74. 完璧な彼女
【あらすじ】散歩の途中で女の左腕を発見した男は、それを自宅に持ち帰り、友達になってくれるよう頼む。
月のきれいな秋の宵だった。男が土手を歩いていると、叢の中に横たわる白く細長いものが目についた。近づいてみるとそれは、ほっそりとした人間の左腕、肩の付け根から指先までの部分だった。月明かりの下でそれは青白く見えた。彼はそれを自宅へ持ち帰った。
彼は孤独だった。家族も友達も恋人もいない。拾った左腕は、その繊細なフォルム、肌のきめ細かさから、若い女性のものと思われた。彼は窓際で月の光にそれをかざしながら、何て美しいのだろうと思った。
「もしよかったら、僕と友達になってくれませんか」と彼は短く切りそろえられた形のよい桜色の爪のついた手をそっと自分の掌の上に置いて、囁いた。女の左腕はぴくりと動いて、微かに彼の手を握った。
それから彼は、人生で初めての幸福を味わった。彼は女の左腕を大切に扱い、常に敬意を持って接した。彼は仕事の悩みや心配事、それからささやかな喜びについて、なんでも彼女に話した。腕は勿論口をきくことはできなかったが、彼女の手をそっと握りしめる彼の手を握り返したり撫でたりして彼を慰めたり励ましたりした。
それからしばらくして、彼は寒い冬の晩に散歩に出かけた。左腕は柔らかいタオルケットに包んで家に置いてあった。彼女を発見した土手にさしかかると、叢に長く黒々としたものが落ちているのが見えた。拾い上げてみるとそれは、漆黒の色をした艶やかな髪だった。家に持ち帰って女の左腕と並べてみると、腕は愛しそうにその黒髪を撫でた。
「やあ、これはやっぱり君の髪だったのか。なんて美しいんだろう。君の細く白い手にとてもよく似合うね」
彼がうっとりと言うと、心なしか二の腕の辺りがほんのり上気したようだった。それから彼の話し相手は、美しい女の髪と左腕になった。
さらにしばらくすると、彼は自宅のささやかな裏庭に、まっ白い女の脚が落ちているのを見つけた。右の太腿から下の部分だ。彼は自宅に運び込むと、次の日、会社の帰りに若い女性用の白いワンピースを買ってきて、左袖に左腕を、足首まであるスカートの中に右足を納めた。剥き出しの状態にしておくのは寒々しく気の毒なような気がしたのだ。ソファに横たえたワンピースの襟の少し上に、髪の毛を置いてみた。
「やあ、君はとてもきれいだね」と彼は言った。
それ以降も、彼はあちこちで女の胴体や右の上腕、右目等を発見し、自宅に持ち帰った。彼の手で慎重に組み立てられた彼女は、今では白いワンピースに身を包み、長い髪を垂らし、椅子に座っている。最近では、彼女は、彼のために朝食を作ったり、部屋の掃除をしたりするようになった。
ある日彼は、彼女の左手を両手で優しく包み込んで、こう言った。
「ねえ君、僕達は今までとてもいい友達だった。僕は君をとても尊敬している。君はたった一人の友人で、何でも話せる大切な相棒だ。だけど、もうこれ以上我慢できない。僕と結婚してもらえないだろうか。勿論、君が僕を愛せないというのなら、潔く諦めるよ。でも――」
彼女は大汗を流して話し続ける彼の顔に自分の顔を近づけると、片目を閉じて彼の唇に自分の上唇を押し付けた。彼が拾い集めたパーツを寄せ集めてかなり人間らしい形状になっていたとはいえ、まだ左目と下唇、まつ毛、右手、左耳等が欠けており、舌がないせいか、声を発することはできなかった。しかし、彼にとって、そんなことはどうでもよかった。いや、今後どこかで残りのパーツを見つけたら、喜んで持ち帰って来ただろうが、今のままでも彼にとって、彼女は完璧な女性であった。
「それじゃあ、いいんだね?」
彼は顔を輝かせて言った。女は頬をピンク色に染めて頷いた。彼は翌日彼女のほっそりとした指に似合う結婚指輪を買ってきてプレゼントした。それ以降、彼女の残りの部位が見つかることはなかったが、二人はいつまでも幸福に暮らした。




