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上皇様と皇太后様

少しして着いた温室はとにかくデカかった。それ以前に庭が広すぎる。迷路と言っても過言じゃないほどだ。右も左も分からなくなるよ。そんな庭のど真ん中に立つのがこの全面ガラス張りの温室。何を目指しているんだ。



「上皇陛下も皇太后陛下も首を長くしてお待ちしておりますよ」



にこやかなセバスチャンとは裏腹に、私の心は沈んでいく。



ヘマしたらどうしよう。今からでもお腹痛くなったとか言って帰るべき?そんな古典的なのが通じる?いや、たとえ通じたとしても、その過保護なおばあ様とお母さまならすぐにでも治癒士を呼びかねないし。


…………諦めるか。うん、人間諦めも肝心だって日本のおばあちゃんも言ってた。あー、でも憂鬱。



「上皇陛下、皇太后陛下。ラティシア前公爵夫人。ルチアーナ公爵夫人。ご令嬢、ルーナシア様がご到着なされました」


「あぁ。案内ご苦労」



深みのある渋い声が響く。セバスチャンが横にズレると、色とりどりの花々に囲まれ、その中央にあるガーデン用の椅子に腰かけて優雅にくつろぐ上品な老紳士と貴婦人が現れた。


すぐさま礼を取ろうとする私たちに老紳士が待ったをかけた。



「礼は結構。久しぶりだな、ラティ。ルチアーナ姫。元気そうでなによりだ」


「えぇ。お兄様もロザリー様もお元気そうでようございました」


「上皇陛下も皇太后陛下もお変わりなく、安心いたしましたわ」


「なに。心配されるような軟弱な鍛え方はしておらんよ。それより」



視線がこちらにむく。



あぁ、似てる。この人が



「こちらの姫君が私のかわいい大姪かな?」



マリユス上皇陛下。おばあ様のお兄様で私の大伯父にあたる人。


目元と口元がおばあ様とそっくり。笑うとえくぼができるのも同じだ。



『はじめまして。パらぐらントこうしゃくのじじょ るーなしあ・レあ・ぱらぐらんとともうします。おあいできてこうえいです』



よし、完璧!今回は噛まずに言えたぜ!



「聞いていたとおり、ラティにそっくりだな」


「えぇ。とてもかわいいですわ」


「しかも、沢山の精霊付き。まさか、私の大姪が愛し子とはな。長生きもしてみるものだ」



愛し子とはなんぞやと考えていた私は目の前に立つ上皇様に気づかなかった。


上皇様は突然よいしょ!と急に私の体を持ち上げると、片腕に乗せるように抱っこした。



『きゃっ!』


「驚かせたか。すまんな」



絶対悪いと思ってない笑みを浮かべながら、元の椅子に座り直すと、その膝の上に私を乗せた。そして、おばあ様とお母さまにも座るように言う。



「ラティから甘いものが好きだと聞いて、色々と揃えてみた。好きな物はあるか?」


『すきなもの……』



目の前にあるのは、苺やベリーのようなモノがのったムースケーキにスフレチーズケーキ。3種類のクッキーにガレット・デ・ロワのようなパイ。それからシフォンケーキ。


好きな物だって?


全部に決まってるじゃないか!!全部大好きよ!全部食べたいくらいよ!でも、胃袋の小さいこの体では無理なので。とりあえずは



『このぴんくいの』



ムースケーキを食べます。ベリー系のムースって大好きなのよ!さらに言えば、チョコとの組み合わせが一番好き!!酸味と甘さのバランスがたまらないの!伝わって!



「そうか。セバス」


「かしこまりました」



セバスチャンはムースを小さめな正方形に切り分けて、それを2つお皿に盛った。



「ルーナシア様、どうぞ」


『じいじ、ありがと!』


「「じいじ?」」



だよね。普通、突っ込むよね。血縁関係もない、今日初めて会った人をじいじと呼ばせ、呼んでいるんだから。



「セバス、お前……」


「ほっほっほっ」


「お前の孫ではないだろう」


「ラティシア様のお孫様なのですから、わたくしにとっても可愛い可愛い孫のようなものですぞ!」


「はぁ……」



頭を抱える上皇様が、まるで暴走したベルお姉様に頭を抱えるシリルお兄様みたいで笑えた。大変ですね、みなさん。


フォークで小さく切ったケーキを口に入れながら思う。



何これ、うまっ!今まで食べてきたムースケーキの中で1番うまい!家の料理人が作るムースケーキもめちゃめちゃ美味しいけど、これはそれ以上!


