19話・見つかっちまった悲しみに 2
あー失敗した。
本棚の手前にある『マジカルロマンサー』以外読まないと思って完全に油断してた。そんなワケないよな、漫画好きなら他にも読むだろ。ていうか、見つかったのがアレだけで良かった。実は他にも何冊かあるんだよなあ。
ちらりと向かいに座るミノリちゃんを見れば、普段と変わらぬ様子でアイスをちびちび食べている。
表紙しか見てないならセーフ。
チラッとでも中身を見ていたらアウト。
どこまで見たか俺から聞くのは絶対無しだ。
無言でアイスを食べ終わり、空のカップとスプーンを受け取る。本来ならば階下まで片付けに行くところだけど、テーブルの端に寄せるだけにしておく。目を離した隙に更なる秘密を発見されたらマズいからだ。
話をそらすため、当たり障りない天気や時事ニュースの話題を投げてみるが、会話は全く弾まない。
そんな微妙な空気の中、ミノリちゃんが口を開いた。
「プーさん、彼女とか作らないの?」
「え、いや、そもそも出会いないし」
ミノリちゃんの視線は窓の外に向けられている。
陽射しを遮るための簾が風で揺れた。
何を考えての発言なのかよく分からない。
「こーゆーの、興味あるんでしょ?」
そう言って彼女がそっとテーブルに置いたのは、さっきの本と共に本棚の奥底に隠していた本だった。
しまった、回収し損ねていたか……ッ!!
何の本かは察しろ。肌色多めでお子様には買えないブツとだけ言っておく。さっき親父の部屋に投げ込んだ本よりキワどい表紙のヤツだ。特殊性癖ではないけれど、年頃の女の子に見せていい本じゃない。
「アッ、えーと、そりゃ俺も男だし」
嫌な汗をかきながら、必死に言葉を選んで弁解する。無職ニートという社会の底辺的存在だが、俺も一応二十歳の男である。性欲も人並みにある。
しかし、それを現役女子高生に言わねばならないこの状況はなんなんだ。拷問か???
「私が入り浸ってたら彼女作る時間ないよね」
「そっ、そんなの関係ないよ!」
ミノリちゃんが居なくても、俺はこの部屋で一人虚しく過ごすだけ。無職の成人男性はそもそもモテるはずがない。太陽の下に出られない俺なんかそれ以前の問題だ。
「……プーさんが優しいから、私甘えてた。何の関係もないのに、ずっとおうちにお邪魔して」
「いや、それは違……えっ?」
俺の言葉が間違って受け止められている。変に誤解をされている。早く訂正しなくてはと分かっているのに、エロ本が見つかった恥ずかしさでうまく喋れない。
ワタワタしている間に、ミノリちゃんはスクールバッグを持って立ち上がった。お揃いで付けたサメのキーホルダーが揺れる。
「今日は帰る。アイス、ごちそうさまでした」
「え、ちょっ……」
情けないことに、俺は追い掛けることすら出来ずに彼女の後ろ姿を見送った。
ミノリちゃんはその日から来なくなった。