防御魔法
しばらくお茶してから、宮殿内を見学することになった。ちなみに今いるのは天空の間っていうだだっ広い場所。名前の通り、天井が空みたいなの。絵じゃないよ。あの某ファンタジー映画の大広間の天井みたいになってるの!凄くない!?1人でめっちゃ興奮しちゃって痛い子みたいになってたよ。
他にも図書室に行ったり、お父様の執務室に行ったりしたの。満喫して、また来ると2人に約束した帰り際に事件が起こった。
正面へと戻るため、庭を横切っている時だった。
「あら、お兄様。なにか、改修なさっているのですか?」
すぐそこで何やら工事が行われているのを見て、おばあ様が声を上げる。
「そう言えば、少し古くなってきたから改修工事を行うとクレマンが言っていたな」
「あそこは花天の間がある場所だったかしら?」
「あぁ。国内外の客人をもてなすところでもあるからな。しっかりと改修しなくてはならん」
「昔はよく、陛下とジェラール様が忍び込んで遊んでは怒られておりましたね」
「そんなこともあったな……」
思い出話に浸っている両上皇陛下とおばあ様。お母さまは何かを側近と話している。
私はというと、動物と精霊たちと話しながら歩いている。もふもふ癒されるー。
すると、腕に抱いていた子猫が抜け出して工事中の方へと歩いていってしまった。
『まって!』
さすがにそっちはまずいと、追いかけてようやく捕まえた。その時、「キャー!」と悲鳴が聞こえたと思ったら、上に影ができた。上を向くと、木材が落ちてきていて「やばい」と本能的に感じた。
嘘でしょっ!?また死ぬの!?こんなのありかっ、神様!?!?
せめてこの子だけでも、と腕の中の猫をぎゅっと抱きしめ、目をつぶった瞬間。体から何かが放たれるような感覚がした。
しばらく目をつぶって来るであろう痛みを待ったが、何も感じない。おそるおそる目を開けると、周りには散らばった木材と目を見開く人達。
なんで、木材が散らばって……
不思議に思ってると、自分の周りにドーム状の膜が張っているのに気づく。これが弾いたのか、と納得した。
助かった安堵なのか気が抜けて、猫を抱いたままその場に倒れ込む。
私、危ない目に遭いすぎじゃない……?
しかし、どうなってんだと考える間もなく、そのまま気を失った。
目を覚ますと、自分のベッドの上だった。
『いま、なんじ……?』
何故か体に力が入らないので、目だけ動かしていると、失礼しますの声と同時にドアが開く音がした。
見ると、ララとナディア、シモンが起きている私を凝視してた。
『ラりゃ……?』
その声にハッとした3人。
「お、お、奥様ぁぁぁ~~~っ!!!」
ナディアが大声を出して、走っていく。行く場所は十中八九お母さまの所だろう。本人が叫んでるし。残った2人は慌ててベットに駆け寄ってきた。
「ルーナお嬢様っ、お体は!?痛いところはありませんか!?」
「なにかお持ちしましょうか!?」
『かりゃだ、うごかない……』
産まれたばっかりの時みたい。ダルいし、巨大な石が乗っかってる感じ。
「魔力が枯れかけているのでしょう。魔法を使われた時に、とっさに全魔力を注ぎ込んだのかと」
『まほう……』
あれは魔法だったのか。初めて使ったな。なんの魔法だか知らないけど、とりあえず助かった。偉いぞ、私。
『いま、おひる?』
「陽の半刻(11時)を過ぎたところですよ。ルーナ様が倒れられてから2日経っていますわ」
『ふつか……』
道理で目がぱっちりな訳だ。よく寝たよ。やっぱ睡眠って大切。寝る子は育つって言うしね……寝ても横にだけ育って、縦には育たない人もいるけどね。例えば、転生する前の私とか。
『ん?』
なんか足元にもふもふしたものがある。なんだこれ?温かい。つま先でつんつんとつつくと「にゃー」と鳴き声した。
『グラス?』
珍しい……こともないか。よく私の布団の中に入ってきて寝てるし。
『おいでー』
少し布団を上げて空洞を作ると、こちらにくるグラス。可愛いところもあるな、ツンデレ最高です。
「ルーナお嬢様、グラスならあちらにおりますが」
『え?』
シモンが指す方へ目線を向けると、確かに部屋の隅に置かれているグラス用の寝床で優雅にくつろぐグラスの姿がある。
『じゃあ、』
この私のベッドの中にいるのは何?え?ノアなわけないし。え?ちょっとどういうこと?
