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ゲーム起動

 ついにバトル・デュエル・オンラインのベータテストが日付の変わる零時から開始される。スタートダッシュの為にアバターモエクスも今ライブ配信をしている。日付が変わると同時にゲームスタートするようだ。

 忙しいであろう運営陣と違い、私はアバターモエクスの配信を楽しんでいる。しかし、これが私の仕事なのだ。

 なんと、私は彼女達の配信を編集してPVを仕立て上げる役目を仰せつかった。なんなら配信サイトに載せる用の数秒、もしくは十数秒しかない広告用動画だって作ることになる。故に私は生で配信を見て、盛り上がった所なんかを適宜チェックしていく。個人アカウントを利用し、コメントだって打っていいと言われている。ログイン負荷に怯えなければならない運営担当と比べれば、遊びと思われるような仕事であるが、私はアンコモンゲームズとアバターモエクス、そのどちらにも旨味が出るような素晴らしい動画を作るという役目に燃えていた。


『ゲーム開始まで三十秒前だ!』


 そんなコメントが流れてくる。そこからは皆がカウントダウンだ。


『3!』

『2!』

『1!』


 カウントダウンが終わると同時にアバターモエクスの面々はPCコンソールからゲームアプリを起動。アナウンスが流れる。


【バトル・デュエル・オンライン起動。ゲームエリアへ移動します】


 雑談配信をして住居エリアに集合していたアバターモエクスの姿が消えていき、画面が暗転。次に姿を見せたのは紫髪メカクレの倉瀬アズキだった。前回のアバラジからモエクスの配信は見ていたが、彼女のゲームの実力は高い。得意のFPSを一時的に封印し、我が社のRPGをプレイしていたが長時間の配信を行っていたのもあって一週間経たずに三周ほどクリアしていた。初見プレイ、攻略サイトを見ながらのやり込みプレイ、最速クリアを目標とするプレイの三回だ。その配信中にこんなコメントがあった。それも案件のうちなのかと。それに対するレスポンスはこうだ。


「開発者の癖といいますか、ここのソフトをプレイしておけばそういうのが予習できるかなと思いまして。ダメージ計算式とか流用してる可能性もありますしね。そういうのを体験しておきたいな、と」


 ガッチガチのガチである。

 ちなみにこのゲームエリアへの移動速度はPCの質で決まる。つまり彼女はアバターモエクスの中で最高スペックのパソコンを所持しているというわけだ。


 次にゲームエリアに現れたのは松葉チユリ。赤髪ロングヘアーの、ゆったりとした服装では隠し切れない巨乳を持つ少女。彼女がモエクスのリーダーなのだが、それには理由がある。アズキを除き、自身を含む四人のアバターの製作者が彼女なのだ。今回の案件の仕事の受付も彼女が担当していた。アバターモエクスの方針を決めるのは彼女が中心になっているようだ。

 絵や小説といった創作系統にも造詣が深く、何かを作ることが得意だが集中しすぎてコメントを読まなくなったりする。配信者というよりはクリエイターが作業を公開しているだけの様子になってしまう。


 続いて現れたのが村井ライラ。スレンダーで長身な女性。金髪赤眼のメイド少女だ。俗に言うマルチタスクというやつで、ゲームアプリの麻雀を四卓同時にやりながらカードゲームに興じて、さらにコメントまで拾えるのだ。メンバー内でコラボする時は一歩引いた視点でコメント返しや収集のつかなくなった状況をまとめたりぶち壊したりする。ムードをただ穏やかにするという意味ではなく、そのまま雰囲気を作るという意味でムードメイカーと言ったところだろうか。


 最後に汐井レナと内藤ナインの二人がほぼ同時に現れた。汐井レナは桃色の髪をしたロリ巨乳で、衣装の露出度も高い。しかも得意な事が踊りということもあって、胸が揺れる。とにかく揺れる。あんな胸で踊れるのはアバターだからだよなあ、なんて感心してしまう。そんな少女に魅了された者達はシオイレナイトと呼ばれ、濃いファン層を獲得している。

 他の特徴としては数字が大好きだ。ライブ視聴者数や登録者数、投げ銭。数字が積み重なって大きくなるという事に喜びを覚えるらしい。そのためなら良識の範囲ギリギリの煽情的な衣装も着る。そういう、手軽に数字が大きくなるというのが一番理想的だ、と。


 内藤ナインは青髪改造着物の女性。アダルトな雰囲気に得意の歌で視聴者を魅了する。それだけ聞けば完璧人間なのだが少しズレているというか、抜けている部分があり親しみを持たれている。チユリほどではないが巨乳で、両足がふとももまで露出した改造着物で脚も見せているし肩も丸出しだ。レナが倒錯的な色気だとすれば、彼女は正統派の色気を醸し出していると言ってもいい。妾やなになになのじゃと言った独特の口調はいかにも永い時を過ごしてきた妖怪が人間のふりをしているかのように思わせると評判である。


 そんな感じにアバターモエクスに詳しくなった私が友人の遠藤にモエクストークを振ったところ、マニア特有の面倒くささを感じると言われ、会話を拒否されてしまった。解せぬな。


 さて、話を戻そう。アバターモエクスの面々は今、大きくゲームタイトルの表示されたタイトル画面の前にいる。


【フレンドの存在を確認しました。フレンド同士でキャラメイク、チュートリアルを一緒に受ける事が出来ます。汐井レナ、内藤ナイン、松葉チユリ、村井ライラと同時にゲームを開始しますか?】


