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22話

ショッピングを終えたあと、二人で映画を鑑賞することになった。元々好きなジャンルには拘るタイプではなかったので、柊が提案した映画に、早くも心が踊りはじめている。


「柊って、よく映画来るの?」

「それほどかしら。好きな映画の続編や関連作品がやっているときは来るけど、あなたは?」

「俺は全然。久しぶりだ。ネットの配信で観れるの多いしね」


 実際、映画を観に来るなんてもう何年ぶりだろうか。それでも、ワクワクはとまらない。


「そう。でも大スクリーンの迫力がないと物足りなくないでしょう」

「そうかなぁ。一々出掛ける必要ないんだしお手軽じゃない?」

「まぁいいわ。それよりなにか食べ物と飲み物を買いに行きましょう」


 議論なんてほどじゃないやりとりを交わしながら売店エリアへ。


「あ、俺出すよ」

「いいえ。飲み物とお菓子を奢ってもらったくらいで彼氏面されて勘違いされたら困るからいいわ」

「んな勘違いするか!」


 めんどくさいガードの硬い女みたいだなこいつ。


「こういうときは男がお金を払うのがマナーなんだよ」


 恵里奈姉ちゃんにそう講釈を垂れられたあと、柊の分もお小遣いをもらったからなのに。


「そうして男としてのマナーを伝えられたからって前提のもと意識して実行している時点でこちらにもデートをするときの女性の心遣いを強要しているみたいで嫌だから結論としていらないわ」

「ほんっとめんどくせぇ女だなおい!」


 しょうがないので会計は別にするという形になったけど、余った分は・・・・・・後で使い道を考えよう。


「あ、それとポップコーンもください。柊は?」

「私も。スモールのサイズで」

「じゃあスモール、塩味を二つ」

「ちょっと待ちなさい」


 がっしりと肩を掴まれた。


「なんで塩味? 普通キャラメルでしょう?」

「は? いやいや塩だろ」


 まさかの意見の対立。


「そんなに塩分が欲しかったら塩でも指につけてしゃぶっていたらいいじゃない」

 

 酷い言われよう。塩に恨みでもあるのかってレベル。なんでたかが好みについてそこまで非難されないといけないのか。


「お前こそダイレクトに砂糖を舌にまぶして味わってろ」


 流石にムカッときたので負けじと噛みついた座席に座るまでその件が尾を引いてしまい、


「やっぱり自宅に引き籠もって一々ネットに頼った生活をしている人は非常識なのね。映画館での当たり前を知らないなんて」

「映画館とかネット配信とか関係ないだろ。只単に好みと相性の問題だ」

「炭酸と塩分のダブルパンチなんて一番頭の悪い食べ方よ。その年齢で暴飲暴食していたら将来の健康に差し支えるでしょう」

「そっちこそカロリーと甘さに飽きたときの対処法としてウーロン茶を選んでいる時点で負けてるんだよ」


 お互いムスッとした態度を崩せない。


 まったく。なんなんだよ柊のやつ。そりゃあこいつにとって俺は都合のいいモフるだけの対象でしかないけど。


 だからといってこんなときにまでいつもの調子でいられたらたまらない。せっかくワクワク――――いや。ドキドキしていたのに。


 映画がはじまるとさっきまでの険悪さなんて微塵も掻き消えて、ストーリーと映像に没頭していく。


 映画の中盤まで、のめりこんでしまっていたけど急に集中力が乱された。


「?!」


 不意に、手の甲に柔らかいなにかが重ねられたんだ。


 感触をたしかめているようにすり、すり、と指の腹で撫でられているのがこそばゆい。


 確認するまでもなく、位置的に柊しかありえない。けどなんでこんなときに?


 ・・・・・・まさか、この空間で我慢できなくなって人狼化させてモフりたくなったとか?


 いや、でも待て。さっきまで険悪な空気だったのにいきなりそんなことしたくなるか?


 ・・・・・・めちゃくちゃありえそう。


 なんせ柊は学校でも場所と時間を選ばないでモフろうとする生粋のモフリスト。


 いや。逆に気分を害したからこそ癒されたいのかもしれない。


 しかもここは絶好の場所。逃げることも隠れることも不可能だを暗いし皆映画に集中していて存分にモフることができるんだ。


 俺を除けばだけど。


 まさかこうなることを予測して映画に誘ったのか? なんて女だ。


 だが残念。普段から過激なことをされている俺からすれば、こんな些細なことでもう動揺することはなくなっている。


 柊に対する対抗心、決しておもうようにはさせないという意志もあって平静を保てている。


 さぁ、どうだ柊?


「・・・・・・」


 勝ち誇った気持ちでチラッと隣を窺うけど、予想していた反応ではなかった。


 カアアアア、と赤くなって小刻みに震えてて、そしておもむろに唇を尖らせてむくれる。


 まるで恥ずかしいのを誤魔化そうとしているようだ。


(・・・・・・え、なにその反応)


 視線に気づいたのか。キッ! っと釣り上げた瞳で睨むとそのまま手を離した。

そして凄い勢いで飲み物を飲んだあと、反対側の座席へと移す。アピールしているってくらいわざとらしい。


(・・・・・・まさかただ飲み物かポップコーンと間違えただけ?)


 それっきり柊は接触してこようとはしない。本格的に勝手な勘違いをしてしまっていたということに遅れて俺も顔が熱くなっていく。


(ぐおお・・・・・・恥ずかしい・・・・・・!)


 なんだよ。というかそもそも柊が間違えたのが原因じゃないか。なんで俺がこんな。


 いかんいかん。こんなに心を乱されては本当に人狼化してしまうぞ。


 誤魔化したくて、柊に悟られたくなくて、映画に意識を戻す。さっきよりも更に没頭しようと心掛ける。


 けど、柊の横顔を時折たしかめるのを止められなかった。


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