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俺に本当のラブコメをくれ!  作者: 源 蛍
一章『俺と幼馴染みとラブコメと』
8/23

8話 俺の幼馴染みの部活動

一章二部目です。

 脳内フォルダってさ、かなり役に立たないよな。見たい時に思い返そうとしても鮮明に映し出される訳じゃないし。写真撮っておく方が得だろう。間違いなく。

 かく言う俺には『場面を鮮明にいつまでも記憶出来る』って特技なのか? とにかくそれがあって、記憶から呼び起こすのが簡単だ。

 記憶力とは違って、場面しか記録出来ないから大して役に立たないよな──つーか今、俺の腹に推定四十キロの重りが飛び乗って来ました。


 おはようございます。


「おはよおおおお己はいい加減にしろやあ! いつまでも軽くねぇんだから、その毎朝飛び乗って来るのやめてくれないかなぁ!? 食ったもん全部戻すっての! 分かるぅ!?」


「わわっ、おはよう朝からうるさいね」


「お前のせいだろうがよぉおおおおおお!?」


 優梨奈のバースデーパーティー期間中は必ず無いのだが、終われば話は別。(はる)は午前六時半頃に下腹部に飛び乗って来る。

 正直、吐かないで堪えてる俺は凄いと自信が持てる。


「わあああなぁあぁにぃすぅぅるううぅのぉおおおぉ」


 悠を揺らす。肩を掴んで無心で揺らす。日頃の恨みだ、せいぜい気持ち悪くなれ。

 揺らしてる途中で、悠の顔が青冷めて来たから一応やめておく。……と、何だこの首の。切り傷?


「陽一、どうしたの? ちょっと気持ち悪いから寄りかかってていい?」


「ああ構わないけど、まずこれ何だ?」


「なっ……!? 急に触らないでよびっくりしたぁ」


 首に人差し指を当てたら、悠は驚いて縦に跳ねた。あまりにも大きく跳ねたから、俺が驚いたわ。

 悠は俺に指差された首元に触れて、切り傷を確かめる。暫く触ってようやく確認出来たらしく、「ああ」と声を出した。


「転んじゃったから、石で切ったのかな? ほら、僕サッカー部だからよく衝突しちゃうんだよね」


 悠は申し訳なさそうにだけども明るく笑う。適当な態度のまま、悠はコテンと俺の胸に頭を置く。

 お花満開の笑顔の悠を撫でていたら、新たな傷を発見。上からだからこそ見える位置、胸のちょっと上辺りに痣がある。大きな痣だ。


「また……っ! 陽一服の中覗くの嫌われるよ!? やめた方がいいと思う!」


 悠は俺の視線に気づいたらしく、胸元をいつもの薄いTシャツで覆い隠した。だけどちゃんとは隠せてないんだな、それが。

 あと男だから別に見られるの平気だろ。それよりも見過ごせないな、その痣!


「キャー!? 陽一、ダメダメ! 服引っ張らないでよ!!」


「この痣は!? それと、上からでも見えたが脇腹と、あ! 鎖骨辺りにも! よく見たら腕も傷だらけじゃないか! 足も! 脛なんて包帯巻いてあるじゃないか! 本当にサッカーでか!?」


