43. コボ・アベが死んだ日
【あらすじ】敬愛する作家が亡くなったというニュースが信じられず、TVの前に座り尽くす私。およそ私小説らしくない私小説がその作家の遺作となる。
TVから流れる作家の死亡ニュース。こんな不意打ちはまったく予測していなかった。それは、人間だからいつかは死ぬに決まっているにしても。聞き間違えたのかもしれない、と画面を凝視するが、アナウンサーは次々と新しいニュースを読み上げていき、次の番組が始まった。
コボ・アベを知ったのは高校の国語の教科書。勉強はしないが、国語の教科書だけは手にしたその日に読了するような生徒だった。
芥川賞をもらっているからとか、カワバタに次ぐ日本人ノーベル文学賞受賞の有力候補と噂されているとか、そんなことではなく、
なんておかしな小説を書くのだろうこの作家は
それが理由で、彼の他の著作も貪るように読んだ。作家は、好きになった時点で既に亡くなっているのが常だったから、コボ・アベの新作が書店の平台に山積みになっているのを見た時は不思議な気持がしたものだ。その新作というのは「私小説」と帯に謳われている割に、足の脛からかいわれ大根を生やした男が病院のベッドで町を徘徊するというストーリーだったから、読後に随分人を食った宣伝だと呆れることになるのだが、その時の私は、存命の作家の新作をタイムリーに読むことができる喜びを胸に抱きしめて書店を出た。
コボ・アベがまだ七十にもなっていないのに亡くなったと昼のニュースで知るのはその数年後のことで、腑抜けと化した私はTVの前に座り尽くした。番組と番組の間に挿入されたニュースで、作家の訃報が繰り返された。
彼は本当に死んでしまった
夕方のニュースで何度目かにそれを聞いた時に、ようやく現実の出来事だと呑み込めた。
結果的に彼の遺作となる脛からかいわれ大根の生えた男が主人公の「私小説」を書いていた時、作家が既に病魔に侵されていたと知るのは、何年も経過してからのことだ。




