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俺に本当のラブコメをくれ!  作者: 源 蛍
一章『俺と幼馴染みとラブコメと』
6/23

6話 俺の家族と幼馴染みの家族と親友のバースデーパーティー本番

 ──高い山。でもどっちかというとブロックの塊が塔に見えるだけ。だよな多分。

 そんな山を見上げてたら、超巨大化した甲冑武装真空夜がズシンと音立てて参上。町は一気に騒然とし、俺は優梨奈と悠を両手に華……じゃなくて両手でしっかり抱き締め、迫り来る真空夜の攻撃を受ける。


 ──って夢を見たバースデーパーティー当日の朝。何となく真空夜の顔を直視出来ない。

 夢の甲冑武装真空夜と完璧少女真空夜(現実)がごっちゃになって、ちょっと怖い。


「おい陽一、何故私を避ける? もっと見ろ……もとい、眼を逸らさなくてもいいだろう」


「いや悪い、ちょっと悪夢を見てな」


「悪夢? 悪夢で私のことが見れない……私死んだ?」


「纏めて死んだ」


 お前に殺されたんだよ、というのは伏せておく。本当にやられるかも知れないから。

 夢の話なのに何でこんなビクビクして話さなければならないんだろうか。しかも姉弟だというのに。

 分かりきってる。真空夜が怖いからだ。


「陽一、醤油取って〜。卵には醤油派なの」


 俺の隣に座る悠は、朝食の卵に醤油をかけるため俺の太腿に右手をついてもう片方の手を伸ばす痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。


「痛いわ! 体重を太腿にかけんじゃねぇよ! アホか! 取ってって言ったくせに自分が取ろうとしてんな大人しく座ってろ!」


「はーい」


 悪びれない悠は手を退かす。余りにも抵抗が無かったがもしかして、コイツわざとやった? ねぇ、わざとやったのか?

 朝からこんな調子だと胃が痛くなる。単にドリンクの飲み過ぎだったから関係は無いんだけど。


「よいしょっと、一旦置いて……行って来ます」


 朝食を終えて家の前に並んだ俺達三人は、家に向かって合掌する。母への挨拶だ。

 俺達に手をひらひらと振る父は、未だ仕事を探してるみたいだ。やっぱ首にされたんだな親父。

 昨日の夜中に済ませたから今朝はバースデーパーティーの準備はない。だけど結局寝坊で俺達は遅刻した。平常運転である。

 ──真空夜、お前よくそんなんで優等生だとか言われんな? てかいい加減新しい目覚まし買おうぜおい。


「よういちぃ、先生に『今日という今日は許さない。居残り決定だからね! 逃げないように!』って首刺されたぁ。どーひよ……」


「釘刺された、な。首刺されたら死ぬわボケ。てかどうしようも何も、居残りするしかないだろ」


 昼休み、悠は通い妻の如く俺の教室へやって来た。

 弁当箱を届けてくれたらしく、自分の失態をアホみたいに笑ってやった。……悠が妻だとしたらどんなんだろう。幼妻だよな? 子供っぽいから。それで俺の為に尽くしてくれそう──いや悠は男だっての。

 それと、俺も居残りさせられるみたいだから安心しろ。

 頭を撫でてやったら、可愛らしく鳴いた。『鳴いた』? 何かやらしい想像が。


「あのさ、陽一は大丈夫なの? 今日優梨奈ちゃんのバースデーパーティーだよ? 居残り、いつまでさせられるのか……」


「あ! やべぇそうだった。……こうなったら仕方ない、逃げるぞ悠!」


「……え?」


 自分でも何言ってんだって思う。だが、ただでさえ授業の時間が長いのに居残りなんてさせられたら時間を間違いなく過ぎてしまう。それは絶対にダメだ。俺達が優梨奈を裏切る訳にはいかないんだ。

 悠に言われてふと思ったが翌日もっと多量の課題を追加され、その上居残りとか提案されたら終わる。マジで。一日でそれはキツい。……だけど、優梨奈が悲しむのはもっと嫌だ。それこそ終わる。

