20話・メガネ女子からのSOS
エロ本が見つかったあの日から、ミノリちゃんはパッタリと俺んちに来なくなった。
そりゃそうだよな。ヒョロくて弱っちくて無害だと思ってたヤツが一丁前に性欲持ってるって判明したんだ。危なっかしくて二人きりになんかなりたくないよな。
ああ〜、エロ本だけ別の部屋に片付けておけば良かった。後悔先に立たず。恥の多い人生。あんなものを見つけちまって、さぞかし彼女も驚いたことだろう。
……そういえば、あの本を見つける前からミノリちゃんは様子がおかしかったような。
いやいや、薄々俺がただの男だって気付いていたからかもしれないし、こっそり彼女に想いを寄せていることがバレていたのかもしれない。エロ本は単なる切っ掛けで、本当はずっと前からここに来たくなかったのかもしれない。
「告る前にフラれた……」
部屋のど真ん中で大の字になりながら、ただぼんやりと過ごす。顔を横に向け、いつも彼女が座っていた辺りを眺める。なぜ今ここに居ないんだろうと考えているうちにエロ本事件を思い出し、再び自己嫌悪に陥る。この繰り返し。
告白なんか出来るわけがない。
俺には想いを告げる資格がない。
ストーカー野郎の方がマシだ。
むしろ彼女にはソイツの方が──
『ピンポーン』
玄関のチャイムの音に飛び起きる。
転がり落ちるように階段を降り、サンダルも履かずに土間を跨いで扉を開けた。
「ミノリちゃ……あれ?」
「どうも、はじめまして」
目の前に立っていたのは制服姿の二人の女子高生。初めて見る黒髪ショートカットのメガネの子が、何故かリエの首根っこを掴んでいる。真夏だというのに、彼女は長袖のカーディガンを羽織っていた。日焼け対策かな?
「わたし、ミノリの友人の『敦賀ルミ』と言います。貴方が『プーさん』……ですか?」
「え、ああ、そうだけど」
敦賀ルミと名乗ったメガネ女子は、俺の頭からつま先までジロジロ観察した後、勢い良く頭を下げた。
「急に押し掛けてすみません。ミノリを助けるために手を貸してください!」
「放っておけばいいじゃ〜ん」
「リエは黙ってて!!」
「ま、待って。話が見えないんだけど?」
どうやらメガネ女子は助けを求めてここまで来たが、リエはそうでもないらしい。リエを捕まえているのは、俺んちの場所を案内させるためか。
ミノリちゃんを助けるために、と言った。
それは、つまりどういうことだ?
俺が知らないところで何が起きてる?
「今日は出校日だったんですけど、帰り際にミノリが嘘の呼び出しで須崎君に捕まってしまって」
「須崎って誰?」
「中学の頃からミノリに付きまとってる男子です」
「あー、ストーカー野郎のことか!」
話は聞いていたが、名前までは知らなかった。
とすると、このメガネ女子……ルミちゃんはミノリちゃんの味方で、学校にいる間ストーカー野郎から守ってくれていた子だろう。
「わたしが目を離した隙に、どこかに連れて行かれちゃって……」
真剣な表情で俺を頼ってきたルミちゃんと違い、リエはヘラヘラと笑っている。さっき言っていた『嘘の呼び出し』はコイツがやったのかもしれない。
「だからさぁ、別に探さなくて良くな〜い? ちょっとだけ二人きりにして話をさせてあげれば、ミノリだって須崎君の気持ちに応える気になるって〜」
何を言ってるんだコイツは。
ミノリちゃんは長年付きまとわれてトラウマになっている。ストーカー野郎の姿を見るだけで身体が竦んで動けなくなると言っていた。
そんな状態でマトモに話が出来るか?