どんどん、且つ優雅に口に入れていくと、クスクスと笑われる。



「ルーナシアちゃんはそのケーキがお気に召したようね」


『──────っ///』



急に恥ずかしくなって、食べるのをストップさせる。その姿を見て、皇太后さまはまた笑った。



「あらあら。いいのよ、食べて。食べる姿も本当に可愛らしいわ」


『あぅ……』


「他のものにするか?そうだな、これにするか。いや、いっその事、全部を少しずつ持ってこい」


「お兄様、そんなに食べては晩餐を食べられなくなります。ルーナちゃんが可愛いのはわかりますが、程々になさってくださいませ」


「そうか?なら、それとそれを持ってきてくれ」



上皇様が指したのはクッキーとシフォンケーキ。セバスチャンが新しいお皿に盛り付けてくれた。



『じょうこうさま、くっきーをせーれいたちにもあたえていいですか?』


「あぁ、構わんよ」



お許しを頂いたところで、周りにいる精霊たちにクッキーをあげる。



『どーぞ』


「クッキーだ!!」

「おいしー!」

「ルーナ、ありがとう」

「すきー」

「ルーナ、わたしにも」

「ルーナ」

「ちょうだい!」


『みんなでわけりゅの!』



さすがにここにいる精霊全員分のクッキーはないから。どんなけ焼かなきゃいけないんだよ。料理人の人が大変だわ。軽く2~300枚は必要になるぞ。



「ルーナは本当に精霊に愛されているのだな。さすが愛し子だ」


「じょうこうさま。いとしごとはなんですか?」



さっきも言ってたけど、愛し子って何?そんなに珍しいものなの?



「そうだな。上皇様ではなく、マリユスおじい様と言えば答えてやらんこともないな」



さぁ、言えと言わんばかりにキラキラした目を向けてくるのやめてください。恐れ多くて、とてもじゃないけど無理です。しかも、あなた様は私の大伯父であって、おじい様じゃないでしょ。



『うぅ……』



しかし、元からの性格で、わからないことをわからないままにしておくことが嫌なのだ。気になったら、とことん追求したい派なため、そのままにしておくのは気持ちが悪い。


おそらくおばあ様やお母さまに聞いても上皇様が待ったをかけるだろう。皇太后様も然り。しょうがない。本人の許しも出てることだし、不敬罪にはならないはず!よし!女は度胸だ!



『ま、まりゆすおじいしゃま……』



よしっ、呼んでやったぜ!だから、さっさと教えてくれ!



首を後ろに向けると、よく出来ましたとキラキラした目で頭を撫でられた。なんで、みんな私にじいじだのおじい様だのと呼ばせたがる?セバスチャンは知らないが、あなたには息子も孫もいるでしょ。そっちに呼ばせたらいいと思うんだけど。



「では、わたくしはロザリーおばあ様ね」



ほら、こうなった!もう、ヤケだ。



『ろざりーおばあしゃま』


「ふふふ、やっぱり女の子はいいわね。可愛らしくて。わたくしも女の子が欲しかったわ」



確か、皇太后さまの子供は現皇帝と皇弟の2人。孫は皇帝陛下に皇太子と第2皇子、皇弟殿下に姫が2人いたはず。そちらを愛でれば良いのでは?嫌なわけじゃないのよ?ただ、何度も言うけど平和を望んでいるだけ。もう、遠く彼方に行ってしまったけどさ。


それより本題。



『まりゆすおじいしゃま。いとしごとはなんですか?』


「愛し子とはルーナのように精霊や生き物に特別愛された者のことだ。それゆえ、大切にしなければならない。何せ、過去には愛し子を悲しませたことで精霊を怒らせ、滅んだ国もあるくらいだからな。まぁ、愛し子自体が滅多に現れるものではないが」



現れたとなれば、大問題だ。過去には愛し子を巡って国と国との争いが発展することも多々あった。その争いで愛し子が傷つき、両国が滅ぶことも十二分にありうる。


それゆえ、国々は条約を結んだ。愛し子が現れた国は保護を行う。しかし、自由に生きさせる。国で利用してはならない。愛し子の好きなようにさせる、と。


しかし、他国は表面上は納得しても裏ではそうではない。愛し子の現れた国は祝福を受ける。豊作になり、土地は肥沃になる。だから、次は穏便な手で迫ってくる。「自分の国の王の妃に」と。



え、やだよ。こんな可愛い精霊たちが国を1つ2つ簡単に滅ぼせるのも驚いたけど、そんな大それた存在に私がなってるのに驚いたし、とても嫌なんですが。



『るーな、ここにいたいです』


「なに、心配するな。我が国は大陸で最も大きく力のある国だ。めったに他の国は手出しできん。ルーナは安心しておれ」


『あい』



いやー、この家?国?に生まれて良かったって思った瞬間NO.1だわ。確かに、筆頭貴族の娘で、皇族の血まで引いている人物には簡単に手出しできないわな。いやー、良かった良かった。


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