3話・脈アリかと思いきや、まさかの
「プーさん、こんにちは」
「いらっしゃい、ミノリちゃん」
あの日以来、ミノリちゃんは本当に俺んちに来るようになった。テスト週間が終わっても、授業が終わってからすぐ下校して訪ねてくる。滞在時間は午後四時から五時半くらいまで。目的はもちろん漫画『マジカルロマンサー』を読むためである。
向かいに座るミノリちゃんは、昨日の続きの巻を真剣に読んでいる。じっくり目に焼き付けているのか、一日に一冊ずつのスローペースだ。
「部活とかやってないの?」
「ありますよ、週二回。月曜と木曜に」
つまり平日のうち、部活のない日を俺んちで過ごしてるということか。週三回、放課後の数時間とはいえ友達と過ごした方が有意義だと思うけど。まあ、どう過ごすか選ぶのはミノリちゃんだ。
それはともかく、彼女は何も疑問に思わないのだろうか。俺は二十歳の男で、その男の部屋で二人きりになっているという現状に。
正直、これは試されているのでは?
漫画云々は単なる口実で彼女は俺に会いたくて通ってきているのではないか、という期待が高まる。
無職ニートだが、俺も一応男子である。年頃の女の子と狭い部屋で二人きりという状況に何も感じないはずもなく、妙に意識してしまっている。
飲み物のお代わりを注ぐために隣に座る。
漫画に夢中になっていた彼女が「ありがとうございます」と顔を上げた。すると、間近で目が合う。ミノリちゃんは頬を赤らめ、困ったような微笑みをを浮かべ、再び視線を手元の漫画へと戻した。気のせいか、目が潤んでいる。
え〜っ!?
なにコレ可愛い!!
絶対脈アリでしょ!!?
遊び人の厳原姉妹と違い、ミノリちゃんは真面目そうな子だ。好きでもない男の部屋に入り浸るなんてしないはず。その証拠に、こんな風に接近しても嫌がる様子はない。
「あ、あのさぁ」
「なんですか?」
どんなに漫画に熱中していても、俺が話し掛ければきちんと顔を上げてこちらを向いてくれる。適当に聞き流さない。そういったところも好印象。
「俺と二人きりで平気?」
「はい?」
思い切って尋ねると、ミノリちゃんは小首を傾げた。
「平気ですけど」
「え、それってどういう」
逆にこちらが挙動不審になってしまう。
平気ってどういう意味で?
「プーさん相手なら一人で撃退出来るので、身の危険は感じてないです」
「げっ、撃退!?」
思いもよらぬ回答に、俺は目を丸くした。
「プーさんて痩せてますよね。身長はあるけど、二の腕や腰は私より細いんじゃないですか?」
「え、そ、そう……?」
「正直言って、一対一で負ける要素がありません。だから安心してお邪魔出来てるんです」
「へ、へえ……」
確かに、日中家の中でゴロゴロ過ごす俺の身体には筋肉がほとんど付いてない。体力が無いのは先日行き倒れていた件でバレている。
ミノリちゃんは一見華奢に見えるけど、健康的な体つきをしている。間違いなく俺より体力があるだろう。
なるほどね〜。
警戒に値しないと判断されていたのか。
男として全然意識されてないってことじゃん!