5話・並んで歩く夜道は昼間より眩しい
カラオケは、ほぼショウゴ・ショータイムだった。支払いは全部コイツ持ちだから全然構わないけど、茶番に付き合わされた感がすごい。俺たちは賑やかしで呼ばれたのか?
車で厳原家まで送られた頃にはすっかり日が落ちていた。ショウゴはこのままマリの家で晩飯を食っていくという。
「じゃあ、私帰ります」
「ミノリちゃんち近いの?」
「歩いて十五分くらい」
「もう暗いし、送るよ」
「え、でも……」
「いーからいーから!」
夜道を一人で歩かせるのが心配というのもあるが、カラオケボックスで全然喋れなかったから、もう少し一緒に居たい。
「プーさん、遠回りになっちゃうよ」
「大した距離じゃないから平気平気」
「えっ、でも、また倒れちゃうかも」
「炎天下じゃないから大丈夫だって」
遠慮じゃなく、俺の体力の無さを心配しての言葉だったのか。つくづく情けないな俺。実際行き倒れてたところを見られているわけだから、ミノリちゃんがそう思うのも無理はない。
切れかけて不規則に点滅する街灯に照らされた道を並んで歩く。昼間のぎこちない雰囲気が嘘のように、二人だけの会話はそこそこ弾んだ。
「なんで今日ショウゴの車に乗ってたの?」
「リエの部屋で一緒に宿題やってたらお姉さんが声掛けてきて……そのまま拉致されて」
「拉致www なるほどね〜」
自ら進んでショウゴの車に乗った訳ではないと知り、少しだけ安心した。続けて気になっていたことを聞いてみる。
「ミノリちゃんて、こういう遊びには来ないかと思ってた」
「カラオケ自体は好きですよ。でも、ショウゴさんは苦手」
「なんで? アイツ話上手いだろ」
「……陽キャのノリ好きじゃない」
心底嫌そうな言い方に、俺は思わず吹き出した。
だが、リエやマリも陽キャ側の人間ではないだろうか。今後も彼女たちと付き合いを続けていくのならば、必然的に今日のように巻き込まれることが増える。
「プーさんも、ああいうのホントは苦手でしょ」
「分かる?」
「分かる」
見た目はこんなだが、俺は別に不良ではないし陽キャでもない。どっかに出掛けるより自分の部屋で読み古した本を見返しているほうが好きだ。それは多分ミノリちゃんも同じ。
「タイプ真逆なのに、なんでショウゴさんと友だちなの」
「んー……学生時代からの腐れ縁」
「なるほど」
その点はミノリちゃんと厳原姉妹との関係と似たようなものかもしれない。
「あ、私の家ここです」
「ここ?」
彼女が指差した先を見れば、立派な門構えの日本家屋があった。日が落ちているから道路側からは全体が見えないが、かなり大きな家のようだ。
「うわ、お嬢様じゃん!」
「古くて広いだけだから」
確かに田舎の農家によくあるタイプの作りで周りの家も似たような大きさだが、それでも俺んちよりデカい。
「送ってくれてありがとう」
門の脇にある通用口を開け、ミノリちゃんが中に入っていくのを見守る。踵を返して帰ろうとしたら、開いたままの通用口から彼女が再び顔を出した。
「これ、送ってもらったお礼」
「気ぃ使わなくていいのに〜」
差し出されたビニール袋にはナスとピーマンがたくさん入っていた。どれもツヤツヤしてて綺麗だ。
「おじいちゃんとおばあちゃんが作ってるんだけど、量がすごくて家族だけじゃ食べきれないの。助けると思って受け取って」
「そうなんだ。じゃ遠慮なく」
袋を受け取ると、ミノリちゃんはホッとしたような表情を見せた。恐らく、ご近所さんにすぐお裾分け出来るように野菜置き場が門の側にあるのだろう。
「またね」
「はい、また」
笑顔で手を振って、その日は終わった。