プロローグ4
その部屋は、四隅にわずかな光が灯されただけの何もない部屋だった。私がキョロキョロと見回していると、バレンティーノさんは床に手をかざして何かを呟いた。すると、ぼうっと床が明るくなり、そこに航空写真のような映像が現れる。
「わっ……!」
私はおもわず後ずさった。映像は私の足元まで広がり、まるで空中に浮いているような錯覚を覚えたからだ。
「大事ない。これは、天空から見たフォーリアの大地を映しているだけだ」
バレンティーノさんはそう言いながら私を手招きした。
私はぐっと拳を握りしめると、おっかなびっくり一歩を踏み出した。確かに床はきちんとあるようだが、透明のガラス張りの床を歩いているようで気が落ち着かない。
そんな私にふっと笑みを見せると、バレンティーノさんが私に手を差し伸べた。
「私に捕まっていれば安心だろう?」
私は恥ずかしくなりながらも、差し出された手に捕まった。そこから伝わる体温が、少しずつ気持ちを落ち着けてくれる。
改めて床の映像に目をやると、白い雲が流れるように動いていることに気付いた。さっきバレンティーノさんが言った『天空から見た』というのは、これが『リアルタイムの映像』ということなのだろう。
バレンティーノさんは、空いた手で床を指し示しながら説明していく。
「向こうが北、手前が南。そして、こちらが東で、その反対側が西だ。分かるか?」
「はい」
真下に見えるのは、緑濃い陸地と青い海。東、南、西の三方が海に囲まれ、北側には山地が広がっている。地形的にはどこかの半島のような場所らしいが、その周囲には濃い霧のようなものがかかっていてよく見えない。
「あの山の向こうには、何があるんですか?」
私が北の方向に指を差すと、バレンティーノさんは「さてな」と言って首を捻った。
「この先は、私の力が及ばない場所だ。故に、見ることはできない」
「そうなんですね」
ということは、この半島が「フォーリア」という世界なのだろうか?
異世界なんて言葉だけ聞くと地球規模のものを想像してしまうが、意外と狭い空間なんだなと改めて思った。