39話・おばあちゃんキラー
打撲の痛みが治まった頃から体力作りを始めた。
と言っても、家で筋トレしたり暗くなってからウォーキングするくらい。今まで何もやってこなかったから腹筋や腕立て伏せ数回だけでもかなりキツい。少しずつ回数を増やしていく。
そして、夜に歩くようになって気付いたことがある。
田舎、夜に歩いてる奴が何気に多い。
若いのから年寄りまで、そこら辺を歩いている姿をよく見掛ける。昼間働いて、更に夜は体力作りのために歩いてるのか。普通の人すげえ。やっぱり俺は甘えてたんだなと改めて実感する。
二、三日同じ時間、同じルートで歩いていたらウォーキング仲間が出来た。おばあちゃんのグループだ。ご近所同士で毎晩集まって健康のために歩いているらしい。
「最初はどこの不良かと思ったけど真面目にウォーキングしてるんだもの、偉いわねえ!」
「ほんと感心感心」
「飴ちゃん食べる?」
「ウチの孫なんかアタシに寄り付きゃしないわ」
「ウチも。お小遣いあげる時だけよ、にこにこして寄って来るのは」
街灯の少ない夜道で一人寂しく歩くよりは、と一緒に歩くようになったんだけど、ハッキリ言ってばあちゃん達に付いてくだけで精一杯。還暦過ぎてるのにみんな健脚。足速い。ウォーキングっていうか、もはやこれは強歩だろ。
「ちょ、待って。なんでそんな元気なの」
「あらあら、ちょっとゆっくりにしようか」
「アタシらは毎日畑の世話をしてるからねえ。足腰の強さはそこらへんの若いのには負けないよ〜」
「畑?」
「今の時期は暑いから、朝起きてすぐ畑に出てね、草を取ったり水を撒いたり収穫したり」
「スーパーや産直センターに卸しに行ったりね」
「昼間いちばん暑い時間は寝てるのよ。だから夜は目が冴えちゃって。ねーえ?」
「そうそう。だからこうして歩いて程良く疲れてからお風呂入って寝るのよ〜」
息を切らした俺に合わせて歩調をゆるめながら、おばあちゃん達は笑いながら盛り上がっている。強い。俺は女子高生だけでなく、おばあちゃんにも勝てないのか。
「それよりアンタ痩せ過ぎだよ。もっと食べなきゃ!」
「ウッ……やっぱりそう?」
「もっと肉つけないと倒れちゃうわ」
ミノリちゃんにも言われたことだ。
実際この前倒れたと正直に答えたらめちゃくちゃ心配されてしまった。その後、おばあちゃん達は別れ際に野菜を持たせてくれた。わざわざ一旦家に帰って持ってきてくれたのだ。
「好き嫌いはない?」
「夏野菜はぜんぶ好き。ありがと」
「まあ、作った甲斐があるわぁ! ウチの孫なんかトマトとピーマン食べてくれないのよ〜」
「そうなんだ、美味いのにな」
「アンタ良い子だねえ、飴ちゃん袋ごとあげる!」
気付けば両手に野菜が山ほど詰まったビニール袋を持たされていた。おばあちゃん達に礼を言って別れ、帰宅する。
話し合いをした日以来、親父が家に帰ってくる日が増えた。長距離配送の仕事を控え、近場の仕事に切り替えたらしい。
山のような野菜を持ち帰った俺を見て、親父は目を丸くした。
「おまえ、その野菜はどうした」
「ばあちゃん達に貰った」
「……そういう方向で稼ぐつもりか?」
どういう方向だよ!
野菜は親父と二人でありがたく食べた。