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23話

映画の鑑賞を終えてファーストフード店で遅めの昼食をとりながら談笑とは決して呼べない会話をぽつりぽつり。ただでさえ低いテンションの二人だから短い会話が途切れるたびに重い空気が際立ってしまう。


 お互い努めて触れないようにしているけど、映画館での一件が尾を引いているのはあきらかだ。柊もそんなことなかったようにいつもみたいに振舞っているけど、なかったことになんてできない。


 柊があんな風に恥らうところ初めて見たから、普段とのギャップもあって記憶に焼き付いてしまっている。


「これからどうしましょうか」

「柊はしたいこととか行きたいところないのか?」

「・・・・・・」

「柊?」

「解散でもいいとおもうけど」

「え?!」


 悩んでいた素振りが一瞬だけ見えたから、意外な返答に驚きすぎた。


「これ以上一緒にいると、あなたに負担をかけるでしょう」


 負担。涼しげな表情でこともなげに言ったけど、どういうことだ?


「大上くんの目的を蔑ろにして自分を優先するほど身勝手ではないしね」

「目的?」

「今日私を誘ったのはそのためだったんでしょう」

「???」

「私も最初は不安だったわ。今の今まで人狼化していないからホッとしているけど。でも、これ以上は――」

「 ・・・・・・ああ~・・・・・・」


 そういうことかと話の途中で合点がいった。


 柊が今日来たのは隙を窺って俺でモフろうとしていたからだとおもってた。


 けど、そうじゃない。誰かと一緒に出掛けて、人が大勢いるところに来て馴れさせる。


 体質を改善させるため。簡単に人狼化しない訓練が目的だと。


 けど、なんにしてもどちらにしても意外なことに変わりはない。


「ただでさえインドアなのだから一日中外で過ごすと疲れてしまうでしょう」

「おう・・・・・・」

「疲労からストレスが溜まってしまうかもしれないし。だから今のうちに解散したほうが賢明でしょう」

「そ、そうか。ありがとうな」


 自分が満足するためじゃない。俺への気遣いなんだとようやくわかって照れくさくなってくる。


 今日は一日中、それとなく警戒してたけど、 そんな必要なかったんだな。


 けど、振り返ってみると今日人狼化したことは一度もない。


 普段だったら一人で買い物行くときも出掛けるときも不安で、人狼化しそうな兆候は何度かあったのに。それすらもだ。


 もしかして、功を奏したっていうことだろうか。


 だったら。最初から善意で協力してくれていた柊に悪いことしたような。


「俺はまだ大丈夫なつもりだけど」

「無理なんてしなくてもいいわ。今日で最後というわけではないし」


 疑念がすっかり掻き消えたからか、このまま終わってしまうのがもったいないと感じてしまう。


「それに私もこれ以上一緒にいると・・・・・・」


 もしかして、用事でもあるんだろうか?


 なら引き止めるのも付き合わせるのも気が引ける。


「我慢できなくなっちゃうから」

「・・・・・・」


 やっぱりかい。


 それかい。感心してたのにがっかりだよ。


「どうかしたの?」


 おもわず座りながらズッコケたけど、それについて説明する気がおきない。


「それとも、あなたはなにかしたいこととかまだあるの? なら私も――――」

「いや。いいや。解散しよう。うん。そうしよう」

「かまわないけど、急にどうしたの?」

「なんでもない。ご心配ありがとう」

「・・・・・・そう」


 なんだかシュンとしてるけど、もしかしてなにかよからぬこと考えてなかったか?


「今日はありがとな」


 一応勘違いとはいえ、俺の事情に付き合ってもらったのだからお礼を伝えておかなきゃいけない。


「お礼なら今後返してもらうからけっこうよ」

「しなきゃよかった・・・・・・・・・! お礼なんて!」


 絶対無茶なことを要求されるに決まってる・・・・・・・・・!


