プロローグ1
それは、あまりにも突然で驚くしかなかった。
でも、私は心を決めた。私を信頼してくれる、あの人のために──。
目を覚ましたのはベッドの上。天蓋から下がる白いレースが、ゆらゆら揺れている──。
私は、しばらく夢うつつにそれを眺めていた。ここしばらくハードな仕事が続き、なかなか眠れない日々を過ごしていたのだが、ようやくそれも一段落し、昨日は早めにベッドに潜り込んだのだった。
今朝は久しぶりに良く眠れたようで、頭もスッキリしている。窓から吹き込む風の、なんと気持ちいいことか──。
だが、頭がはっきりとしてくるにつれ、その光景が異常であることに気付く。私の部屋のベッドには、こんな立派な天蓋など付いてはいないのだ!
ハッと体を起こし辺りを見回すと、レース越しに低く艶のある声が聞こえてきた。
「ああ、目覚めたのか?」
「えっ?」
聞き慣れない声に身を固くしていると、優雅な仕草でレースを払い、一人の男性が現れた。深い海のような青い髪に金色の瞳。まるで、ギリシャ彫刻のような整った顔立ちに、おもわず息を飲む。
男性は、ベッドの上で固まる私を見て怯えていると感じたのだろう。穏やかな笑みを浮かべながら、謝罪の言葉を口にした。
「すまない。そなたを怖がらせるつもりはなかったのだが……」
「あ、いえ……」
『そなた』などと言われて益々緊張してしまったが、私は意を決して口を開いた。
「あの、ここってどこですか? 私、なんでこんな所に? それに、あなたはいったい──」
「待て」
青い髪の男性は、手で私を制すると困ったように言った。
「そんなに矢継ぎ早に質問されては、答えたくとも出来ないではないか」
「あ……、すいません」
私が謝ると、男性は「いや」と言って首を降った。
「状況が把握出来ずに、困惑するのはしかたがないことだ。今、お茶の用意をさせている。こちらに来て、ゆっくり話そう」
そう言って、すっと手が差し伸べられる。穏やかな笑みをたたえる男性を見ているうちに、私の中から『恐れ』の感情はなくなっていた。私は小さく頷くと、その手に自分の手を重ねた。