精霊
転生して3年。つまり、3歳になりました。
言葉もだいぶ喋れるようになったよ!舌は相変わらず回らないけどね。
今日はお母様とおばあ様とノアとお外でピクニックです。敷地内だけどね。まぁ、めちゃくちゃ広いから3歳児にはちょうどいいかな。小さな森まであるし小川まで流れてるから、もはや庭とは言い難いけどね。
2人に手を取られながら、よちよちと目的地である池を目指す。
「さぁ、着いたわよルーナちゃん」
『うわぁ!』
敷地内にある池は結構広くて、小さな島もある。水は魔法なのか常に一定の透明度を保っていて、水面には蓮に似た青い花も咲いていてとっても綺麗だ。
『おかーしゃま、きれーね』
「えぇ、綺麗ね。あれはブルーロータスというの。この家のお花でもあるのよ」
『いえのおはな?』
「えぇ、そうよ」
なんでも、貴族にはそれぞれ紋章があり、パラグラント家はあの花と対の白馬だそうだ。
ザ・西洋貴族って感じだね!でも、蓮は蓮はなんだね。あれ、ロータスって蓮だよね?ってことは、ほかの花も名前は一緒なのか?
「奥様、ルーナお嬢様、あちらにご用意が整いました」
「えぇ、すぐ行くわ」
声をかけてきた侍女の後ろを見ると、大きな木の下で、おばあ様がすでに座っているのが見えた。
「ルーナ、行きましょうか」
『あい!ノア』
お母様に手を引かれながらノアを呼ぶと、ぱっと起き上がって私の隣を歩き始めるノア。ちなみにグラスは家でお留守番。「行く?」って聞いたら「行くわけないでしょ」的な目を返された。
木の下に行くと待ち構えていたように、おばあ様に捕まった。
「はい、ルーナちゃん。これ好きでしょ?」
『あい!』
「ふふふ、ルーナはお義母様が本当に好きね」
『うん、しゅき!』
「おばあちゃんもルーナちゃんが大好きよ」
『おかーしゃまもしゅきよ!』
「ふふふ、わたくしもよ」
そんなに嫁姑孫の会話を、後ろで立つ侍女たちは微笑ましそうに見ていたそうな。
しばらく木の下で休んだら、ノアに乗ってお散歩に。もちろん、危ないからってララとナディアが後ろからついてきてる。中身アラサーでも見た目は幼児だしな。
にしても、広いな。池の周りをとりあえず1周してみるか。
『のあ、いけのまわりまわろ!』
そう言うと、ノアは承知したように歩き始める。気分よく歌っていると、周りにいた鳥や小動物たちが集まってきたので、みんなで合唱しながらまわる。
ちょっと興味本位で池の中を覗くと、底にある石や岩がクリスタルのように透明なのに気づいた。
『ルーナ様、乗り出してはいけません!落ちてしまいますわ!』
「りゃりゃ、どうしていけのなかのいしがとうめいなの?」
慌てて元の体制に戻すララにここぞとばかりに聞いてみる。
「ここの池の水の魔力が澄んでいるからです。この池は元々、何代も前の公爵が水の精霊と地の精霊の魔力をお借りして作り上げられたものと伺っております。澄んだ魔力を持つ水にしばらく触れた石や岩はあのように透明になるのですよ」
そうなのか。だけど、それよりひとつ気になるところがある。
『せいれーっているの?』
転生して3年。一度も精霊を見たことが無い。なんということだ!
「ルーナ様はお見えになっていられませんか?」
『見えない』
ということは、ララやおばあ様たちはみんな見えているのか。ずるいな!!
「まだ小さくていらっしゃるから魔力が上手く使えていないのですね」
「もう少し大きくなれば、魔力の操作もできて見えるようになりますよ」
『まりょく……』
魔法みたいにイメージすれば見えるってこと?なら、イメージは
『みえないものがみえりゅ……』
次の瞬間、辺り一面に背中に羽の生えた小人達が浮かんでいるのが見えた。
『えっ!?』
驚きのあまり、後ろへと重心をかけすぎて、ノアの背中から落ちて思いっきり頭を打った。
「きゃあっ!!」
「ルーナ様!!」
2人が真っ青になって「頭打ちましたか!?」「怪我は!?」と抱き起こしてくれたが、私の目線は精霊に囚われたままだ。
「大丈夫ー?」
「ルーナ、痛い?」
『だ、いじょうぶ…………ん?』
精霊が喋った?今喋ったのこの子達だよね?何、このサイズ感。めちゃくちゃ可愛いんだけど!!