「除くなー! 服伸びる! てか除くな! 陽一手を放して!」


「説明するまでお兄ちゃんは放しません!」


「この……っ!」


 悠は俺の胸に再度頭をくっつけた。そうしていれば、服の中は確かに隠せるからな。

 ……肩とか丸見えだからこんなこと思うけど、本当にこいつ男かよ? ってくらい綺麗な肌してるし、華奢だし。柔らかそうだし。

 本当に服伸びそうだから、軽めに握っておくだけにした。そこで漸く悠が頑なだった口を開く。


「サッカーだもん。意外とスタルパなんだよ? だから追いつけないと、衝突したり滑っちゃったりするんだもん」


「スパルタな」


 言い間違いすら可愛く思える程、今の悠はしおらしくなってる。誰かコイツに性転換の薬とか渡してくれたら、喜んでヒロイン候補に入れるのにな。惜しい奴だ。

 世の中には男でも可愛ければ全然OKなんて輩が存在するが、今ならその気持ちが分かるかも知れない。……分かっちゃダメだけど。

 あと、お前いい加減少しは頭よくなれ。


「……ねぇ陽一、もうちょっとこのままで居たいなぁ。ダメ?」


 悠は頬をかなり赤く染めて、上目遣いだ。こんなのが至近距離……細かく言うと五センチくらいしか顔が離れてないとか考えてほしい。卒倒するか襲うかだ。

 襲ったらダメだろう、男を。だから拒否拒否。


「ダーメだ。多分、そろそろ真空夜(まあや)が不動明王みたいなおっかない面で乗り込んで来る頃だと思うからな」


「うん、僕もそう思う。だってほら」


「ん? あ……」


 悠の指差す先には、腕組み仁王立ちの真空夜姉さん。眉間に幾つも皺が寄っていて活火山噴火五秒ま──


「誰が不動明王みたいなおっかない面だと? 陽一、覚悟は出来ているんだろうな」


「……おはようございます女王様。いやぁ今日も天気がいいですねぇ、散歩日和ですわ。で、今日の朝飯は?」


「話を逸らすな」


「……はい」


 真空夜に土下座させられた俺は、その後階段から転げ落ちた。怪我は痣だけで、悠が同じだと無邪気な笑顔を見せるのでチョップした。


「痛い!」


「今のは別に怒ったんじゃない。サッカー好きなのはいいけど、あまり無茶すんなって意味を込めた。お前はただでさえ細いんだし、心配になるんだよ」


「心配してくれるんだ? ありがとっ、陽一!」


「どういたしまして」


「さっさと来いミミズ共」


「まさかのミミズかよ」


 何でミミズ何だ? とか思い当たる節を探して、多分これだなってのが一つ浮かんで来た。基本的に、ミミズは動きが鈍いからだな。早いのもいるけど。

 真空夜の虫嫌いも、どうしたもんだろう。嫌いな奴とかキビキビ動かない人間を虫の名で呼ぶのはどうかと思うぞ。

 本当は凄く残念な優等生の姉に連れられ、俺達は死んだ空気を纏って登校した。



「今日はまた一段と残念な顔してんな、よーいち」


 朝会を終えて一限目との間の時間、廊下の窓を開けて外を眺めていたら、隣に優梨奈が歩いて来た。少しの風に靡く髪を押さえて、同じ様に外を眺めてる。


「残念な顔って何だよ。つぅか一段とってどういうことだ。俺がそんな顔してる訳ないだろ」


「それはどうだろうな。お前は常に残念だから」


「どういうことだよ」


 普段通り俺を小馬鹿にした様に笑う優梨奈は、手に持って来ていた紙袋をいそいそと開ける。小物って言うには少しばかり大きめな模型を取り出した。

 ……それ、白馬に跨った王子様じゃねぇか。俺があげたやつじゃね?


「あげる」


 微笑んで見つめていた白馬に乗った王子様の模型を、優梨奈は俺に押し付けて来た。俺の亀裂が入っていたハートが砕け散る音が聞こえる。

 優梨奈は、俺からの誕生日プレゼントを返品して来たのか。分かってたよ……持ってる物は要らないよな。

 涙目で大人しく受け取る俺を見て、優梨奈は焦った顔で手を横に振る。……ん? 何どした。


「それ、あたしが自分で買ったやつ。よーいちから貰ったのはこっち」


「あ、そうだったのか。てっきり返品されたのかと」


「そんなことしねぇよ」


「でもよく区別つくよな、同じ模型なのに。同じ紙袋に入れてたんだろ?」


「うん、ちょっと違ったから覚えた」


 ほう、一目では何処がどう違うのかさっぱりだがな。別に王子様の顔が違うって訳でもないし。馬の種類が違う訳でもなさそうだ。一体何処で区別したんだ?