 だから俺達は昼休み、授業開始までなら外出が認められているため外に出た。門番に「買い物行ってきやーす」って伝えてから。


 勿論買い物なんて口から出まかせだ。本当は駅に向かってそのまま帰るだけ。

 駅に向かう最中、「何で真空夜は居残りさせられないんだろう」って悠と二人で考えて、直ぐに止めた。優等生だからに決まっている。

 ……遅刻常習犯のどこが優等生なんだか教えていただきたいものだ。


 無事駅に辿り着いたら、悠が途端に足を留めた。改札までもう少しで、まだ切符は買っていないんだが。


「もうちょいかぁ……。頑張らなきゃ」


 悠はぶつぶつと何かを唱え、切符売り場に急いだ。悠が視線を向けていたものは、サッカーの世界大会の日程が記された旗だった。

 悠は男子サッカー部所属の人間。恐らく、もう直ぐ始まる大会の為に気合いを入れ直したんだろう。ぶつぶつ言ってたのは、多分おまじないみたいなもんだ。勝つための。

 この旗に祈っても何の得もないが、可愛い(本当に可愛い)幼馴染みの為、俺も祈ってみる。


 数分経って、俺達が乗る電車が入って来た。俺も悠も急いで乗り込み、空いていた席に座る。

 五月初日だと言えど、それなりに気温が高いので汗を沢山かいてしまった。汗が気持ち悪いのか、ただ風を求めているのか、悠はTシャツの首元をパタパタと扇ぐ。

 相変わらず可愛い下着を着ているものだ。


「暑いね、陽一。ん? どこ見てんの? それより、さ、あの、ね……?」


「あん? 確かに暑いよな。でも電車ん中クーラー効いてるから気づいたら汗なんて引っ込んでんだろ。そして俺は窓を見てる……ん?」


「ふむ、この五月を過ぎたら夏……と言えど、五月半ばは最早夏も同然だからな。(やつら)が活発に飛び回る忌まわしき季節がやって来る。恐ろしいものだ」


「真空夜──!? 何でお前も……!」


「ふん、当然だ。まさか同じ考えだとは思わなんだが、優梨奈の為に完璧に仕上げたくてな。先に帰ることにした。成績のことは問題ない。お前達も同じ考えなのだろう」


 真空夜は一人納得してご機嫌そうにうんうん頷く。

 違います。僕らは逃げて来たんです。課題、居残り地獄という名の新世界から脱出して来たんです。二人揃って成績も危ないです。

 そんなこと暴露したら引き摺ってでも戻されそうだから言わないけど。


「何だかんだ言って、真空夜は優梨奈大好きだよな」


「……そうだな。優梨奈だけではない、お前達も父も母も皆、私にとって大好きと言い張れる人間達だ」


「そりゃどうも」


 清々しい表情を更に綻ばせた真空夜は、何故か途端に紅潮しそっぽ向いてしまった。お前は一体どうした? 『大好き』って言ったはいいけど恥ずかしいですぅってやつか? ……んなこと言ったらこの車両が殺人現場に変わりそうだな。

 俺達が会話もしなくなった数秒後、電車はようやく発車した。


 ……ここで一つ。俺を挟む二人、汗のせいでシャツが透けてる。

 いや悠はいいよ? 別に。男だし。でも顔がね? 顔百点満点の美少女なんだわ。そんで真空夜は完璧に女なんだわ。スタイルそこそこいい、顔もそこそこいい、女子高生なんだわ。

 ……真っ直ぐ見ていよう。と、思ったら正面は老婆だった。どーもー。


「……あのすみません、何で電車降りて早々両頬殴られなきゃならんのですかね。俺何かした? どっちも握り拳でしたよね」


 二人は何故か無言で殴って来た。全く理解出来なくて駅のホームで訊ねたら、二人は頬をそれぞれ膨らませてストレートに言う。


「陽一がお婆さんに熱い視線を送ってたから」


「送ってねぇわ。どこ見てようとか考えてたら、正面に老婆が座ってただけだろうが」


「陽一が私と悠の透けて見えた身体を脳裏に焼きつけていたからだ」


「焼き付け……て、ねぇし。バカじゃねぇの?」


「陽一、キモい」


 焼き付けてはないつもりだったけど、否定したら鮮明にフラッシュバックした。こめんきっちり焼き付けてた。念写出来そうなくらい。

 てか、今の聞いた感じ真空夜さ? 見られてたの気づいてそのままでいたのかよ? 腕なんて組んで、胸を強調させてたのかよ? 痴女? 痴女なのか?


