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能面たまご 琥珀  作者: 幸田 英和
2/12

遺書

真弥は棺桶の中で、穏やかな顔で眠っている。

18歳の短い生涯を終えたのである。


愛する人にあてた遺書を残して・・。


「私は、生きてます。たまごの中で・・・」


「お祖母様、真弥は長く生きられないかもしれません。もしも、私が死んでしまったらら、幼馴染みの琴江と健太 そして雅さんにこの手紙をお渡して下さい」


祖母の光江は、棺の中で眠っている孫娘を見つめながらありし日の真弥との会話を思い返す。この娘はあの時、自分の遠くない未来をわかっていたのだろうか、あの時、「何を不吉なことを」と、この娘の言葉を不定し、それでも手紙を預かったのだけど…。


お通夜の席で、祖母の光江は健太に真弥からの手紙を渡した。

健太は手紙を読んだ。


健太へ 

いつも真弥のことを守ってくれていたの、知ってるよ。

本当は真弥こと好きだったのかな。

そうだったら嬉しいよ、ありがとう。

健太のお嫁さんになってあげれなくてごめんなさい。

琴江とは、いつまでも良い友達でいてあげて下さい。

きっと、健太なら素敵な人と巡り合えるよ。

幸せになってね。


「ばかやろー!誰が死んでいいって言ったんだ!」


「健太くん 真弥とずっと仲良くしてくれてありがとうね 琴江ちゃんへの手紙だけ

見当たらないの見つかったら渡してもらえるかしら」

「わかりました」


お葬式が厳かに始まる

すすり泣きがあちらこちらから聞こえてくる。悲しみの中で、僧侶の読経が始まる。喪主である祖母光枝は唇を噛みしめ涙をこらえた。娘の涼香に続き、最愛の孫娘まで自分より先に逝ってしまうとは…。真弥の愛した猫・琥珀が、光江の足元にうずくまっている。身動きもせずに。


しがれた僧侶の読経、線香のにおいがたちこめる。またすすり泣くがあちらこちらで聞こえてくる。


「最後のお別れを」と係の人がみんなに花を渡す。

白装束の衣装に身を包んだ真弥の棺に1人ずつ花を入れる。真弥は安らかな表情で眠っているようにみえる。

出棺となり、真弥をのせた霊柩車が走り出す。


悲しみの中で葬式が終わると、家族や親戚、親しい友人のみが火葬場に行き、白装束に身を包んだ真弥の棺桶に1人ずつ花を入れ、最後のお別れをする。


真弥の主治医の 湊戸志保先生もハンカチで目頭をおさえて「私が、真弥さんの病気を治してあげたかった。」と言った。


「真弥は、ただ眠っているだけだよね 僕がキスをすれば目を覚ましてくれるよね」と言って、恋人の雅は、真弥の唇にそっとキスをした。


出棺となり、真弥をのせた霊柩車が走り出す。親族、親しい友人の乗った車が後を追うように走る。

それを人の輪からはずれ、じっと見つめる瞳。 

火葬場の炉が開き 真弥と一緒に雅との思い出の写真が入っていく、雅はその前からしばらく動けなかった。真弥との短い日々が駆けめぐる、どうしてこんなことになったんだ。どうして…


外に出ると高くそびえる煙突から煙が空に登ってゆくのがみえた。


「さよなら真弥、ずっと一緒にいたかったよ 助けてやれなくて、ごめんな」と言う雅に、光代は、真弥からの手紙を渡した。


「それでは、親族の方から順番に骨壺にお納めください」

最初に祖母の光代が、骨壺にお骨を収め、次に親族、そして 湊戸先生

最後に雅が骨壺に喉の骨を収めようとしたが、涙で目がかすみ、掴み損ねて骨を床に落としてしまった。

その落ちた骨を猫の琥珀が咥えて、雅をチラッと見てから火葬場から出て行った。


琥珀は路地を抜け、軒を渡り、真弥の幼なじみ 鳥谷健太の父が経営する養鶏場の鶏舎そっと忍び込んだ。「金のたまご」を生むニワトリ「金剛鶏」の前で、真弥の骨を噛み砕き、餌の中に混入した。


家に戻った雅は、真弥の手紙を読んだ。


「雅さん この手紙を読んでるのでしたら、きっと私は死んでいるのでしょう。

でも、悲しまないで下さい。私は生きています。たまごの中で・・・そして いつかまた。」 


(不思議な手紙だけど…これが真弥の遺書なんだね)

真弥は何を言いたかったのだろう。何度読み返しても雅にはわからなかった。

雅は考えこんでしまった。


真弥の初七日当日、雅の許婚の家に結納の品が運ばれてきた。

「この度は、めでたく結納がととのわれ、心よりお慶び申し上げます。たまご屋の鳥谷たまご商店でございます。

宇治咲家様より、お嬢様が末長く幸せに暮らせますように、当店自慢の「金のたまご」をお持ちしました。

この地区では産みたての「金のたまご」は、お祝いのお宅にお届けするしきたりになっています。ぜひ、お召しあがりください」

「これは縁起が良い、さっそく娘の好きなだし巻き卵を作りますわ」

雅の母が台所でフタを開けて見るとワラで引き詰めた木箱の中に入れてある卵が カタカタと動き卵の表面に浮き出た能面が薄っすら笑いを浮かべている「えっまさか」見直すと能面は消えていた。「あら、やだ気のせいだわ」雅の母は胸を撫でおろした。


さあ、だし巻き卵を作りますしょう。卵に調味料を入れ白身を切るように軽く混ぜる、卵焼き用フライパンを熱し油を入れ 薄く広げた卵液をくるくると巻き、何回か繰り返し形を整えて完成。

祝いの席が設けられ、豪華な料理と一緒にだし巻き卵が雅の父母のお膳に出されました。   

「色艶も良くふっくらと出来上がりましたわ さあさあ 宇治咲家様から頂いた卵で作った

だし巻き卵を召し上がってくださいませ」 

雅の母 凛が箸をつけ「まぁ 何て、まろやかで美味しいのでしょう身体の中に染み渡るようですわ」と言った。「本日は、雅は来ることが出来ませんので主人と私が伺わせていただきました。これからも雅の事宜しくお願いします。」

「雅様は結納の事は、まだご存知ないのですね。でも構いません 私は雅様と結婚して幸せな家庭を築きますわ」と言って 許婚の娘は、だし巻き卵に箸をつけた。


真弥の初七日の日に 雅の意志とは関係なく結納は終わっていた。

真弥の四十九日が終わった頃に 雅は真弥への想いを抱いたまま

親の決めた許婚との結婚を承諾した。

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