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俺に本当のラブコメをくれ!  作者: 源 蛍
一章『俺と幼馴染みとラブコメと』
5/23

5話 俺と家族と幼馴染みで親友のバースデーパーティーを

 四月三十日。つまりは四月の最終日。もう五月になりますよーと何かの鳥が月の始まりを告げる。

 俺とお菓子を買いにデパートへやって来た優梨奈は、隣でそのロリ顔をだらしなく緩めている。

 つまり、とてもとっても上機嫌だ。


 このデパートは俺達の住む南川町には無い。駅一つ分隣の、間峰(あいだほう)という町に聳え立っている。かなりデカいデパート。

 今日は優梨奈の誕生日プレゼントの一つとして飴でも買いに行こうと予定してたんだが、昇降口で偶然出逢った優梨奈が無理矢理ついて来てしまった。

 そういう訳で、何かしら買ってあげようとか企んでます。


「よーいち、よーいち。見てこれ、綿飴デカい! 飴なんてすぐ溶けるってのにな!」


「……そうっすね」


 機械で物差しくらいの長さ巻かれた綿飴を見て、優梨奈は鼻で笑う。飴はやめておくか。何かクッキーとかにでもしよう。

 それと確かにこの時期だとしても意外と飴は溶ける。チョコも勿論。それに優梨奈は悠と違ってそんな家近くないからな。


「そうだ優梨奈、今まで通り今年も泊まるか? 俺の家族に悠の家族だし、絶対長引くと思うんだけど」


 毎年、夜六時に始まって十時くらいまでは長引く。流石にそんな夜中に優梨奈を帰らせる訳にはいかない。親が酷い人達だし。

 暫く唸った優梨奈は、チラりと俺の顔を覗く。


「よーいちに襲われないか心配」


「安心しろよ、優梨奈は攻略対象から外れたから」


「何の話だよ。まぁ、いつも通り真空夜の部屋に泊まらせてもらうことにするわ。どうせ帰れねーだろうし」


「分かった。後で伝えとく」


 優梨奈は特に何も気にしない様子で笑う。それから何かに眼を光らせ、一直線に駆けて行く。お店では走ってはいけません。

 ちょっとばかり離れた優梨奈は俺を手招く。手招きしてるっていうよりは、ブンブンと手を上げ下げしてる。俺を呼んでるみたいだ。


「何かあったのか?」


 早足で向かい、優梨奈の目線の先を確認する。白馬に乗った王子様の模型が並んでいる。コレがどうかしたのか? 不意に優梨奈が吹き出して、模型に唾がかかってないか不安になった。


