34話・頼られていないという現実
空手の全国大会で上位の成績を残したストーカー野郎こと須崎。それはそれで構わないんだが、どうも再び暴走を始めたらしい。
「付きまとうのを禁止されたから、今度はミノリの両親から交際許可を得るつもりみたいで」
「はぁ〜〜???」
なんだそりゃ。
確かに禁止された付きまとい行為には該当しないが、外堀から埋めるようなやり方を選ぶとは。
「大会を終えてハイになってるだけかもしれないけど、もう既にミノリの家に連絡して約束を取り付けたらしいんです」
ルミちゃんは終始険しい表情だ。
撃退したと思っていたストーカーが懲りずに動き出したんだ。しかもこれは正攻法。付きまとい行為でない以上、外野は口を挟めない。
今回の俺は完全に部外者である。直接ミノリちゃんから相談されたならともかく、同じく部外者のルミちゃんから話を聞いただけでは動けない。
「……なんで俺にその話すんの」
二人きりでなく家族の前ならおかしな真似はしないだろう。ミノリちゃんに無理強いすることなく冷静に話をするというだけなら須崎の邪魔をする権利なんかない。
そう思って尋ねると、ルミちゃんはメガネの下の目を何度も瞬かせ、平然とこう言い放った。
「ミノリのこと好きですよね?」
「えっ?」
「えっ?」
今なんて?
「だから、プーさんはミノリのこと好」
「エッ、なんで? いやそんな、違っ」
「そんなに慌てなくても。真っ赤ですよ」
「ウッ……」
急に気持ちを言い当てられて動揺した。
ていうか、ルミちゃんと会ったのは今を含めてたった二回なのに、なんでバレてんの!?
「見れば分かりますよ。ミノリを助けるために必死になって駆けつけたり須崎君に立ち向かったりじゃないですか」
そうでした。
結局俺は殴られただけで、ミノリちゃんを助けられたのはルミちゃんが機転をきかせてくれたおかげなんだけど。
「だから、リエがプーさんと付き合ってるとか言い出した時はビックリしました。あの事件の後、急にですよ。もしかして、あの時……」
「いいから。そーゆーことにしといて」
やはりルミちゃんは鋭い。
どんな理由があろうと、リエが提示した条件を飲んだのは俺だ。対価として須崎に連れ去られたミノリちゃんの居場所を教えてもらい、その結果間に合った。俺から取り引きを反故にするわけにはいかない。
「昨夜ミノリから電話で相談された時、プーさんに知らせないのかって聞いたんです。でもあの子、プーさんに怪我させちゃたことにすごく責任を感じてて」
「……そっか」
ルミちゃんには電話したのに俺には何も無しか。
頼りにされていないという事実がものすごく寂しい。
いや、そもそも俺とリエが付き合ってるとミノリちゃんは思っている。『友だちの彼氏』に個人的に連絡するような子じゃないもんな。
「わたしはショウゴさんから聞くまで知らなかったんですけど、プーさんは昼間外に出たらダメな体質なんですよね。ミノリはそれも気にしてました。自分のせいで無茶をさせてしまったって」
「あれは俺が勝手にやったことだから」
「ミノリはそう思ってないですよ」
あの時、ルミちゃんは須崎の行き先を知るために俺んちに来ただけ。俺にしか教えないとリエが条件をつけたからだ。その後の行動は誰かに頼まれたワケじゃない。俺の意志だ。
でも、これ以上関わっていいんだろうか。