2話・地味系女子高生、昔の漫画に食い付く
情けないアダ名の由来を知られ、なんだか吹っ切れてしまった。無職、ニート、平日の昼間から暇そうにしてるダメな大人だってことは揺るがない事実。今さら取り繕ってももう遅い。
「そういえばミノリちゃん、学校は?」
「今日はテストで半日だったんです」
「なるほどね〜……」
だから昼前に通り掛かったんだな。納得。
「学生時代はテストなんて大嫌いだったけど、そのおかげでミノリちゃんに助けてもらえたんならラッキーだな。テスト様々じゃん」
「あはは、変なの」
力説する俺を見て、彼女は呆れたように笑った。
最初のうちは表情も口調も硬かったけど、少しだけ警戒が薄れてきたような気がする。最初に情けないところを見せたからかな?
「この部屋、涼しいですね」
「周りが木ばっかりだからね〜」
窓から入ってくる風に目を細めるミノリちゃん。
俺んちの周りには背の高い木がたくさん生えていて、いい感じに日陰を作ってくれている。真夏でも部屋の窓を全開にしておけばエアコン入らずの涼しさだ。
「プーさんが暑さに弱いのは、こんな居心地のいい部屋で生活してるからなのかも」
「はは……そうかもね」
厳密に言えば違うけど、そういうことにしておこう。
話しているうちに、ミノリちゃんの視線が窓から壁際に置かれた本棚へと移った。並べられた漫画本の背表紙を見て目を見開き、ガタッと腰を浮かせる。
「あ、あの漫画、アニメの!」
「知ってんの? 『マジカルロマンサー』」
「はい、最近再放送で……。読みたいけど古い作品だから本屋さんに売ってなくて」
「ああ〜、二十年以上前の漫画だもんなぁ」
『マジカルロマンサー』はひと昔前に流行った少年漫画で、アニメ化・映画化された人気作品である。しかし、完結から十数年経っている上に、アニメの再放送でハマった人が増えた。原作の単行本は全巻ネットオークションで高値が付いており、学生には手が出せないお値段となっている。俺の部屋に置いてある漫画は連載当時親父が買い集めたものだ。
しかし、一見真面目そうなミノリちゃんが漫画に興味を示すとは思わなかった。
「読みたい?」
「読みたい!」
「貸そうか?」
「いいの!?」
おっ、すごい食い付き。
ホントに好きなんだな。
「あっ……でもウチ猫がいるから持ち帰るのは危ないかも。前に教科書ボロボロにされたことあるし」
「ああ〜、そりゃ危ないな」
噛み癖の酷い猫がいる場所に大事な借り物を置いておけないと思ったのだろう。ミノリちゃんは苦悶の表情を浮かべて悩んでいる。
「じゃあ、うちに読みに来ればいいよ」
「ホントに? 迷惑じゃないですか?」
「俺だいたい家に居るし」
「ありがとう、プーさん!」
よほど嬉しいのか、ミノリちゃんは満面の笑みで俺の手を握ってきた。結構表情豊かで面白い子かもしれない。