初産
真弥が産まれる前 母親の涼香と父親の肇との恋愛物語
能の家元の長男 宇治咲 肇と里山 涼香は高校時代演劇部に所属する。
肇の高校生最後の夏 ミュージカル 眠れぬ森の美女 ヒロイン役に1年生の涼香 王子役に3年生の肇が選ばれる。
ミュージカル 眠れぬ森の美女の物語あらすじ
ある城で王様と王妃に待望の女の子が産まれた 喜んだ王様は祝宴のを開いた しかし皿が12枚しかなかったために しかたなく12名の魔法使いを招待した。
王女が15才になると 祝宴に招待されなかった報復として13人目の魔法使いが現れて、王女の指に紡ぎ車の針を刺してそのまま眠りつかせた。
ある国の王子が森に囲まれた城に現れた。城の近くに住む老人に「あの城の中には誰がいるのですか?」と尋ねる すると「城の中には美しい王女様が眠っている」と答えた。
それを聞いた王子様は何としても王女の姿を見てみたい思い、どんな危険を冒してでも城に入る決意をして 森の茂みをかき分けて王子は無事に城の中に入る事が出来た。
眠っている王女を見付けてキスをすろと100年の呪いが解けて王女が目を覚まし王子を見て微笑んだ
王様と王妃 そして城の中の全員が目を覚まし、王女と王子はその場ですぐに結婚の祝宴を開き幸せに暮しました。
ミュージカル 眠れぬ森の美女 講演前日 涼香は、胸がドキドキして眠れませんでした。
「以前から好意を持っていた 肇先輩とキスをするなんて・・・」
翌朝、少し眠かったが顔を洗い身支度を整え 今日の講演頑張ろうとシャキッとして出かけました。
母の光代が追いかけて来て「涼香お弁当忘れてるわよ 講演見に行くから頑張ってね」と言った。
「ありがとう お母さん頑張るよ」涼香は光江に手を振った。
朝の日射しが優しく 風は髪をなびかせ路肩の木々はさわさわと音をたて ときめく心を落ち着かせる。
劇場に到着して 出演者の皆さんと挨拶をかわす、衣装室にて着替えをして舞台裏に行くと「王女様 今日は宜しくね」と肇に話しかけられる。
涼香は「はい こちらこそ」と言うだけで目を合わせられない。
講演も順調に進み いよいよクライマックス舞台は暗くなり 眠っている王女と王子様に
スポットライトがあてられる。
肇は、涼香にそっとキスをした 涼香は目を開けて肇を見て優しく微笑みました。
「貴方が、私を眠りから覚してくれたのですね。ありがとう王子様」
「そうです。麗しの王女様 私と結婚して下さい!」
「はい、喜んで・・・」
眠りから覚めた王女と王子の華麗な結婚式が行われました。
舞台の幕が閉じても、会場での拍手は鳴り止みませんでした。
「2人とも記念写真撮るから並んでね」涼香の親友の 湊志保が『パシャパシャ』と
カメラのシャターを押した。
「志保 ありがとう」と涼香は志保に礼を言う。
その後、2人は交際を始めました 肇は京都芸術大学に進学 涼香は高校を卒業後、母光代の呉服屋で着付けや日本舞踊の先生をしながら手伝いました。
「涼香、僕が大学を卒業して涼香が二十歳なったら結婚しよう」と肇は言った。
肇のプロポーズに、静かにうなずく涼香 しかし肇には、親同士が決めた許婚の凛がいました。
肇と涼香は肇の大学の卒業を待って駆け落ちするが、警察に捜索願いが出され直ぐに居処が見つかってしまい、無理やり別れさせられてしまう。
その後、肇は許婚の凛と結婚する。一年後に肇に長男、雅が生まれ凛が里帰りする。
京都観世会六月例会として、京ゆかり「賀茂」「班女」など能の3演目を上演。
舞台が始ると笛や太鼓 謡が響き、観客は能の世界に浸っていた。
