42話・夜、駐車場にて友と語らう 3
俺がショウゴに会いに来たのは礼を言うためだ。ただ伝えるだけなら電話やメールでも出来る。だが、一度やっておきたいことがあった。
それは、ショウゴが働いている姿をこの目で見ること。
「今まで遊びの支払いは全部オマエ持ちだっただろ」
「オレが無理やり誘ってんだ。オレが出すのは当然だ」
「まあそうなんだけどさ。オマエが頑張って稼いだ金なんだよなーと思ったら急に有り難みが湧いてきてさ」
金を稼ぐのは大変だ。どんな仕事でも何の苦労も無しに続けることは出来ない。それが肉体労働なら尚更だ。今日、ほんの少しの間だがショウゴが働いている姿を見た。高校を卒業してから二年、俺がダラダラしている間、コイツは汗水流して働いていたんだ。
「それだけじゃない。オマエは家から出たがらない俺を外に連れ出してくれてたよな」
「……」
「中学ん時も高校ん時も、他の奴との間に入っててくれたよな。俺のこと悪く言う奴に説教かましたりとかさ」
「……いや、オレは」
俺の言葉に小さな声で否定するショウゴ。
ガリ、とまた頭を掻いている。
これまでたくさん気遣ってもらった。そのことに感謝をすれば、ショウゴは手のひらで顔を覆い隠し、俺に背を向けた。
「──オレに感謝なんかすんな」
「ショウゴ?」
震える声で、ショウゴは言葉を続ける。
「……進路を決める時、将来を悲観してるおまえを見て『オレがおまえの分まで働けばいいんじゃないか』『オレが養えば悩まずに済むんじゃないか』なんて勝手に考えて、挙げ句の果てに手を出そうとした」
あの日のことは未だに忘れられない。
突然襲われて、必死に抵抗して叩き出した。それ以来、お互い話題に出さなかった。だから、何故ショウゴがそんな真似をしたのか理由は分からずじまい。
当時は単なる欲求不満かと思っていたが、違った。方法は最悪だが、コイツは人生に不安を抱えた俺を守ろうとしたんだろう。一番側にいたから『自分が何とかしないと』って思い込んで。
「おまえに拒絶されて、二人きりになるのを避けられて、ようやく自分のしでかしたことを後悔した。……オレは、おまえを理解しようとしなかった奴らと同じだ。心のどこかでおまえを下に見ていた。……ハハ、最低だろ?」
「ほんとサイテーだよ。おかげでしばらく男が怖くなったんだからな」
「オレのせいで、おまえは余計に家に閉じこもるようになっちまった。すまん」
「三年も前の話だ。もういいよ」
コイツも馬鹿なりに考えて、俺の警戒を解こうと必死になっていた。遊ぶ時に必ず女の子を同伴していたのもそうだ。『もう手を出さない』とアピールするためだけに。
「ずっと俺が外の世界との繋がりを絶たないようにしてくれてたよな。……最近になって、やっとそれに気付いた。だから、ありがとう」
俺がミノリちゃんに会えたのもショウゴが外に連れ出してくれたおかげだ。彼女と出会わなければ、俺は今でも部屋に閉じこもったまま、自分の体質を言い訳にして周りを妬んでいただろう。
無言で涙を流すショウゴの前に回り込むと、思いきり抱きすくめられた。あの時とは違う、親愛のハグだ。怖さは全く感じない。「馬鹿だな」と笑いながら背中を軽く叩いてやると、ショウゴは声をあげて泣き出してしまった。