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人狼の生活は大変です

 俺の名前は大上謙人。人との交流を持ち、楽しい生活を送ることを諦めた高校二年生の十七歳。


 高校のクラスでも誰から話しかけられることも自分から話すことなんて皆無。それどころか身内を除く人とは誰とも喋らない陰キャという奴だ。


 同年代の学生達が楽しそうに遊んでいたり放課後の計画や共通の話題で盛りあがっていても関心なんて持てず、一人で過ごしている。


 だけど、それでいいとおもっていた。人には向き不向き、相応の立ち位置というものがある。無理して溶けこもうとしたり自分とは違う人達と同じになろうとすれば失敗してしまうのは当たり前。十代という若い時期、いや。むしろもっと以前からそれを教えてくれたこの世界にぜひお礼を述べたいくらいだ。


 きっとこれからの俺の人生、ずっとこんな調子なんだろう。誰とも打ち解けず、心躍るようなことがなくても穏やかで静かで一人の心地よい時間。既に悟りの境地に至っている俺はそれでいいとおもっていた。


「ああ、大上くん・・・・・・・・・」


 今このときまでは。


「はぁはぁ・・・・・・・・・・・・ねぇ。早く。お願いいいいいい・・・・・・・・・」


 発情しきっていると例えても過言ではない荒い呼吸と上気した顔。舌がもつれているのではないかと疑うほどおかしい呂律と言動、焦点があっておらず完全にいっちゃっている目。


 痴女じみた姿をさらしているこの子が普段はにこりともしないクールでカッコいいとさえ形容されるこの高校一の美女だなんて誰も信じられないだろう。俺もいまだに信じられないもん。


 誰かに目撃されてしまえば、完全に誤解されてしまうだろう距離感。いやらしい手つきで体のあちこちをまさぐられ、妙な気分と短い間隔の痙攣がとまらない。


「どうして・・・・・・・・・? どうしてダメなの・・・・・・・・・?」


 柊美音。高嶺の華と呼ばれるクールで人気者。そんな彼女のいつもと違って甘えるように潤んだ瞳で懇願する表情は、男としてグッとくる。


「早く・・・・・・・・・・・・早く・・・・・・・・・てよ・・・・・・・・・・・・」


 けど、そんな彼女に応えることができない。ただ必死に自分の欲望を抑えるだけで精一杯だ。


「早く・・・・・・・・・・・・!!」


 誤解のないように言っとくと、彼女と俺は別に付き合っているわけでも痴女られているというわけではない。


 というか、それだったらどんなによかったことか。


「早く発情していつもの姿になりなさい!!」

 

 柊が勢いよく俺の手を掴み、自らの豊かな双丘、胸へと押し当てる。むにゅりという柔らかい感触は例えようがなく、服の上からでも気持ちが良い触り心地だ。


「う、が、」


 心臓の鼓動よりも遙かに大きい脈動、体を変質させる脈動がはじまってしまった。


「ああ、やった・・・・・・・・・・・・」


 一秒も経たず、一変した俺にうっとりとした顔を向ける柊。


 鏡など見なくてもわかる。彼女の反応によって、ああまたか、と。


  細く長く伸びた面長の顔。頭頂部には尖った耳。全身を包みこむ濃く長い体毛。そして人間には決してない部位、尻尾が下着の中で蠢いている。


 ファンタジーや娯楽ではおなじみの狼男の姿に、またなってしまったのだと。


「うわあああああああああああああああい!!!」


 途端にぎゅううううううう! と抱きつき、頬ずり、体のあちこちに顔を埋めながら深呼吸を繰り返しだした。濃く長い体毛を慣れた手つきでワシャワシャワシャワシャアアアアア!! と触りまくっていく。


「ああ! いい! やっぱり! んんんんんん! 最高! ああああああん! スゥゥゥゥゥゥハアアアアアアア! イヒヒヒヒヒヒ!」


 最早人語かどうかすら定かではない意味不明な感嘆と欲に塗れた言動。口角からは涎が垂れ、狂人と紙一重の表情で舐め回し、吸い、堪能していく。どれだけ美人であってもこれだけ頭がおかしい光景を至近距離で見せられてしまえばドン引きしてしまうのも仕方がない。


 まるで貪り喰われている食べ物の気分。もしくは蹂躙されるとはこういうことかという心地。抵抗するのも虚しく、ただ柊の欲望が尽きるまで無心で耐える。


「な、なぁ柊。もういいだろう?」

「はあああああああ・・・・・・・・・・・・・・・癒やされるううううううう・・・・・・・・・・・・♡♡♡」


 ダメだ。既に聴覚機能も麻痺しているらしい。心まで蕩けきっているような、だらしのない顔。


「柊、柊! 頼むよ! 誰か来るかもしれないだろ!?」


 少し乱暴に体から離し、ブンブンと体を揺する。さっさとこんなこと、というかこいつとの関係を終わらせたいという気持ちが反映されている。


「そうね・・・・・・・・・残念だけどわかったわ・・・・・・・・・・・・」


 心底残念とばかりにしゅん、と落ちこんだ。けどようやくホッとした俺は乱れた服と元の姿に戻れるよう準備を――――――


「じゃあ最後にズボンと下着を脱いでちょうだい」

「は?」

「まだ尻尾を味わっていないから」

「・・・・・・・・・・・・・・・」


 じりじりとにじり寄ってくる柊に、対峙する形に。背中を見せたら最後、絶対に終わりだという予感があった。


 ゾンビ。捕食者。化け物。そう形容するにふさわしい高嶺の華の成れの果て。


「大上くうううううううううううううううううううううううううううん!!」

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 教室内で鬼ごっこがはじまった。しかもどちらかの体力が尽きるまで終わらない、至極過酷なものだ。


「つかまえた♡♪」

「ひ、」


 どうしてこんなことになってしまったのか。


 それは俺の体質が大きく関わっている。まずはそこから話をはじめなければいけない。




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