プロローグ2
「落ち着いたか?」
「あ、はい」
香りの良いお茶をいただき気持ちの落ち着いた私は、改めて対面に座る男性を見た。
肩まで伸びた青い髪。金色の瞳。そして、彫刻のような整った顔立ち。まるで、漫画の世界から飛び出たかのようだ。翠色の宝石をあしらった金の額飾りや、光沢のある白いローブのような服装も、ギリシャ神話の登場人物を連想させる。
「ん? どうした?」
思ったより、じっと見つめてしまっていたらしい。男性は口許からカップを外し、眉をひそめた。
「私の顔に、何かついているのか?」
「あ、いえ……」
私は恥ずかしくなって下を向いた。初対面の男性をガン見するなんて、我ながらはしたない行動だったと反省する。
男性は「そうか」と言って、気にした様子もなくまたカップを口に運んだ。その所作は、さっき私に手を差し伸べたように実に優雅だ。
また目を奪われそうになった私は、「いけないいけない」と心の中で呟き、一呼吸おいてから口を開いた。
「それで、あの、さっきの質問なんですけど……」
「ああ。『ここがどこで、なぜ自分がここにいるのか?』という話だったな」
「はい」
私が頷くと、男性はカップを置き両手を組む仕草をした。
「そうだな、まずはそこから話すべきか……」
男性はふっと息を吐くと、低音の艶のある声で話し始めた。
「ここは、フォーリアと呼ばれる地だ。フォーリアとは『神々の息吹き』という意味で、我ら神と人間が共に暮らしている世界。なぜ、そなたがこの地にいるかというと──」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
私は慌てて話を遮った。
「どうした?」
「あ、あの……、いきなり話についていけないんですけど!」
なんか、聞いたことがない単語とか、『世界』がどうとか言ってた気がするんだけど!?
私は頭がパニックになり、荒い息のまま窓際に駆け寄った。風に当たろうと窓から顔を出すと、ビュンと何かが横切る。見ると、それは1羽の鳥だった。
こんな近くに鳥が?と思ったが、眼前に広がる景色を見て私は愕然とした。そこから見えたのは、雲の下に広がる大地。つまり、ここは、雲の上にある場所なのだ。
「う、うそ……」
現実ではあり得ない──いや、富士山の上ならあるかもだけど──状況に、私はその場に崩れるように座り込んだ。