25話
あれよあれよという間にカラオケボックスへとやってきてしまった。
皆慣れた様子で選曲し、注文した食べ物を摘まみながら談笑、歌っている奴を持て囃していて明るい空気になっている。
そんな中でぽつんと一人だけで過ごすしかない俺。
孤独。圧倒的疎外感。
学校でも同じくいてもいなくても同じ。自分でも空気と同化してるんじゃないかってくらい。
はは、すっげぇ場違いすぎて自嘲しちまうぜ。
でも、こういうときどんなテンションで過ごしていいかどんなかんじで会話に加わっていいかわかんないし。
というか話しかけてもいいんだっけ? どうやって話しかければいいんだろう? やばい吐きそう。
「ごめん。ちょっといい?」
話しかけられた!
緊張と期待が一気に押し寄せてビクついたけど、なんとか落ち着かせながら応えようとしたけど、相手は中々話しだそうとしない。なんだか困ったような仕草をしている。
それから手に持っているコップに気づいて。
「あ、ごめん・・・・・・・・・」
そのままちょっと横にずれて通り道を作ると、そのまま部屋の外へ。
・・・・・・・・・恥ずかしい。
勝手な勘違いをしてしまって熱くなっていくけど、誰にも気づかれていないのがせめてもの幸いか・・・・・・・・・。
うう、もう帰りたい。
きっとこのままここから消えても誰も気づかないだろう。いっそこのまま――――
♪~~~♪~~~♪
「おお~~~、いいねぇ~~」
歌声に、意識をとられる。
凛とした佇まいに綺麗な歌声。派手な歌い方じゃないけど、芯があって聞き取りやすい。完全に把握しているリズムとイントネーション。息継ぎなんてかんじさせなくて周囲を盛り上げる曲調に周囲も聞き惚れて感心している。
柊の歌う番だったのか・・・・・・・・・。
表情は真剣だけど、どことなくリラックスしている。歌っているのが気持ちいいかのようだ。
やっぱり柊は美少女なんだなって再認識してしまう。カラオケでさえ完璧なんだから。
「ねぇ、大上くんは歌わないの?」
「!?」
一体いつ隣に移動していたのか。山峰さんがすぐ側にいた。
「い、いいいいや。俺はまだどれ歌おうか悩んでて」
慌ててデンモクを持って画面を見せる。
「へぇ~~~。あ、これなんかいいんじゃない?」
急に身を寄せて画面を覗きこんできたものだから、心臓が高鳴ってしまいそうになる。
「大上くんてカラオケどんなの歌うの?」
「いや、俺カラオケ来るの久しぶりで・・・・・・・・・ははは」
「そっか~~~。一人カラオケしたりもしないの?」
気を遣ってくれているのか、積極的に話しかけてくれる。良い人だ。凄く良い人だ。下手すれば泣きだしそうになるほどホッとしてしまう。
キイイイイイイイイイイン!!
「!!」
「ごめんなさい。このマイク、ちょっと調子が悪いみたい」
急なハウリングに背筋がゾクゾクした。
「あ、なんだったら私とデュエットしてみる?」
「え!?」
「大上くんそのほうが歌いやすいんじゃないかっておもったんだけど、嫌?」
「い、嫌じゃないけど。なんで?」
「ん~~~。大上くんまだ一回も歌ってないからもしかして遠慮してるのかな~~~とか無理させてるかな~~~って。ほら。流れで一緒に来たけど学校だとあんまり他の人と一緒にいないじゃん?」
「っ」
「どうせだったら楽しんだほうがいいんじゃないかな~~~ってさ」
良い人・・・・・・・・・! とてつもなく良い人だ・・・・・・・・・!
俺なんかのことを気に懸けてそんな提案をしてくれるなんて。
柊とは大違いだ。山峰さんの爪の垢を煎じて飲んでほしいくらいだ。一リットルほど。
キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!!!!