「気をつけろ陽一、蚊に血を吸い尽くされるところだったぞ」


「鼻殴られたから絶賛出血中だぞ。蚊に吸い尽くされる訳ねぇだろが。お前に殴られたせいで鼻血が止まらねぇわ」


「……え? 陽一ドMなの?」


「何をどうしたらそういう解釈になるんだよ」


 木に囲まれた池の横道を通過している中で、悠は俺の鼻血を止めようとティッシュを突っ込む。痛ぇわ。押し込みゃいいって訳じゃねぇんだよ。

 この道、木々が並ぶからか虫が多い。眼の前を通られる度に真空夜がエビ飛びで回避し、「こやつ、私へ差し向けられた刺客か……!」なんてほざいてる。刺客な訳あるかバカ。


 わざわざこんな道を歩いているのには勿論理由がちゃんとある。真空夜がデコレート用のチョコが欲しいらしくて、買いに行く為の近道なんだ。

 いちいちエビ飛びされてたら時間が勿体無いし暑いんだよさっさと歩け。


 十数分後、俺達三人はスーパーでケーキやパーティーに必要そうな物を一通り眺めていた。


「ふむ。陽一、この丸い小さなチョコなら、胡椒の様にパラパラとかけてしまえるのではないだろうか」


 真空夜が小さな袋を見せて来る。丸い小さなチョコ……。


「アラザンのことか。まぁ、うんまぁ……いいと思うよ。よく使われるしな」


「では何故躊躇う?」


「……いや別に」


 丸いチョコって言い表すとは思ってもみなかったからだよ。女なら誰でも普通に名称を唱えると思ってたからな。

 真空夜は女の癖に甘い物には疎い。あまり見かけないタイプではあるが、イメージとは合うから別にいいか。……でもそれ袋にアラザンって書いてあるやん。


「陽一! これ欲しいなぁ、買って?」


 悠は悠で全く関係無いヘアピンを持って来た。太陽の柄のヘアピンか……うん、自分で買え。

 悠はしゅんとしてレジに並ぶ。俺と真空夜はわざわざ並ぶことのない、誰も居ない方のレジに向かった。

 その様子を驚いた様子で見る悠が涙目で、ちょっと可哀想だった。


 数十分経って家に着いた。まだまだ六時まで時間あるなぁとか暇を持て余していたら、スマホがブーブー豚の様に音を鳴らす。いや全然豚の鳴き声と似てないけど。


「……あ、優梨奈からのメールだ」


「優梨奈ちゃん? 何だって?」


 真っ先に食いついた悠──いや悠だけじゃないな。全員が一斉に反応した。

 ギラリとした眼で見つめられるのに耐えられなくて、俺は気を紛らわせる為に大きな声で内容を読み上げた。


「えっと、『何してんだよーいち。どこにいんだ。お前のクラスの担任雷落としそうなくらい怒ってんぞ。つーかあたしに一言も無しかよ』……だとさ」


 忘れてた、今日優梨奈と会ってない。始まる前に不満を抱かせちまったからか、悠達が呆れた様にジト目を集中させる。やめて怖いから。

 それと、何ですって? 俺の担任は雷様にでも成ってしまったのか? そんなに怒ってんの? 明日サボろうかな……。


「まぁ、ここから挽回するしかないだろうな。陽一、しっかり謝っておけ。お前の責任だ」


「はいはい、てか俺だけなのかよ。全員サボった癖に」


「お前以外に優梨奈のメアドを持っている人間はここに居ないからな」


「……そうでした」


 多分優梨奈は俺以外のメアド知らないぞ。親のも入れてないって言ってたし、友達のは俺しか知らないって言ってたし。

 何か俺だけが特別扱いって思えるからラッキー。……でも優梨奈はもうヒロイン候補から外しちゃったんだよな。

 凄い勿体無い気がする。優梨奈やっぱり外したくねぇ! 凄ぇ可愛いから!


「陽一が、キモい」


「お前はどんだけキモいって言うんだよ」


 俺の言葉を悠と真空夜と親父は無言でスルーし、黙々と各々作業を開始する。

 真空夜はケーキ作り。悠は天狗のお面の点検やその他『天の河さん』グッズを磨く。親父は仕事を探す。……真空夜以外ロクなことしてねぇな。

 いや、親父の仕事探しは一応重要なんだけど。


 俺? 俺はやることないからストレッチでもしてたよ。


 ──午後五時二十七分。俺は優梨奈の家に歩いて来た。約束通り迎えに上がったのだ。

 インターホンを鳴らして、誰も出ねぇと思って頭を掻いてたら私服姿の優梨奈がドアを開けて覗いて来た。

 ケーキみたいな印象がある柔らかそうな記事の服だった。ちょっと長めで、太腿の上の方まで覆う。だけど優梨奈は短いパンツを穿いてるらしくて、それが隠れてるから穿いてない様に見える。

 あとやっぱ少しだけ化粧してんじゃんか。だと思ったけど。


「優梨奈、手を繋いでエスコートしてやろうか? ちょっとしか歩くことないが」


「はっ! エスコートなんて要らねぇよ。何年同じことやってると思ってんだ。……でも手は繋ぐ」


「だよな。ほい」


「ん……」


 優梨奈は俺の手を取り、はにかむ。少し赤くなったまま歩き出す優梨奈の隣で、俺はそっと笑みを零した。

 何でって? ロリ顔の照れなんて最高過ぎるだろうが。そのくらい分かりなさい。


「陽一も、今日は何かやってくれんの?」


「ん、ああそうだな。楽しみにしてろよ?」


 道の途中で優梨奈が俺の顔を見つめる。さっきまでのにやけ顔を一瞬で崩し、クールを装った俺は明るめに笑ってみせる。優梨奈も、嬉しそうに微笑んだ。


「そっか、楽しみにしてるよ。へへっ」


 よし、出だしは良好! 後はパーティーをどれだけ盛り上げてどれだけ楽しませられるか、だな。

 六時まで待って、六時になったら直ぐに家のドアを開けて優梨奈を誘う。

 入って早々、俺は項垂れた。

 親父が優梨奈用の椅子に座ってやがる……。

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