
「そんな私と仕事とどっちが大事なの! って怒ってくる女性と同じくらいどうでもいい質問はおいといてさ」
「君やっぱりめんどうだっておもってるってこと!? 失礼だな! なにがなんでも教えてもらわなくちゃ気がすまなくなってきた!」
ヤバい。やぶ蛇だった。
眉間に皺を寄せて唇を尖らせる仕草は子供っぽいけど、意地でも聞きだす! という意志の強さを感じる。その証に机から下りて前のめり気味に仁王立ちする始末だ。
どうしよう・・・・・・・・・・・・上手い言い訳がおもいつかない。
そんな焦った心情からあたりをきょろきょろと見回す。
あ、また柊がこっち見てる。
!? 凄い怒ってる?!
柊の周りの人達も困惑してるレベルだぞ!
なに!? なんで怒ってるの!?
いや、待った。柊に事情を説明して助けてもらえないか!?
「ねぇなんで!? なにか理由でもあるの!?」
「え~~~~~~っと、それはね?」
適当にはぐらかしながら、こっそりと机の下で高速タップ。今までにないくらいレベルで指を酷使する。
【題名 ヘルプ 本文 もうそろそろ限界。助けて。山峰さんに人狼化しそう】
画面を見ていないからこんな簡潔な文章しか送れないけど、なんとかなるか?
「いざ話すとしょうもないから恥ずかしいからさ・・・・・・・・・あははは」
「んんん~~~~~~~?」
そうやって曖昧に対応していると、携帯が震えた。
! もう返ってきた! 早いな!
【差出人 恵里奈 題名 帰りに唐揚げくんと期間限定のアップルティー買ってきて~~~】
くそがっっっっ!!
なに人が危機的状況に陥ってるときにパシろうとしてるんだあの人!!
しかも本文書いてねぇし!
「どうしたの? ガンバレルーヤみたいな顔して」
「いや。ただのチェンメだった」
「そんなことよりさっさと――――」
「待った!」
間髪入れず、また携帯に通知が。今度こそ柊か?
【やっぱりピーチティーがいいな。ルイスボトルの】
「あのやろうおおおおおお・・・・・・・・・・・・!」
「本当にどうしたのさ!」
「ちょっといいかしら」
そんなやりとりをしていると、ようやく待ち望んでいた人物がやってきてくれた。
よかった。
「あれ、柊さん?」
「二人とも、なにを話しているの?」
「なにって、別に普通のことだけど」
「それにしてはなんだか山峰さんの様子がおかしかったわ。さっき凄く笑っていたのに、今は大上くんに怒っているし」
「別に怒ってるわけじゃ・・・・・・・・・・・・」
おお、いいぞ。どうやってこのまま話を終わらせるつもりかわからないけど、柊のこと。きっと上手い具合に持っていってくれるはず。
「あまり大上くんを虐める真似はしないほうがいいわ。彼、コミュニケーション能力が大豆製品並に低いから。普通の人なら造作もない会話でも苦痛なのよ。マンボウ並にくそざこなの」
庇うためとはいえ、酷くないか?
「へぇー。でも私とは普通に話せてるっぽいけど? ねえ大上くん?」
え、俺?
「それはあなたの思い込みよ。ねぇ大上くん?」
だから俺? やめて答えづらい。
「というか、柊さん大上くんのことなんだか詳しいっぽいね? ねぇ大上くん?」
だからなんで俺? 挟まないで。一々俺仲介しないで。
「そんなことないわ。客観的に見ていた結果よ。ねぇ大上くん?」
だからなんで俺!! すぐ真正面にいるだろ会話の相手が!
挟むな俺を!! お前何しに来たん?!
「へぇ~~~? ほぉ~ん?」
「なに? どうかしたの?」
「べっつに~~~?」
ニヤニヤとした笑いは、なんだか面白がっているようで、そこはかとない既視感が。
! 思い・・・・・・出した!
山峰さんは俺と柊の関係を疑ってる! 付き合ってるんじゃないか、好意があるんじゃないかって!
まさか柊が助けに来てくれたことが却って墓穴を掘ることに?!
「でも、そうね・・・・・・山峰さんの言う通りよ」
「えっ?」
え? 柊?
「ええ、そのとおりよ。昨日お見舞いに来てくれたし。それだけじゃなく――――」
チラッと一瞥してきた瞳に、一瞬怪しい光がきらめいた。
なにか意味深な気配が・・・・・・・・・。
「今日も登校を一緒にした仲だし」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
柊さん?
「それに今日もお昼一緒にする約束したし」
・・・・・・・・・してないよ?
「それに今日も一緒に帰るのだし」
え、そうなの?
「え、そうだったの?」
こっちに確認するように見てくる山峰さんに、逆に聞きたい。
「ええ。マジ。本気と書いてマジ。大マジのマジよ。当然でしょう」
長い髪の毛を軽く払いながら、なんともなしに言ってのける。俺達を置き去りにして。
「私達、そういう関係だもの」
一瞬の隙間のような静寂。驚愕。黄色い声。憤怒。嫉妬。次第に激しさを増す視線、ざわつき。すべて俺達へと向けられたものだ。
「だから、当然でしょう」
とんでもないことを暴露した柊は、何故かドヤり気味。対する山峰さんは目を輝かせている。
(こいつアホか?)
そして俺は天を仰いだ。




