固有魔法
突然の専門用語が出てきます、申し訳ない。
[固有魔法]
読んで字の通り当人のみが使える強力な、そして固有の魔法能力です。
扉に寄りかかりながら、ボケッと時間をつぶす。
……敵か?
鋭い殺気に当てられ、ばれない程度に周囲を探る。
「来る」
その瞬間、彼のいる廊下の窓から黒ずくめの服の男が窓を割って侵入してくる。
「面会ってツラじゃねぇな!」
真正面に現れた敵は一気に距離を詰めると、剣を振り襲い掛かる。
「はあっ!」
腰に差していた短剣を抜き、敵の剣を正面から受け止める。
「[天啓の名により 汝らを焼き尽くさん フレイム・エクス・バレット]」
敵の詠唱が響くとともに、敵の背後には炎弾が浮かび上がり、それが発射される。
このまま避けても王女の部屋に燃え移るか、だったら!
真正面から襲い来る炎弾を一息の後に切り捨て、空中で魔力の塊へと四散させる。
「貴様、神の啓示を切ったか⁈」
切り捨てて四散した魔力に気づき、敵は怒りを露わにする。
神の啓示? こいつ協会の関係者か? まあいい。
「違げえな、これは魔法って言うんだよ!」
一気に敵の元まで跳躍し、短剣を一寸の後に敵に振り下ろす。
「——っ! ……くそ、背信者がァ!」
彼の短剣が敵の肩に刺さり、敵は叫びながら城の窓から飛び降りる。
「ちょ! 待て……って、もう逃げたかよ」
敵が飛び降りた城の窓まで行き地面を見るが、すでにそこに姿は無かった。
血の後でも追うか? いや、どうせ途中で消すか。
追うことを諦め、取りあえず扉の前まで戻る。
「何か、あったのですか?」
「……いや、何でも無いな」
扉の向こうから聞こえる声に、真実を言おうか少し迷うものの、適当にはぐらかす。
「貴方は、味方なんですか?」
突然そんなことを聞かれ、少し戸惑う。
「そうだな……今は味方だ」
言い終えると、扉の中から安堵した様な、そんな吐息が聞こえる。
「入ってください」
扉から聞こえるその声はどこか有無を言わせぬ迫力があった。
「…….何だよ」
扉を開けて中に入る。部屋の中には王女以外誰もいなかった。
よく考えたらおかしいよな。何でこの付近に俺とこいつしか居ないんだよ。
「タツヤさん」
「なん——」
「この名前って、嘘ですよね」
スエルの言葉に返答を遮られる。
「なぜそう思うんだ?」
「嘘を見抜くことのできる力、[真偽勘破]私の固有魔法です」
突然王女が明かした事実に、少し戸惑いを見せる。
当人しか使えなく、相当な才能が無いと開花しない、あの固有魔法を王女が持ってるだと?
「本当、なのか?」
「いえ、良いんです。信じてもらえなくても、最後に少し言いたくなっただけなので」
またも儚く言葉を紡ぐ。それは己の死期を悟っている様だった。
「本当の名前を、教えてくださいませんか?」
「……それは、無理な相談だな」
「そう、ですか。……では、さようなら。勅令です、もう私の警護は宜しいので、お帰りください」
王女は寂しそうにそう告げる。
「は? いきなりかよ、名前教えてもらえなくて、ふてくされてんのか?」
「いえ、そんな事ではありません。貴方様が私の味方だと知れて、それが嬉しかっただけなんです。だから、もうお帰りください」
「は? お前、言ってる事が無茶苦茶なの自覚してんのか?」
頭を掻きながら、ここで帰るまいと食い下がる。
「ええ、分かっています。貴方は最後に私を助けようとしてくれたお方、なので死なせるわけにはいかないと思ったまでです」
「死なせるって、何を突然……」
「貴方からしたら突然、ですよね」
スエルは少し呼吸を整えると、心配させまいと精一杯の笑顔を作る。
「私は今日、殺されるんです」
いつか書けたら世界設定とか書きたいですね。おんなじ世界のほかの話も。