能の上演の帰りふと立ち寄ったお寺で偶然、涼香と再会 気まずそうに肇は涼香に声をかけた。
「久しぶりだね 涼香」
「うん 久しぶり。能の上演見に行ったよ もう立派な能役者ね。」
「まだまだ未熟だけどね。見に来てくれてありがとう。」
「今日は、近くの旅館に泊まっているんだけど、良かったら一緒に食事でもしないか」
「えっ 嬉しいけど・・いいのかな」
「上演の 能舞台の感想も聞きたいしね」
「わかったわ 雅さんのファンとして一緒に食事しますね」
二人は、旅館に着いた。玄関には黒のたまご配送車が止まっていた。
夕焼けで空は真っ赤に染まり カラスが群れをなしてバタバタ飛んでいく。
「鳥谷たまご商店ですが、産みたてのたまご配達に来ました」と小太りで狐目の男が
旅館の女将と話している。
「小嵐さん いつもご苦労様 厨房に置いといてもらえるかしら」と女将が言う。
木箱にワラを詰めた中に入った産みたてたまごを慎重に厨房に運ぶ
「まいど おおきに」と言って ニヤリと笑い男は黒のたまご配送車に乗り込みました。
たまご配送車の後ろパネルに描かれた 能面の絵が薄笑いを浮かべていたように涼香は見えて不気味な気持ちになりました。
「女将さん二人分の食事を部屋まで届けて下さい」と肇が女将にお願いした。
「わぁ 舟盛りの凄いご馳走ね」
「どうぞ 召し上がれ 眠れる森の王女様 食事が終わったら温泉もあるから入って行くといいよ」
「ありがとうございます 王子様」
温泉に入った後、能舞台の話をしながら肇に勧められて慣れないお酒を飲んでしまい眠ってしまいました。寝顔を見た肇は愛おしい気持ちを抑えきれず真弥と一夜を共にしてしまいました。
翌朝「私は、昨夜を肇さんとの最後の思い出とします。もうお会いする事は致しません」と置き手紙を残して涼香は旅館を後にした。
その後 肇との子供を身篭ってしまった事を知った涼香は、悩んだすえ産んで育てる決心をする。
「一人で、子供を育てるのは大変よ」と光代に言われる。
「でも、肇さんの家庭には迷惑をかけられないから、肇さんにも言わないで下さい」
「わかったわ 私たち二人で ちゃんとした子に育てましょう」
鈴香は陣痛が始まってから数時間が経ち、病院のベットに横たわっていた。不安と期待が入り混じった不安定な気持ちで、次に何が起こるのかを待っていた。
母の光江や友人の志保から励ましの言葉がかけられるものの、鈴香の頭の中で「自分はこんなに弱いのか」と自分を責めるような思考が浮かんできた。
と同時に、何もかも終わった後には、愛する肇の赤ちゃんとの笑顔溢れる生活が待っているという期待も膨らんでくる。
でも、赤ちゃんが五体満足で生まれた来てくれるのか、無事に産めるのかと不安がよぎり
いつかこの不確かな状況から脱するために一刻も早く出産を終えたいと思っていた。
やがて、妊娠中の辛さや不安が一気に吹き飛ぶ瞬間がやってきた。
助産婦さんが「赤ちゃんが誕生しましたよ」と言った瞬間、鈴香は涙がこみあげてくるのを抑えきれなかった。
初めて出産は、不安定な精神状態の中でも、まるで奇跡のような瞬間が待っていることを教えてくた「生まれてくれてありがとう」と心から思った。
「真の弥」という意味から、つまり、真実を生きる強い意志を持つ人、命を大切にする人という意味を込めて、母の光代が「真弥」と名前を付けました。
涼香は、愛娘の真弥を産んだ後、母親光代の営む呉服屋を手伝いながら子育てをしました。
真弥は、祖母の光代と母親の涼香の愛情を受けて
すくすく育った。