「ルーナお嬢様。おそらくですが、そちらは……」
その瞬間、扉がバンッと開いた。
『「「!?」」』
「「「ルーナ(ちゃん)!!」」」
涙を浮かべながら飛び込んできたのは、お母さまとおばあ様、おじい様だった。
『おかーしゃま』
「ルーナ、良かった、良かった……っ」
寝ている私に被さるように抱きしめて泣くお母さま。
「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ。わたくしが目を離したから……っ」
『おかーしゃま、』
ごめんなさいと謝り続けるお母さまに、おばあ様が優しく声をかける。
「ルチアーナさん、落ち着きましょう。ルーナちゃんも無事だったんだから。あなたが泣いていては、ルーナちゃんもどうしたら良いかわからないわ。ね?」
「……っ、はい……っ、すみません、お義母さま」
「ルーナちゃん、体は大丈夫?急に魔力をたくさん消費したから辛いでしょう?」
『かりゃだがうごかないの』
「魔力が枯渇するとそうなるんだ。特に、ルーナのようにまだ幼く、魔力が制御できないうちに大量消費すると、体がそれについていけなくて悲鳴をあげる。しばらくは辛いだろうから安静にしていなさい。いいな?」
『あい』
魔力が枯渇すると動けなくなると。咄嗟だったとはいえ、これからは気をつけよう。
「ルーナ、大丈夫?」
「ルーナ、痛い?」
「ルーナ、魔力ないねー」
「はい、お花ー」
「みんなで取ってきたのー」
『ありあとー』
精霊たちも心配してくれたみたいで、シモンが窓を開けた瞬間、一斉に押し寄せてきた。みんな、花だの木の実だの沢山持って来るので、ベット上が大変なことになってる。
「にゃっ!」
『わっ!?』
それが苦しかったのか、突然、勢いよく布団から飛び出してきたもふもふ。
『このこ……』
宮殿で抱っこしてた子だ。助かったんだ、良かったぁ~。でも、なんでここにいるの?
「この子、ルーナから離れようとしなかったの。引き離そうとしても抵抗するものだから、陛下が連れて帰っていいとお許しをくださったのよ」
『そうなの?』
「にゃー」
「そうだよ」と返事するように鳴く猫。スコティッシュフォールドみたいに耳が折れてる白とグレーの毛と空色の目の子猫。そして、触り心地最高なもふもふ。顎を撫でるとゴロゴロと鳴いて、気持ちよさそうな顔をうかべている。
名前をどうするか。私は起き上がれないし、この子も私の胸の上に寝転がってるから、性別が確認できない。どっちでも大丈夫な名前にするか。
目が空色だから、空……じゃ面白くないし。もっといい名前は……あ。
『シエル。あなたのなまえはシエルよ。そらといういみなの。そのそらいろのきれいなめにちなんで。どう?』
「にゃっ!」
気に入ったのか、立ち上がって嬉しそうに動き回るシエル。喜んでくれたのは嬉しいけど、痛いからやめようね。そこ、人体でもかなり重要なところだから。
『おかーさま』
「なぁに?」
『あのあと、どうなりましたか?』
「あぁ……」
お母さまによると、私が気を失った後、直ぐに私を医務室へと運ぼうとしたらしい。しかし、周りに防御魔法があり近づけなかったそうだ。同じ防御魔法をもつおばあ様とマリユスおじい様が解こうとしたが、魔法が強すぎて解けない。そこに、騒ぎを聞きつけた皇帝陛下がやって来て、3人がかりで防御魔法を解き、医務室へと連れていったのだとか。魔力の枯渇と疲労以外に特に異常はないので、連れて帰ってきたらしい。他に怪我人もいなかったらしいし、よかったよかった。
……………ちょっと待って。
『ぼうぎょまほう……』
今、防御魔法って言った?言ってないよね?言ってないって言って!!
「ルーナちゃん。あの時、ルーナちゃんが咄嗟に使った魔法が防御魔法なの。周りにドーム状の膜が張っていたでしょ?」
『あい』
「温室へ向かう時にわたくしが話したことを覚えているかしら?」
えぇ、バッチリ覚えてますよ。今すぐ、その辺の角に頭打ちつけて記憶から消し去りたい衝動にかられてますけどね。
「帝位継承条件は紫水晶の瞳と防御魔法の2つ。今回のことでルーナちゃんは帝位継承者になったわ」
はい、アウトォォォォっっっ!!!!
余計なフラグ立てないでよ!!こうなるなら平和を望んでおくべきだったよ!!今からでも無理!?ねぇ、神さま!!無理なの!?
「本当なら隠せるものなら隠したかったがな。発動した場所が場所だし、周りに大勢人がいたようだからさすがに無理だった」
「貴族で唯一、帝位継承権をもつ令嬢ですものね。これから大変だわ」
「すでにクレールの元には、ルーナを息子に嫁がせたい、と縁談話を持ってくる貴族がたくさんいるみたいです。2日しか経っていないのに」
「これだから馬鹿な奴らはっ!!!儂のルーナは簡単には嫁がせんぞ!!儂に剣で勝てるようなやつでなければ渡さん!!」
いや、おじい様。私、まだ3歳だからね?この国の成人年齢は16歳だけど、あと13年はあるから。気が早いよ。それに、おじい様に勝てる人って、ほとんどいないから。ルイス叔父様でも微妙なところなのに。あ、でも、それならしばらく嫁がなくてよさそうだから安心か。おじい様、頑張って!!
「とりあえず、回復したら、もう一度宮殿に出向かなければいけないの。これからの事で、陛下から話があるそうだから」
「それまでにしっかり身体を休めてちょうだいね。お兄様も心配なさっていらっしゃったから、早く元気な姿を見せてさしあげなくてはね」
『あい』
「欲しいものがあったらなんでもいいなさい。すぐに持ってこよう」
『ありがとうございます』
「ララ、ナディア、シモン。ルーナを頼んだぞ。何かあったら、すぐに知らせるように」
「「「御意」」」
「おやすみなさい、ルーナ」
お母さまは私の頭を優しく撫でる。すると、だんだん眠気が襲ってきて、再び眠りの淵に落ちた。