6話・クズ男、地味系女子高生に興味を持つ
平日の昼過ぎ、ショウゴがやって来た。
連絡もなしに……と思ったが、コイツはいつもそうだ。先日のカラオケのように外に連れ出す時は事前に連絡を寄越すが、基本的に無断でやってくる。何故なら俺が無職で暇を持て余していることを知っているからだ。毎回追い返されると分かってて何故繰り返すのか。
「暑いしとりあえず入れて」
「散らかってるから無理」
「そんなん気にしねーって」
「俺がイヤなの」
「まだ許してくれねェの?」
「……」
玄関を塞ぐようにして仁王立ちし、ショウゴの侵入を阻む。コイツを家に入れるつもりはない。
「今日仕事は?」
「休み」
「マリと出掛けりゃいーじゃん」
「マリはバイトだもん」
ショウゴは国道沿いのガソリンスタンド勤務、マリは駅前の服屋でバイトをしている。先日のカラオケの際に休みを合わせたぶん、今日は合わなかったのだろう。
「つーかさ、オレ別にマリと付き合ってねーし」
「そうなんだ。俺はてっきり」
「気軽に遊べるトモダチってトコだよ、オレとマリはな」
「あっそ」
何故それを俺に言う?
こちらに迷惑さえ掛けなければ、おまえらのただれた男女関係などどうでもいい。
「とにかくダメだ。早く帰れよ」
「なんでだよ、どーせヒマだろ」
「……おまえには関係ないだろ」
ジワジワと蝉の鳴き声が響く。
ここは日陰だからまだマシだが、ずっと玄関先に立っているのは正直言ってダルい。それに、ショウゴに居座られたらマズい理由がある。
今日は水曜、ミノリちゃんが来る日だからだ。学校が終わるまであと一時間くらい。もしコイツが居る時にミノリちゃんが訪ねてきたら色々面倒だ。
「そういえばさァ、あの子と付き合ってんの?」
「は?」
「ミノリちゃんだよ、ミノリちゃん」
突然ショウゴの口から出た彼女の名前に、つい動揺してしまった。思考を読まれたかと思った。
「そっ、そんなわけないだろ」
「そうかァ? この前も家まで送ってやったんだろ? 今まで誰にもそんなことしたことない癖によ」
確かに、ショウゴが遊びのメンツとして女の子を連れてくることは何度もあった。夜に現地解散することも珍しくない。だが、俺が『家まで送る』という行動を起こしたことは今までなかった。
「……そりゃあ、ああいうタイプの子は初めてだし、心配にもなるだろ」
ミノリちゃんは、本来ショウゴや俺みたいなのと関わらないタイプだ。たまたま友だち繋がりで知り合っただけ。そんな子を一人で夜道を歩かせるわけにはいかないだろう。
「そうだよな、珍しいタイプだ。──だから、ちょっと気になっちまってさァ」
「……は?」
「ああいうスレてない子と付き合ったらどんな感じなんだろな。ホレた男にどんな顔見せると思う?」
「オンナの妹の友達に手ぇ出すなよクズ」
「だーかーらァ、付き合ってねンだよマリとは」
しれっと話すショウゴを見て、背筋に冷たい汗が流れた。
コイツがミノリちゃんに興味を持ったのは、俺が彼女を気に掛けているからだ。節操無しのコイツを彼女に近付けてはならない。関心がないフリをしなければ。
「好きにしろよ」
どうでもいいとばかりに溜め息をつきながら、俺はそう答えた。すると、ショウゴはほんの少しだけ意外そうな顔をして、その後はいつも通りの笑顔に戻った。
「じゃ、今日ンところは帰るわ」
「もう来んな。せめて連絡しろ」
「めんどくせェ」
「次から居留守使う」
「それはヤだな」
はは、と笑ってショウゴは帰っていった。