黒ローブのメイド
……昼って何だよ、昼って。
とりあえず十一時に広告の紙の前で立ち尽くす。太陽は上がっており、空の光は暗い路地裏を明るく照らすが、それでも完全に明るくはなかった。
「……またこの紙の前か。これにも何か仕掛けてあるのーー」
「お早いですね」
「うわびっくりした!」
突然耳元で声が響き、驚きながら飛び退く。
「……そんなに驚きますか」
現れた女は黒いローブをかぶっていたが、時間が昼だと言うこともあいまって昨日よりもよく見ることができた。
姿はまさにメイドが長く黒いローブをかぶっているそのままだった。それ以上でもそれ以下でもなかった。
「な、何かごめんなさい。えっと、結局依頼は何ですか」
「そうでしたね。依頼内容は、第四王女スエルを、次の栄誉授与式まで守っていただきたい」
「守るって……何から」
「……そうですね、仕事を依頼する身、教えなければなりませんか」
黒ローブのメイドはそう言って、一枚の紙に包んだ粉を取り出す。
「これは?」
「端的に言えば証拠、ですかね」
メイドはそう言いながら粉を少し摘まむと、手を出すように促す。促されたとおり手を出すと、そこにメイドが摘まんだ粉を落とす。
「……死なないよな?」
「ええ、一気に行ってください」
意を決して粉を舐めるとその瞬間、強いめまいと吐き気が襲ってくる。
「っう……ああ……っはあ、っく……」
こみ上げてくる不快感を堪えながら、隣のメイドを見上げる。
「これは指定隔離植物、マジシャンフラワーの種です」
「指定隔離植物って……っく、はあ、違法じゃんかよ」
「ええ、違法です。厳戒摂取量を越えてこれを摂取したものは終わることのない苦痛と快楽の沼に沈む、最高の麻薬ですよ」
「……なんで、こんなもんがあるんだよ」
というかこのメイドそんなもんを俺に舐めさせたのかよ!
「先日、王女の食事に混入してました」
「暗殺か」
「ええ、恐らく犯人はこれから毒殺以外も行動を起こすでしょう、そのために貴方のような実力があり、使い捨てることのできる手駒が必要だったのです」
「なるほど、昨日のあの一言はこんな意味だったのか」
「あ……はい、そうです。それよりも、期限なんですが」
「栄誉授与式か」
「はい、その日にスエル様は正式に王女におなりになります。王女になる前に暗殺を成功させたいと思うのが妥当かと」
「確かになってからじゃ何かと注目を集めるからな。敵の目星は?」
「分かりません、しかし恐らく上の王子達の独断か、あるいは共謀ですね」
「なるほど、まあいいか。俺は言われたことをするだけだ。で、依頼を引き受けるのは良いが俺はどこにいればいいんだ?」
「それは、こちらに。[日の灯りの御名の元に我らに道を与えたもう シャドウ・クリエイト]」
メイドが詠唱を終えると、薄暗い裏通りの陰の中に道が現れる。
「こちらへ、城に向かいます」
……陰の中に道か、良い魔法だが、それよりも……。
考え事をしながらも、案内される通りに陰の中を進み始めた。
この後継者編はささっと先に進みたいですね。