49. インジャスティス
【あらすじ】友達と一緒に、彼女のお母さんの友達の家に遊びに行った私は、酔っぱらった赤ちゃんを見て笑っている大人達に衝撃を受ける。
友達と一緒に、友達のお母さんの友達の家に遊びに行った。どういう経緯でそうなったのかは覚えていない。友達とそのお母さんは、母子家庭用の寮に住んでいた。中学生の頃は頻繁に遊びに行っていたから、多分そこでの出来事だ。
その寮は玄関を入った正面に施設職員が常駐する事務室があり、出入りを厳しくチェックされていた。母親が留守の際は、私のような部外者は友達とその母親が暮らす1LDKの部屋にあがることは許されず、事務室の隣の面会部屋のようなところで友達と遊ばなければならない。ファミコンや漫画など面白いものは全て友達の部屋にあるのだし、母親が不在の時の方がのびのびと遊べるので、度々不法侵入を試みたが、なかなかどうして、事務室の職員は目ざとく私を発見し、ことごとく捕えられた。見つかって酷く怒られるようなことはなかったが、ゲームができなくなるので私は大いに不満であった。
何度も部屋に遊びに行っていたので、友達のお母さんとも当然面識があった。当時はまだ珍しかった明るい茶髪のベリーショートで、化粧も濃かったが、仕事はクリーニングの工場勤務。その寮に暮らす母親は皆その仕事についていたらしい。寮内は禁煙なのに部屋で煙草を吸う人だったが、私の父も煙草を吸うし、頻繁に遊びに行っても嫌な顔をされなかったので、私も目を瞑ることにしていた。
その日私は、その寮内の別室に住む、私の友達のお母さんの友達の部屋にいた。お母さんの友達は恐らく四十代、まだ一歳にならない赤ちゃんの母親だった。赤ちゃんの顔には、既に顕著な特徴が表れていた。母親達二人は昼間から酒を飲み、煙草を吸っていたから、週末か祝日だったのだろう。私と私の友達は中学生で、二人とも酒や煙草には興味がなかったし、大人達も私達を仲間に引き入れようとはしなかったので、もっぱら赤ちゃんと遊んで過ごした。表情に乏しい子であったが、ころころして可愛らしかった。
しばらくすると、授乳の時間だと言って母親が赤ちゃんを連れて行った。私は口を開きかけて、やめた。もうここには居たくない、早く友達の部屋に戻ってゲームをしたいと密かに願っていた。
「ねえ、この子、酔っぱらってるんじゃない?」
という友達のお母さんの声が聞こえてきた。そして笑い声。
「血は争えないね」
二人の母親の笑い声。
授乳を終えた母親は、再び酒を飲み始め、煙草を吸った。赤ちゃんは母親の腕に抱かれていた。私は酒を飲み煙草をふかす大人二人に口を開きかけて、やめた。友達の方をちらりと見たが、彼女は何も気にならないようだった。
「あんたも飲む?」
と赤ちゃんの母親が言って、抱いている赤ちゃんの口に缶チューハイを近づけた。
「飲んだ飲んだ」
と友達のお母さんがゲラゲラ笑った。赤ちゃんの顔が高熱でも出たかのように真っ赤になっていた。それを見て私の友達もゲラゲラ笑った。
私は何がおかしいのかわからず、困惑していた。
「あの、赤ちゃんにお酒を飲ませたらいけないんじゃ」
大人二人は、私が何か最高に面白いジョークでも言ったかのように、ヒステリックに笑った。
赤ちゃんは、潤んだ目でしゃっくりをした。大人二人と友達は、さも愉快そうに笑い転げた。
赤ちゃんの母親が、再度缶チューハイの中身を赤ちゃんに飲ませた。ほんの少し啜っただけだが、相手は体の小さい、赤ん坊だ。
「やめてください!」
私は恐ろしくなって少し大きな声で言った。
「大丈夫よ、このくらい」
と赤ちゃんの母親は言った。友達の母親は、煙草を吸いながら私を見ていた。そして顔を真っ赤にしてぐったりとした赤ちゃんと私を除いて、二人の母親と私の友達は、しばらく笑い続けた。




