9話・ストーカー野郎の怖過ぎる話
「明日は半日で学校終わるんです」
「へえ〜。……アッ、夏休みか!」
ミノリちゃんが俺んちに入り浸るようになってから約十日。いつのまにか夏休みの時期になっていた。慣れてきたのか、最初の頃に比べて言葉遣いもやや砕けてきている。
「夏休みの間も来ていい?」
「いーよいーよ、もちろん」
「ありがとう、助かるー!」
快諾すると、彼女はホッとしたように表情をゆるめた。
同級生男子にしつこく追い回されているらしいし、他に何も出来ない代わりに安心できる逃げ場くらい提供してあげたい。
「毎日来る?」
「いや、それは流石に迷惑じゃ……」
「俺は別に構わないよ。ずっと家にいるし」
「プーさん、ホントに家から出ないのね」
「夏場は特にね〜」
呆れたような目で見られてしまった。
毎日昼間から家でゴロゴロしている成人男性なんか俺くらいなものだろう。親父にも働けとよく言われるが、向き不向きというものがある。俺に労働は向いてない。
「彼は部活の合宿や大会があるから私に構ってる暇はないと思うけど、一応念のため避難させて」
「りょーかい。いいよ、いつでも来な」
合宿や大会のある部活やってんのか。同級生ストーカー君は運動部だろうか。万が一の時は俺が出てって「ミノリちゃんに近付くな」って言ってやろうかと思ってたけど、体力的にも俺のが弱いな。見た目ヤンキーだけどケンカしたことないからな。
ああ、だから俺んちに逃げてきたんだ。腕力では抗えない相手だから、出来る限り接触を避けているんだ。……なんか心配になってきた。
「同じ学校なんだろ? 大丈夫?」
「クラス違うし、事情知ってて味方になってくれる友だちもいるから」
「その子と一緒に帰るのはダメなの?」
「その子は隣の市からバスで通ってるから」
「ああ〜……」
リエ以外のマトモな友だちがいるのは良かったが、頼れるのは学校に居る間だけか。
聞いてみれば、中学時代は誰も彼もが面白がってストーカー野郎の味方をしていたという。子どもらしいいたずら心と思春期の混ざったような時期だ。他人の恋愛ごとは格好の娯楽だったんだろう。
「中学の時は、鍵のかかる教室に閉じ込められたり、わざと帰りに二人きりにされたり、他にも色々」
「うわ、ひっでぇ。何もされなかった?」
「必死で逃げ回ったから大丈夫。でも、それ以来怖くなっちゃって」
リエといい当時の周りの奴らといい、なぜミノリちゃんの気持ちを無視するんだろう。そんなことをすれば余計に拗れてしまうと何故分からないんだろう。
「実は、高校は別になるはずだったんだけど、途中で彼が志望校を変えて同じ高校に……」
「うわあ」
進路を変えただと?
なんだその執念、怖過ぎる。
「手紙や待ち伏せもしょっちゅうだし、最近はもう彼が目の前に来ると身体が拒絶反応を起こしちゃうの。怖くて動けなくなるから、出来るだけ会わないように避けてる」
数年に及ぶストーカー被害で、彼女は心身共に参っているようだった。