迷宮の始まり
「っち、まあ本当なら受けないんだが……」
「ふーん、そんなこと言っていーと思ってんの?」
スエルがジト目でシュウを見つめる。
「い、いえなんでも無いです。で、どうしたんだ?」
少し雰囲気を和らげながら、話しかける。
「え、ええ。私の名前はパメル、冒険者をしている物です」
気絶から目が覚めて少し元気を取り戻したのか、パメルは言う。
「ボウケンシャのカタなんですね」
どこかカクカクになりながら、スエルがお茶を運ぶ。
「……お前何してんの?」
「へ? いや……ちょっとやってみたかったのよね……」
少し照れながら、スエルはシュウの座るソファーの後ろに隠れる。
「こほん、で、なんだ?」
緩み切った空気を締めるために咳払いをするが、特になんの変わりも無く緩んでいた。
「えっと……ここ無限屋であってますよね? あの人の事ならなんでも引き受けるってあの……」
「ああ! あってるぜ!」
どこか嬉しそうに、シュウが答える。
「本当ですか? 聞いた話では結構辛辣な感じだと……」
「あはは、もう本当辛辣ですよ!」
シュウはスエルの頭をバンバン叩く。
「自分で辛辣って言う人も中々いませんけどね……」
「で、今度こそ依頼はなんだ?」
「ああ、そうでした。その、実は私たちのチームが、螺旋迷宮で……」
「——っ、螺旋迷宮だと⁈」
シュウが両手を机の上に叩きつけて聞き直す。
「……はい」
「お前、それ本気か?」
そう問いかけるシュウの表情には、先ほどまでの緩み切った雰囲気はなかった。
「……ねえシュウ、螺旋迷宮って何?」
「ああ、知らないよな。螺旋迷宮ってのは、神代に作られた魔術神秘、色んな遺跡や古城に入り口があるんだ」
「で、それの何がダメなの?」
「螺旋迷宮ってのはな、神代からの魔術神秘で、今の冒険者協会全体の攻略目標だ。だがな、入る時にある一つの約束事があるんだよ」
「約束事?」
「ああ、螺旋迷宮の中で起きた事件は全て、外部に口外してはいけないんだ」
「っな! それって……」
「ああ、パメル。今お前は冒険者協会に反旗を翻そうとしてるのと、同義だぞ」
「……ええ、分かっています。分かった上で、このお話をしています」
「元々俺らは冒険者協会になんか属してねえ、お前が俺らに依頼するならいいんだが、助けられてもお前のチームは恐らく協会から除名だ。それでも良いんだな?」
「……はい」
既に覚悟を決めていたのか、パメルは目線を変える事はしなかった。
「よし、なら行くぞ。螺旋迷宮へと」
シュウは立ち上がって、二人と共に店を出た。