23話・ストーカー野郎と直接対決 2
「そこを退けよ! 聞こえてるのか!?」
ストーカー野郎こと須崎は、ミノリちゃんとの間に立ち塞がる俺を憎々しげに睨みながら怒鳴りつけてきた。物凄い剣幕だ。高圧的な態度で怒鳴られれば、並の人間ならビビって逃げ出すかもしれない。
だが、今の俺には効かない。
何故なら、まだ全力疾走の疲れで身体がプルプルしてて動けない状態だからだ。
呼吸を整えながら、後ろに立つミノリちゃんの様子を探る。彼女はまだ怯えているようだ。こんな奴と二人きりにされて、どれだけ怖い思いをしたんだろう。
「ぷ、プーさん……」
「…………」
喋れない代わりに後ろを振り返って笑顔を見せる。すると、涙目だったミノリちゃんがほんの少しだけ表情を緩めた。
その時、彼女の手に目がいった。さっき須崎に掴まれていた右の手首には赤い跡が残っている。どれだけ強い力で掴まれていたのか。
逆に言えば、ずっと掴んでなければ逃げられると須崎自身も分かっているということだ。これまで彼女には避けられ続けてきたのは事実。今日だって、リエが協力しなければ逃げられていた。
いや、五年もしつこく追い回すくらいだ。理解できないんじゃない。コイツは理解したくないんだ。ミノリちゃんから嫌われているという現実に。
「邪魔なんだよ!!」
ついに痺れを切らした須崎が俺の胸ぐらを掴み、そのまま突き飛ばしてきた。反動で被っていたパーカーが外れ、金髪が露わになる。
それを見て、須崎が明らかに動揺した。
金髪にビビったんじゃない。見るからにガラの悪そうな男がミノリちゃんの知り合いだとは思いもよらなかったんだろう。
「なんでこんなチャラそうな奴がミノリさんと一緒にいるんだよ!」
「そっ、そんなの須崎君に関係ないじゃない」
「ダメじゃないか。こんな男とどこで知り合ったの。夜遊びでもした? まさかね。ミノリさんはそんな子じゃないもんね?」
「うっ……」
咄嗟に言い返した彼女に対し、須崎はまた高圧的な物言いで黙らせようとしてくる。再び青褪めるミノリちゃんを見て、俺は妙に冷静になった。
「オマエ、女の子口説く時いっつもそうなの?」
やっと呼吸が整った。
ようやく喋れる。
「ミノリちゃんはさぁ、オマエと一緒にいたくないって言ってんの。つーか、今までずっと断られてたんだよね? 聞いてなかった?」
「うっ、煩い黙れ!!」
そうだ、もっと怒れ。
この際オマエの本性を全部出してミノリちゃんから確実に嫌われてしまえ。
俺はちらりと視線を東屋の外にある茂みに向け、すぐ須崎へと戻した。
「力で無理やりねじ伏せて、言うこと聞かせて楽しいかよ。それでミノリちゃんから好きになってもらえるとでも思ったか?」
「こ、この、不良の癖に……」
ギリ、と奥歯を鳴らし、須崎が拳を握り締めた。
一歩、また一歩と距離を詰めてくる。
そして、ついに拳を振り被り、俺に向かって殴り掛かってきた。
「プーさんッ!!」
ミノリちゃんの悲鳴が河川敷に響く。
俺はガードもせず、拳をそのまま腹に喰らった。