表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/162

2. 雪だるま注意報



 それでは、天気予報です。


 本日は西高東低の気圧配置で強い寒気が流れ込み、日中は曇りですが、夕方から雪になり、時々雪だるまが降りそうです。特に花の宮エリアでは、突発的な集中豪だるまが予想されます。ご注意ください。


* * * * * *


「いやねえ、まったく。これも気候変動のせいかしら」とマユミはキッチンの窓から外を覗いた。冬の日は短く、既に夜の気配が漂っている。


 狭い庭には、三日前に降った雪だるまが潰れひしゃげて積みあげてあった。夫と息子による「だるまよけ」の重労働の跡がまだ融けずに残っているのに、今度は集中豪だるまだという。


 息子には夕方から天候が崩れるらしいから早く帰るように言ってあった。今日は部活もないし、もうじき帰ってくるはずだ。問題は夫だが――


 スマホがぶーんと震え、メッセージが届いたことを知らせた。夫からだった。


「今日は夕方から豪だるまだそうだから、会社の近くのホテルに泊まります。そっちは大丈夫?」

「シゲルはじきに帰ってくるはず。今日はもう外には出ません。あなたも気をつけて」


 メッセージを返信して、マユミは時計を見た。十六時に近い。外が暗くなるにつれ、気温がぐんぐん下がり、灰色の空から雪が舞い始めていた。夕飯の支度を始めるためにエプロンの紐を後ろ手で縛りながら、もう少し待って帰って来なかったらシゲルに電話をかけようと思った。


 過保護だ、と夫に笑われるかもしれないが、実際に空から降って来た雪だるまに押し潰されて人が亡くなる不幸な事故は、毎年必ず起きる。つい最近も、雪が降ってきたことに興奮して自宅から走り出た幼い子供が雪だるまの直撃を受けて……という痛ましいニュースがあった。用心するに越したことはないのだ。


 ピンポーンと呼び鈴が鳴った。そういえば、近頃は色々物騒なので玄関に鍵をかけていたことを思いだし、マユミは玄関へ急いだ。


「心配してたのよ、シゲル。一体何を」


 ロックとチェーンを外し、ドアを開けたマユミは、短い悲鳴を上げた。


「おい、声を出すな。命が惜しかったらな」


 腕の代わりにシャベルや箒を生やし、赤や青のバケツを頭に被った雪だるま達が、無表情な黒い目をマユミに向けて立っていた。


 集中豪だるまならぬ、ゲリラだるまだった。


【だるまよけ】道路や歩道、駐車場、屋根などに降り積もり、人々の日常生活を脅かす雪だるまを除去すること。豪だるま地帯では、屋根に積もった大量の雪だるまを放置していると、重みで家が潰れることがある。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