「なによその反応。そもそも私は今日あなたのこともモフモフのことも考えないで休日を過ごすつもりだったの。そうして精神を落ち着かせるのと同時に心の安定をはかる。けど気持ちを昂ぶらせることも疎かにはしない。自制と欲求の二つのバランスをとっていたのよ」

「今までそんな複雑な修行みたいなことしてたのか!?」

「そうしなければ存分にモフることなんて楽しめないわ。自我を喪ったモフラーはただのモフリストよ」

「モフラーってなに!? モフリストってなに!? テロリスト的な造語!?」


 俺からすればこいつも充分モフリストだけどな! いつも自我があるとはおもえないけどな! 


「だけど、今日あなたと会ったことでそのバランスが崩れてしまった。これでは精神のバランスを保つことは不可能。明日を無事迎えることはできずモフモフへの欲求が高まりすぎてしまうわ・・・・・・・・・」


 なに? 煙草とか酒とかの禁断症状? じゃあもうこいつただのモフモフジャンキーってことじゃねぇか。


「これじゃあ月曜日からどうなってしまうか、自分でもわからないわ。ただでさえ抑えていたというのに」

「あれで抑えていた・・・・・・・・・・・・!?」


 ヤバい。なんだかわからないけど、今日俺と過ごしたことは柊にとってとんでもなくヤバいことだったらしい。そして、俺にとっても。


 いや、待て。いっそのことここで柊を一発モフらせてすっきりさせるか? そうしたら逆に学校であんまりモフろうとしないかも?


「柊。ちょっとこれから一発していかないか?!」

「!?」


 そうだ。そのほうがいい。だったら善は急げだ。


「へ、変態・・・・・・・・・・」

「は!?」


 だけど、予想に反して柊からはとんでもない罵倒をされた。


「そ、そんなこと恥ずかしげもなくよく言えるわね・・・・・・・・・いきなり欲情してい、一発だなんて・・・・・・・・・」

「あ、」


 テンパっていたせいできちんと説明していなかった。そのせいで柊にあらぬ誤解をさせてしまっているんだ。


「そ、そういう意味じゃねぇよ!」

「今日も私のことを嬲るような目で一日中見ていたけど、最初からそういうつもりだったの・・・・・・・・・? 見損なったわ・・・・・・・・・」

「お前を怪しんでいただけだっつの!」

「もしかして今日私を誘ったのも最初からそのつもりだったの・・・・・・・・・? 所詮あなたも雄だったってことね・・・・・・・・・がっかりだわ・・・・・・・・・」

「話を聞け! お前にモフらせてやるってことだよ!」

「そう・・・・・・・・・そういうこと・・・・・・・・・この鬼畜!」

「なんでだよ!」

「私にモフらせる交換条件として私を蹂躙したいってことでしょう? この流れだと完全にそうじゃない。モフモフに逆らえない私の弱みにつけこんで・・・・・・・・・く、」

「く、じゃねぇよ! 馬鹿だろお前! よくもまぁそこまで曲解できるもんだな!」

「男は狼なのよ、気を付けなさい、と某大ヒット曲の歌詞でも歌われていたけど、そういうことだったのね。所詮あなたも善良なペットの皮を被った狼でしかなかった。がっかりだわ」

「どこからどうツッコめばいいんだよくそったれ!」」

「けど、おあいにく様。私はモフモフさえできればなんでもするような尻軽ではないの。いくらあなたに協力するとはいってもそこまでできるわけないでしょう? そんな方法で体質を改善できたとしてあなたは本当に心から喜べる!?」

「だああああ! 話を聞きやがれ!」


 なんでこうなったし!


「そもそも、学校でも私のことをいやらしい視線で――――」

「お前鏡見てから言え! よくもまぁそこまで――――」

「あの~~~。ちょっといいかな?」


 ギャアギャアと口論をしていたけど、ギクリとした緊張が走った。


「あ、やっぱり。柊さんと大上くんだ」


 こちらにむけられたとしかおもえない明るい声は聞き覚えがあって、たしかめるために振り返るのがこわい。まさか、いやそんなはずは、と泡を食う。それは見合わせている柊も同じだ。


「なにしてんの? 二人とも」


 きょとんと不思議そうなクラスメイト、山峰さん。彼女が俺達二人を交互に見やってい


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