第1話 大人
臭い……。
今日の戦いは酷かった。
30人対30人の大勝負だったのだが、如何せん相手が悪い。
相手が巨大国のガイザルクだったからだ。
奴らは確かに30人いたが、実際に戦ったのは3人ぐらいだった。
――そんなもんだ。
強い国は最小限の戦力で、何十人を食い潰していく。
奴らの内の一人は“いじり”だった。
“いじり”というのは体に動物の細胞を組み込んだ連中の事で、全体的な身体能力の向上はもちろんだが、体の一部にその動物の脳を埋め込めば、その部位をその動物の姿に変化させる事ができる。
但し、いじりの手術をする為には健全な肉体と膨大な金が必要で、しかも……痛いらしい。
よくわからないが、手術が痛い訳ではないらしい。
あやふやな噂だったから、いじりを増やさない為のガセ情報かとも思ったが、その痛みに堪え兼ねたある権力者が、木製のベットの角に後頭部を何度も打ち付けて自殺したという新聞を読んで、その噂は俺の中で本当のものになった。
だからこそ、それを乗り越えたいじりは強い。
だがこっちの国にはいじりこそいなかったものの、相当な量の武器や兵器があった。
決死の総力戦を仕掛けたのだが、たった3人に全員が惨殺され、この辺りには強烈な死臭が充満している。
こっちの国からは誘いを受けていたんだが、俺は行かなかった。
俺はどこの国にも所属していない。
俺は金で雇われる傭兵だ。
つまり、今回の戦いで人が死んだという事は、俺にとってそれほど重要ではない。
「……金を稼ぐのは大変、だな。」
俺は今日、賭けに負けた。
それだけの事だ。