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18話・見つかっちまった悲しみに 1

 翌日の午後、手土産がわりの夏野菜と共にミノリちゃんがやってきた。今回もナスやピーマン、きゅうりがメインだ。


「いつも悪いね〜」

「いえ、貰ってくれるだけで助かるから」

「おじいさん達にお礼言っといて」

「プーさんがたくさん食べてくれてるって言ったら喜んでたよ」

「だって美味いもん」


 ミノリちゃんちの野菜はホントに美味い。

 だが、残念ながら俺の食べ方のバリエーションが酷く乏しいせいでせっかくの美味さが活かせていない。生で食うか焼いて食うかの二択のみ。流石に申し訳なくなってきたので、ミノリちゃんの家ではどうやって食べているのか聞いてみた。


「うちでよく作るのはナスの揚げ浸しかな。ひと口大に切ったナスを素揚げして麺つゆに浸して冷やして食べるの。かつお節と、すりおろした生姜乗せて」

「それ絶対美味いやつじゃん」

「簡単だから作ってみたら?」

「揚げ物やったことない」

「ああ〜、後片付けも大変だしね」


 ほぼ一人暮らし状態だから調理道具も材料も最低限のものしかない。揚げ物をするなら専用の鍋や油を切るためのトレイなどをイチから揃えなくてはならない。面倒さが勝って重い腰が上がらないというのが正直なところである。


 俺の部屋に入ると、ミノリちゃんは本棚の前に座って目当ての漫画を探し始めた。『マジカルロマンサー』の続きを読むのだろう。


「あれ、夏休みの宿題は?」

「もう終わったもん」

「まだ八月になったとこだよ? 早いね〜」

「出校日までに出さなきゃいけない宿題が多かったから、全部一気にやっちゃおうと思って」

「出校日いつ?」

「週明けの十日」

「そっかぁ……」


 自慢出来る話じゃないが、学生時代の俺は期限内に宿題を終わらせたことなどない。当時つるんでたヤツらもそうだったから気にしたことすらなかった。

 それに比べ、ミノリちゃんはバイトもしていたというのにキッチリ宿題を終わらせている。しっかりしてるなぁ。


「学校帰りに付きまとわれないようにね」

「あ、うん……気をつける」


 出校日ともなれば、例のストーカー野郎も学校に来る。夏休みは接点が少ないから必ず接触をしてくるはずだ。それを心配して声を掛ければ、元気のない返事が返ってきた。

 なんだかミノリちゃんの様子がおかしい。そういえば、ウチに来た時から少し違和感があった。今日は特に暑いし、夏バテ気味なのかもしれない。


「アイス食べる? 持ってくるね〜」


 せめて冷たくて甘いもので元気づけてやろうと、俺は一人で階下の台所へ行き、冷凍庫からカップアイスを二つ取り出した。一緒に食べようと思い、昨夜の買い出しの時に買っておいたものだ。

 スプーンも持って階段を上がり、部屋に戻ると、本棚の奥深くに隠してあった本をミノリちゃんが手にしているところだった。


「〜〜〜〜〜ッ!!?」


 声にならない悲鳴を上げつつ、そっと本を奪い返し、隣の親父の部屋に投げ込む。そして、何事もなかったかのように彼女にアイスを手渡した。


「あ、ありがと。いただきます」

「ど、どうぞどうぞ」


 どうしよう。

 チョコチップアイスの味が分からねえ。

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