 現在私がメインで見ている配信画面はアズキのものだ。五窓である。彼女がイエスのボタンを押すとしばらくして画面転換。教会へと場面が移る。少女たちは黒いフード付きのローブを着ていて大体の背格好しか分からない。背が小さいのがアズキとレナで、高いのがライラ。中間くらいなのがチユリとナインだ。


「このローブって怪しくていいですね。我ら【五人囃子】が集まったのはいつぶりか……」


 などと訳の分からない小芝居を始めようとするアズキ。


「こちとら露出で売ってんのよ。こんなの着てられな……脱げないし」


 さっさと脱ぎだそうとするレナ。


「そこのローブの上からでも胸のサイズが分かるのがレナ様とチユリ様、ナイン様ですね。それぞれ身長が小中大で分かれていてわかりやすくなっております。消去法的に小さくて胸も無いのがアズキ様」


 冷静に誰が誰なのかを判断するライラ。視聴者に向けて分かりやすく説明する意味もあったのだろう。


「で、なんでこんなもの着せられたのかしら。アズキは何か分かる?」


 アズキの軌道修正を図るチユリと、皆楽しそうだ。


「キャラメイクするのに外見データを一時的にマスクしたんだと思います。外見データを作成したら一瞬でその姿になるのかと」


 話を振られたメカクレ少女……今は全身隠れているが。なにはともあれ、しれっと答える。


「そういうものなのね。ほら、レナもいつまでも暴れてないで静かにしてなさい」

「じゃあ、いつキャラメイク始まるのよ」


 そんなレナの問いに答えるように、神殿の入り口から一人の神父が歩いてくる。


「『大陸』それは我らが母なる大地」


 若い男だ。顔も整っている。惜しむらくは、この場にいる少女五人が誰も男に興味が無いということか。


「多くの人族と魔物、作られし生物が暮らす楽園。しかし、その平穏を良しとしない者がいた」


 壇上に上がり、十字架の前に立ちアバターモエクスの面々に背中を向けて語る神父。


「君達だ」


 指差しながら、男は振り向く。


「海の向こうに新たな島国が見つかった。君達はその土地を冒険し、開拓しようとする者だ。海の向こうの現地人達は君達をこう呼ぶだろう。『渡海人』と」


 両手を広げ、空を仰ぐ。


「多くの戦いの待ち受ける大いなる試練に立ち向かう君達の事を私に教えてほしい」


 そういうと黒いフレームが彼女達の目の前に現れる。


【キャラメイクを開始します】


 とのアナウンスだ。


「アズキー」

「はい」

「このオーバーアクションな男の話三行にまとめて」

「レナさんそんな長い話じゃないです」

「動きが気になって話まともに聞いてなかったのよ」


 そんな事をしれっと言ってのけるレナにアズキは困ったように口元に微笑を浮かべた。


「我々は元々大陸と呼ばれた場所に住んでいた。

 プレイヤーは渡海人と呼ばれ、海を渡り島国で冒険する。

 今からキャラメイク……ってところでしょうか」

「分かりやすい。百点ね」


 そんな彼女達の手元に、ウインドウが表示される。名前欄、性別、職業、種族、スキル、属性、外見設定のタブが並んでいた。


「ううん、何がいいのか分からないのぅ」

「そもそも能力値の意味すら分かっていないのですから当然かと」

「ヘルプコマンドあるでしょ。使いましょう」


 そう言ってチユリがウインドウ右上に置いてある?マークに手を触れると、様々な情報が表示される。


HP:攻撃を受けると減少。0になると戦闘不能

MP:魔法を使うのに消費する

SP:必殺技を使うのに消費する。この数値のSPを持って戦闘を開始する

ATK:物理攻撃力

DEF:物理防御力

INT:魔法攻撃力

RES:魔法防御力

TEC:器用さ、銃使用時の攻撃力

SPD:速度

LUC:状態異常成功、状態異常抵抗率、アイテムドロップ率


 そう書かれているがナインは項目の一つに疑問を感じていた。


「のう、アズキ。このSPってやつよく分からないんじゃが?」

「ええと、なるほど。大丈夫です。この数値は敵に攻撃したり、防御するごとに回復するんです。上限無く貯められますが次の戦闘開始時には自分のSPの数値に戻る仕組みですね。使い切っても次の戦闘ではある程度溜まっていて、MPのように貯蔵はできず、しかし尽きないというのが特徴になります」

「つまり?」

「戦闘中に使い切っておくと次の戦闘開始時に回復してるのでお得です」

「うむ。ありがとう、なんとなく分かった」


 この辺はアズキが予習としてプレイしていたRPG、ヒーロー・オブ・ギャザリングの仕様と変わらないのでヘルプをさっと読んだだけで理解していた。


『アズキちゃんは頼りになるなあ』

『俺も今プレイしながら配信見てるけど外見めっちゃいじれる。やばい』

『外見だけじゃないぞ。職業も種族もたんまりある。理想のキャラメイクだけで軽く一日潰せそう』


 そんなコメントが流れるほど、キャラの作成には時間がかかる。それを五人分だ。あまりグダれば配信としてもよろしくない。しかし、今後の配信で重要になる要素だ。アバターモエクスのお手並み拝見と行こう。

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