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27/62

27日

あれからカラオケどころではなくなって、柊につれだされる格好で帰宅の途についた。日が暮れかけている小道は寂しいほどの哀愁に染められている。


「大上くん。大丈夫?」


 深刻そうに尋ねられるのは何度目だろう。その度にすっかり体調は元に戻っていると説明しているのに。しつこいくらいだ。


「俺はなんともないって。それよりそっちはどうなんだ?」

「私は別に。手首を少し掴まれたくらいだから」

「それも心配だけど。明日からのことだよ」

「?」

「学校でなにがあったって聞かれるんじゃないか。山峰さん達に」

「あなたって・・・・・・。どうして人のことをきにしているの。それどころじゃないでしょう。あんなに危ないことするなんておもってなかったから余計驚いたというのに」


声 は呆れているというかんじなのに、今にも泣きだしてしまいそうな表情、眉間と頬の辺りに皺ができている。顔立ちが整っているから悲壮さが見える。


「あなたがあんなに無茶するなんて・・・・・・」


 無茶。喧嘩に発展しそうだったことを言ってるんだろうか。それとも自分で人狼化しそうになったことだろうか。


「いえ。違うわね。私のせいだわ。ごめんなさい」

「柊が謝ることないって。俺が勝手にしちゃっただけだし」


 神妙になって謝罪してくる柊はすっかり気分が沈んでいるんだろう。暗い陰が張り付いているけど、それでも不思議と絵になる美しさが損なわれていない。


「私がそもそも大上くんをカラオケに来るよう仕向けなければこんなことにはならなかったのよ・・・・・・」

「ああ、やっぱりか」


 なんとなくそうだっておもってたけど、理由がわからなかった。まさか自分から白状してくるとは。なんだか笑ってしまう。


 なんで笑うの? とばかりに小首を傾げられる。


「恵梨奈さんにも謝らないと」

「は!? なんでだよ!」

「だって大切な家族を怪我させてしまったのだし」

「柊が殴ったわけじゃないからそんなことしなくていいって!」

「でも――――」

「あの人はきっと怪我して帰ってきても怒りゃしないって! なにがあったんだーって興味津々で目を輝かせながら面白そうに聞いてくるだけだから!」

「でも――――」

「俺が勝手にしちゃったことなんだから!」

「・・・・・・大上くん。一つ聞かせて。どうして助けてくれたの?」


 目の奥、本心を視覚で読みとろうとしているかのように、真剣にジッと見つめてくる。


「・・・・・・よく覚えてない」


 自分でも本当にそうで、納得できていないんだから、曖昧な説明になっても仕方がない。なんであんなことができたのか今でも不思議だ。


 怒った理由も柊を守ろうと動けたことも、振り返ってみても思い至らない。


 一番当て嵌まるとしたら、体が勝手に動いていたってことに近いんだけど、より曖昧すぎからど説得力がないだろう。


「それじゃあ納得できないわ」

「・・・・・・なら柊はなんで俺を庇ったんだ?」


 入れ替わりみたいに、今度は柊が悩み出した。苦悶に似た表情は、悲痛に満ちている。


「あのときはあなたが人狼化しそうだってわかって・・・・・・無我夢中で・・・・・・」

「うん。それと一緒だ。だから柊が変に恩に感じたり罪悪感を抱く必要ないんだよ。一番悪いのは藤田だし」

「・・・・・・・・・」

「それに柊にそんな風でいられるのは、なんか嫌だ」

「なによそれ・・・・・・」

「らしくないってことだよ。まぁ、お互いさまってことでいいんじゃないかな」

「あなたは・・・・・・本当に・・・・・・」


 力が抜けていくように大きく脱力したのか。肩が下がって泣きだしてしまいそうになっている。


 だけど必死で堪えようとしているのか、いつ決壊してしまうかわからない、複雑としか例えられない表情。


 そんな柊を見ているのが無性に嫌になってくる。


 心臓が早鐘を打っているように忙しなくて。


 隣にいるだけで焦れったくて。むずむずと痒くなってくるようで。


「あ! そうだ! 今日俺んちカレーだから早く帰らないと!」

「え?」

「じゃ、じゃあまたな!」


 耐えることができず、柊を置き去りにして颯爽と駈け去ってしまった。


「おかえひー。早かったねー」


リビングを通ると、恵梨奈姉ちゃんが店屋物の蕎麦を啜っている。呑気だなぁ。


「どだったのー? デート」

「!」

「お? その反応。なにかあったんだね?」

「う、うるさいな!」

「まぁまぁ照れない照れない。ちゃーんと謙ちゃんの分あるから食べながら教えてくーれーよー」


ちょ、うぜぇ。肩を抱き寄せながらほっぺたをグリグリと抉ってくる。


「なんだぁ? あたしの蕎麦が食えないっての? ええ?」

「なに酔っ払いみたいな絡み方! 別になんでもないし!」

「なんでもないなら話せるでしょー。ぶぅー。あたしは保護者だから謙ちゃんのことをきちんと把握しておく義務があるんですー」

「実の親にだってそんなこと話せるわけないだろ! デリケートな男子心わかれや!」

「んー。じゃあ柊ちゃん本人に聞いてみよっと」

「ちょ、やめろぉお前ええ!」

「そんでおじ様おば様に報告しよっと」

「やめろぉぉお! 人を弄ぶなあああ!」


  携帯を取り出したりそれを防ごうとしたり。わちゃわちゃとしたやりとりが巻き起こる。


「けけけ、貧弱貧弱ー。人狼化してもいんだよー?」

「はぁ、はぁ・・・・・・この――――」


 決着がつかない争いは、子供の追いかけっこに似ている。悪戯小僧そっくりで憎たらしい。


 なんとか勝負を決めようとした瞬間、携帯が震えた。


 場にそぐわなかったけど、なんとなく気になって画面を開いてしまった。


【ありがとう】


絵文字もスタンプも簡潔な文章は飾りげがなくて送信者をそのまま現している。内容は彼女らしくないから、ギャップが凄まじい。


 けど、なんでだろう。じんわりとした温もりが胸の中で広がっていく。、


「どったの? 頬が緩んでるよ?」

「!」


恵梨奈姉ちゃんのニヤニヤとしたニヤつきはすべてを見透かしているようで、面白がっているようで、負けた気持ちになってしまう。


それを素直に認めるのが悔しかった。


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