「~~~~~~!!」
「やっぱりこのマイクおかしいわね。山峰さん。受付にいってマイクを交換してきてもらえる?」
「え? うん、いいけど・・・・・・・・・」
顔を見合わせると、舌をペロッと出しながら失敬とばかりに手を顔の横に立ててそのまま去っていってしまった。
・・・・・・・・・なんだろう。作為的ななにかを感じた。
柊はフン! とでも言いたげな態度で顔を背けた。
「おい。お前」
「え」
「ちょっとそっち詰めろ」
許可も出していないのに少々乱暴気味にどっかりと座りこんでくる。半ば圧される形で隣同士になった。
どこかで会ったことあるような見覚えのあるイケメンだけど・・・・・・・・・。
「お前、本当に柊となんでもないのか?」
「え?」
「さっき店で叫んでただろ。全然興味ねぇとかどうとか」
「あ、ああ・・・・・・・・・」
それがなんだっていうんだろう? どうしてこいつがそんなことを聞いてくる? しかも睨んできてるんですけど。
「本当に本当か?」
「そうだけど・・・・・・・・・」
「命懸けられるか?」
ちょ、しつこい。なんだこのイケメン。
「どうしてそんなことを?」
ジッとなにかを値踏みされているような目つきをしていたかとおもうと、フッと小馬鹿にした笑みを浮かべた。
「まぁお前みたいな暗い陰キャがあいつと付き合えるわけねぇよな。俺だってフラれ続けてるんだからな」
フラれ続けてるって・・・・・・・・・・・・。
「あ」
思い出した。
だいぶ前、柊に告白していたイケメンだ。そのとき俺は柊にバレてしまったんだ。
そうだそうだ。なんだか懐かしいな。柊と一緒にいる時間が濃くてつい忘れていた。
あれ? じゃあこいつのせいなんじゃないか? 俺が柊にモフラれているのは。
「まぁそういうことで。本当に偶然遭遇しちゃったってだけだよ。そうじゃなきゃ、俺が柊なんかと――――」
つい無意識に。チラッと柊のほうを向いてしまう。皆に囲まれながら控えめに楽しそうに談笑している姿は、別世界の人間、
「話せることなんてないよ」
半ば自分に言い聞かせるように。
そのとおりなんだ、本当に。
特別なきっかけがなければ、俺達は赤の他人のままだった。
クレイジーにモフモフを堪能している柊が当たり前になりつつあるけど。本来の彼女はああなんだ。どこにいても人の目を惹いて誰からも好かれる。異性にモテて、一般人とは一線を画している、高嶺の花。
うん。本当ならそれが当たり前だ。当たり前だけど。
なんだか寂しいような?
「けど、柊と一緒に飯食って映画の感想で盛りあがってたのは許せねぇけどな・・・・・・・・・しかも休日になんてよ・・・・・・・・・」
ちょ、しつこい。
「つぅかお前ごときが柊を好みじゃねぇなんてほざいてたのも許せねぇよ。あいつがどれだけの奴にモテてるかわかってんのか? あ?」
そうだ。この人一年生の四月から週に一回は告白してるくらいしつこいんだった。
ちょ、なんだかこわい。柊が断り続けてるのもわかった気がした。
誰か助けて。
柊とバッチリと視線が交錯する。
頼む。助けてくれ。
目にありったけの力と願いを託す。どうか応えてくれ気づいてくれ、と念も一緒に。アイコンタクトを必死に続ける。
「ああ、どうぞ」
そう言って渡してきたのはケチャップの容器だった。
そうじゃねぇよ!
「? もしかしてこっち?」
今度はマヨネーズだった。
違う! 別にポテト食べたかったわけじゃねぇ!
「くそが・・・・・・・・・わざわざ柊にマヨネーズを寄越してもらうだなんて・・・・・・・・・!」
そんなことで嫉妬すんなよ! 瞳孔開いてるぞ!
「そんなに羨ましかったか!? なら上げるよどうぞ!」
くそ、火に油を注ぐ結果になってしまった。
ポテトをサクサクと貪っているけど食べ終わればまたしつこい追求が待っているだろう。
「ちょっとトイレ行ってくる」
「あ、おい待て!」
颯爽と外に出て、そのまま部屋から離れた。