おいでー、と周りにいる精霊たちに声をかけると、にこにこと嬉しそうに顔だの髪だのと至る所にひっつきはじめた。数はどんどん増え続けて、もはや精霊の山になってるらしく、2人はどうすればいいのかアワアワしてる。そこに、トドメだと言わんばかりに上から大量に降ってきた精霊たち。
その瞬間、2人が「ルーナ様~っ!!」とム〇クの叫びかの如く、悲鳴を上げたのが聞こえた。
「ルーナ、遊ぼー」
「遊ぼー」
「ルーナ」
やばい。リアルな方で窒息死する!しかも、一人一人が喋っていて頭がガンガンする。死因「精霊による圧迫および窒息死」とかシャレにならん!!
お母様やおばあ様たちは声が聞こえるからそばに居るのはわかるけど、精霊相手じゃ手が出せないのか、オロオロしてるみたい。
「ルーナ」
「ルーナの魔力好きー」
「きもちいーね」
「ルーナ、遊ぼー」
「ルーナ」
「ルーナ」
『─────っ、す、すとっぷなの!!』
さすがに苦しくなって、声を上げると、精霊たちはあっさりと引いてくれた。
「ルーナ!!」
「ルーナちゃん!」
「ルーナ様、大丈夫ですか!?」
「苦しくありませんか!?」
代わりに、泣きそうなお母様に抱き上げられ、涙目のおばあ様に頭を撫でられ、ララとナディアに限っては泣きながら心配してきた。
『おかーしゃま、苦しいの』
私をギューッと抱きしめて離さないお母様にそう伝えると、ようやく腕の力を緩めてくれた。
「ごめんなさいね。怪我はない?痛いところはないかしら?」
『うん!だいじょーぶ』
「そう、よかった」
何ともないと、安心してもらえるように微笑むと、もう一度ぎゅっと抱きしめられる。
「ルーナちゃん、おばあちゃんのところにもおいで」
『あい』
お母様から離れておばあ様に近寄ると、こちらでもぎゅっと抱きしめられる。
「怪我がなくてよかったわ」
『だいじょーぶ!』
「みたいね。それにしても、ルーナちゃんは精霊にとても好かれやすいのね。確かに昔からルーナちゃんの傍にはたくさん精霊がいたけど」
ここまで精霊が懐く人は初めて見た、と心底驚いたような表情のおばあ様。
個人的には、そばに居たのに見えなかったのがショックだけどね。
それに、驚いているところ悪いがたぶん、あれだ。神様が色々付与してくれた内のひとつだろう。とんでもないものを付与してくれたもんだ。可愛いからいいんだけどさ。さっきみたいに圧迫死&窒息死しかけるのはもう勘弁してくれ。あれはガチで死ぬ。
「ルーナ、大丈夫ー?」
「ルーナ、ごめんねー」
「ごめんねー」
『大丈夫だよ』
周りの動物たちも心配するように寄ってきたので、下ろしてもらうと擦り寄ってきた。可愛すぎる。が、次は動物たちの山ができそうだ。周りに小動物、上には鳥たち(&精霊)。あはは.......これはさっきと同じパターン。まずい。
予感は的中。
集まりすぎた動物たちの山ができ、さらにその上から精霊の追い討ち。ご臨終です。はい。
次こそ動けなくなった私に、とうとうお母様がぶっ倒れたよ。お母様、ごめんよ。
何とか救出してもらい、結局そのまま部屋に戻ることになった。ちなみに、お母様はというと、様子を伺いに来たお父様がお母様がぶっ倒れているのに驚き、そのままお姫様抱っこで部屋へと連れていきました。ほんとにごめん、お母様。でも、仲良くて娘としては嬉しい限りです。