依頼 ~プロローグ~
「せいやっ!」
剣を使い、モンスターを一刀の元に両断する。
「おー、流石タツヤー! ナイス!」
タツヤと呼ばれた赤髪の男は「いやいや」と謙遜する。
「しかしタツヤさんって本当強いっすよねー」
有る程度遺跡の奥まで探索した帰り道、三人は道中で現れる敵を倒しながら遺跡の出口を目指す。
「ん? タツヤ、あの先、モンスターが集まってない?」
言われたとおりに先を見ると、そこにはモンスターとそれと戦う……
「……冒険者か。お前等、荷物を頼む」
タツヤはそう言うと、短剣に持ち替えて構える。
「[万物の源たる根源よ 彼に力を与えたまえ フォース・アディショナル]」
短剣を構えるタツヤに身体強化の魔法がかかり、一瞬で敵を斬り伏せる。
「……っう! あれ? 死んで、ない……」
敵をすべて斬り伏せると、その中心には一人の青年がいた。
「あの、た、助けてくれてありがとうございました」
暗くじめじめした遺跡の中、助けられた青年は律儀に頭を下げる。
「ん? ああ、こっちもついでだが人助けができてうれしいよ」
掛かっていた魔法も消え、タツヤは短剣をしまい、託していた荷物を受け取る。
「ふっふー、こう見えてうちのリーダーは凄いのよ!」
その言葉につられてほかの一人も頷く。
「いやーしかし、一人でこんな遺跡の奥に向かうなんて結構勇気ありますねー」
「いやいや、本当は入り口付近までの予定だったんですけど、色々あってここまで来てしまって……でも、助けてくれて本当にありがとうございました! 俺、そんなに稼ぎがある訳じゃないんですけど、これ……」
助けられた青年は律儀に頭を下げると、小さな麻袋を差し出す。
「いやいや、いらねーって。それより一人で遺跡探索なんて、お前職業は何だ? ちゃんとチーム組んだ方がいいぞ?」
リーダーと思わしき赤髪の男は話題を逸らして受け取ろうとしない。
「そうですか……じゃあこれなら、本当気が済まないので……」
差し出した麻袋を残念そうにしまいながら、青年は腰に差していたものを抜く。
「ん? ……あ、リー、ダー?」
その瞬間、タツヤの前には一つの首が落ちる。
「職業、ですか」
突然落ちた仲間の首を疑い、落ち着いて冷静になるために一つ瞬きをする。その直後……
「……っ! なん、で……」
背後で一つの断末魔が聞こえる。共に遺跡を探索したもう一人の仲間の声が。
「ーーまさか!」
背中の剣を抜こうと背に手を動かした時、やっと自分の右腕が切り落とされていることに気づく。
「俺の職業は無職。まあ最もーー」
「お前だけはァァァ!」
一つの鈍い音が洞窟の中で残響する。それと共にずるりと人の上半身だったものが地面に落ちる。
「無限の職って書いて無職。主に人しか相手にしないけどな」
青年はそう言いながら、すでに壊滅した敵の荷物を漁る。青年の声は誰に聞かれることもなかった。
毎日一話の予定です。
次からはちゃんと依頼を受けるところからなので、よろしくお願いします。