 俺の意図を読み取る様に眉を動かした優梨奈は、俺の持つ白馬の顔部分を指差してそれから自分の方の馬の顔を見せて来る。特に違いが分からない。


「そっちの、あたしが買った模型の馬は鼻辺りの黒い線が四本で、よーいちがくれたこっちのは三本なんだ」


「気づくかそんなとこ」


「まぁ、区別しておこうとは思ってたからさ」


 優梨奈は口を尖らせると、一旦下に紙袋を下ろす。そんなに気に入ってたのか、模型をじっと見つめて仄かな笑みを浮かべている。

 その様子を穏やかな心で眺めていたら、優梨奈は俺に飛び切りの笑顔を向けて模型を顔の前に持ち上げた。動作がいちいち可愛いんだよなぁ。飴食べてなければ。


「お揃いだな、よーいち。嬉しいよ。……じゃあまた帰りな。もうそろそろ授業始まるからさっさと行けよ?」


「分かってるって。ここ教室の前だからギリギリでも間に合うよ」


「そっか」


 手を振って自分のクラスに戻る優梨奈を見送って、俺は静かに窓を閉めた。仕舞いようの無い模型をじっと見つめて、自分の口元が綻ぶのが分かった。

 優梨奈からのプレゼントって考えると、やっぱ嬉しいもんだよな。ただこんなもん要らねぇよって気持ちはあるけど。

 あと、ナチュラルに一緒に帰る約束したな。優梨奈はやっぱ可愛らしいな。

 親友との絆に満悦の表情で笑みを浮かべていたら、担任に気色が悪いと殴られた。痛いんだが。


 俺が気色悪い訳がないだろう。──って、ラブコメの主人公って必ずしも主人公が格好いいって訳でもないか。

 魔法とか異世界とかそういうのならイケメンでイケメンな性格した主人公が多いが、学園系は変なタイプが多い。

 俺は間違いなく学園ラブコメの主人公なんだよなぁ……。


「綱吉は悪政として有名な生類憐みの令などを……」


 本日最後の日本史の授業中、俺は優梨奈から貰った模型を机に置いたままノートにこれからの予定を書き込んでいた。授業は一つも聞いていない。

 まずあれだ、キャラを増やさなきゃな。姉、幼馴染みだけど男、俺に恋愛感情を持たない新友では本当のラブコメは成り立たないからな。

 俺に恋愛感情を持って、恐らく読者とかにもウケがいいような美少女で、漫画みたいなハプニングが起こるようなキャラがいい。何処かにいないだろうか。


「……ふむ、そこで大欠伸を堂々としてる、明らかに私の授業が詰まらないといった感じの君。荒巻陽一君、綱吉のこの政治に、どう思うか意見をいただきたいな」


 マジか面倒だなぁ。この授業の担当、面倒なんだよなぁ。いちいちしつこいから。

 だと言って逃げても無意味だ。堂々と答えてやろう。


「そもそも、高校生なら綱吉くらい覚えとけって話ですよね。政治は悪政って言われてるくらいだから悪いんじゃねぇの? それより俺は源氏物語とかの授業が受けたい」


 ハーレムだろ? 女子を悲しませたくないから、あんまり賛成しない話だが、いつか役に立つかも知れないからな。

 担当は頭を抱えて、俺の返答に発言する。


「そうだね、君はラブコメの主人公だったね。ただ高校生なら源氏物語くらい知ってなさい。それとそれは日本史というか古典でしょうが」


「そっすねー」


「そんなにラブコメがしたいなら私とでもするかい?」


「あー、年増は興味な……あだっ!?」


 履いてたスリッパで殴られた。いや何でスリッパだよ。てか汚ねぇな何してくれんだババア。そんなだから彼氏も出来ねーんだろ二十四歳。

 ……模型で殴られた。木製で硬く加工されてる物だから超痛い。


「てか模型に関しては何も言わねぇな、先生。普通授業中机の上に出して置く物じゃないよこれ」


 まぁ仕舞えと言われてもスペースが無いから無理なんだけど。


「そこは私が責められたものじゃないからね。ほら」


「本当だ、先生デスクの上に全く同じ物乗ってんのな」


「馬の尻尾が毛二本程跳ねているんだけどね、君のより」


 だから何でんな細かいとこに目が行くんだよ。模型マニアか何かかお前らは。指摘されるまで気づかねーよ普通。

 指摘する人も凄いが。

 六限の授業を終えて、優梨奈のクラスに向かった。


「今日は一緒に帰るんだろ? 優梨奈」


「ん? いいのか? なら、一緒がいいな。……でも陽一、わさわざ聞きに来たってことは、何かあんだろ」


 優梨奈は鋭い。一応、俺は今日この後直ぐ帰る予定ではなかったんだ。


「ああ、悠の部活が気になってな。アイツ見たらボロボロだから、どんなことしてんのか不安になってさ」


「ふーん? じゃ、部活終わるまで待てって?」


「そういうこと。……えっと、どうします?」


 優梨奈の顔色を窺ってみると、僅かに頬が膨れているのが分かった。やめてお願い、お願い待っててくれ。一緒に帰りたいんだ。優梨奈さん、どうかご慈悲を……


「ヤダ。今日バイトあるし、先帰るからな。待ってたら遅刻しちゃうし」


 慈悲はなかった。まぁ、仕方ないよな。バイトがあるなら、仕方ないですよね。

 ああ、今回ばかりは間違いなく自業自得だ。優梨奈と帰りたかったなぁ。

 項垂れてたら、ちょんちょんと肩を突かれる。優梨奈が人差し指で気付かせようとしてた様だ。


「何だ? もしかして優梨奈も何か俺に用があったのか?」


「あ、そうじゃなくて。明日なら待てるよって言っておこうと。どうせ、よーいちは過保護だから一日で観察が終わるとは思えないしな」


 優梨奈は腰に手を当てて嘆息する。明日なら待てるってことは、明日はバイトが無いってことだな。了解。

 流石幼馴染みで親友というべきか、俺の性格をよく理解してらっしゃる。俺は過保護だって自覚があるからな。勿論、悠を暫く見守るつもりだ。


「……っと、部活始まってんな。五時だし。んじゃな優梨奈、また明日」


「おう! じゃーなよーいち」


 鞄を手に取った優梨奈と手を振り、教室を出る。サッカー部は別の棟だよな、と渡り廊下を歩く。

 別棟を一階まで降りて外に出ると、サッカー部の専用フィールドが姿を表す。三日振りでーす。


「どうも先生。何か最近悠が傷だらけなんで、ちょっと心配で見に来たんすけど」


「あぁん?」


 顧問? 監督? どっちで呼べばいいのか知らんけど、とにかく近づいてみたら睨まれた。何故ー。

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