「これお前。これよーいちな。『俺が主人公。俺はイケメンだ』みたいなイメージだろ? 自分が王子様って思い込んでるナルシストだろ? ぷはははは!」


「ほーう……こんな馬鹿にされ方は初めてだ。別に俺は自分を王子様だなんて思ってはないが、主人公だってのは間違いないだろ」


「うっせーよナルシスト。あははははははは!」


「お前笑い過ぎだろっ!」


「うわわっ!?」


 あまりに大笑する優梨奈にムカついて両肩を掴んで眼を睨みつける。大抵の女子はこれで萎縮する。ゲームではそうだったから多分間違いない。多分。

 逃げることが不可能になった優梨奈は眼を逸らして、肩を竦めて、何故か頬を赤らめる。


「よーいち……どう、したの? 何、する気……?」


「……っ!?」


 一瞬心臓が止まるかと思った。何だこの可愛い生き物。そんなロリ可愛い顔で照れ顔とかマジ最高過ぎだろ。

 優梨奈、このままどうしてやろうか。からかいやがったお返しに、からかい返して──


「ほっ」


「あぐぉっ!?」


 優梨奈が真顔で脚を振り上げた。膝を曲げて、結構強めなくらいの勢いで。

 その血も涙も無い膝蹴りの餌食となってしまったのは、男性諸君なら理解出来る泣き所。男の股間は、無闇に蹴り上げていいものではありません。


「お前っ……お、おま……」


 今度は本当に心臓止まったかと思った。クリーンヒットじゃない。クリティカルヒットだった。

 股を抑えて少し跼み、優梨奈の肩を片手で掴むと、またまた優梨奈は鼻で笑う。


「いちいち反応がキモいんだよ童貞。あたしがちょっとだけぶりっ子してたら直ぐにデレっとしてさ。本当、悪い女に捕まりそうだなお前。幼馴染みとして悲しいわー」


「だからってやっていいことと悪いことが有るでしょうが! クソ痛ぇ……。てか、人のことを童貞童貞って、お前はどうなんだよ!」


「セクハラか? まぁおあいこってことでいいか。さーな、自分で考えてみろよ」


「は!?」


 優梨奈は振り返って白馬に乗った王子様の模型を手に取ると、レジに向かって行った。気に入ったのか?

 それより、さっきの態度は何だ? もしかして経験があるのか!? 俺の幼馴染みの癖に、俺の知らないとこで大人になっていたってのか!?

 何か色々なショックがかき卵みたいにごちゃごちゃに混ざって、いつの間にか俺も白馬に乗った王子様の模型を購入していた。千円もしたらしい。


 夕焼けに照らされる優梨奈ってやっぱ絵になるというか、額縁に収めておきたいくらい綺麗というか……とにかく見惚れていた。

 今日は途中で学校抜け出して買い物してたけど、あの学校やたら厳しいの忘れてた。俺も優梨奈も色々常習犯なんだが。

 あー、明日色々課題追加されんのかー。ヤダな〜。


「あー、暑い。春なのに春風とか全然ねーし、気温は高いしで暑い! よーいち、何か涼めないか?」


「春風は暖かいと思うぞ。……そうだなぁ、どっかの店入っても、退屈だしなぁ。仕方ない、駄菓子屋でアイスでも買うか? 少しくらいは涼しいと思うぞ」


「さんせーい。ゴチになりまーす」


「俺が奢るのかよ。まぁ、元々何かしら買ってやるつもりでいたから別に構わないけど。何がいい?」


「何でもいいよ。あたしは何だって食べれるからな!」


「了解。じゃあ、駄菓子屋のベンチででも待っててくれ。直ぐ買って来るから」


「ほーい」


 南川町の小学校の近くには、とても広いが小さな山以外何も無い公園がある。その公園の直ぐ傍に、子供が買い食い出来るようにと駄菓子屋が経営されている。

 小学生が買い食いはダメだと思うが、俺もお世話になっていた一人だ。家からはちょっと遠いからあまり来てなくて、もう五年振りくらいになる。


「ごめんちゃーい」


 暖簾を抜けると、そこには懐かしき駄菓子屋の内装が見えて来た。詰まる所、全然変わっていない。変わったことと言えば、店員がお婆さんではなくなっていることくらいだ。

 真空夜が泣いてまでアイスをねだっていたことを今でも鮮明に覚えている。その度に、店員のお婆さんがサービスしてアイスバーを一本くれてたんだったなぁ。


「んっと、お婆さんはいなそうだな。何か、居そうな気配もしない。……優梨奈にはバニラアイスでいいか。よくサービスしてくれた、アイスバー」


 お婆さん店員との懐かしい思い出を胸に、俺は二つバニラアイスのバーを購入した。


「よっ、直ぐ買って来るって言ってた癖に遅かったじゃん」


 外のベンチで待っていた優梨奈は、襟元をパタパタと揺らしている。確かに、風があった方がまだマシだなって程気温は高いみたいだ。


「いやぁ、懐かしくてさ。何か思い出にふけてたわ。ほい、バニラでよかったか?」


「何だって大丈夫だって。それより、この駄菓子屋来たことあったん?」


「寧ろ、この町に住んでて来たことないのか?」


「あたしは親がほら、クソじゃん?」


「クソとか言わない」


 食べ物が眼の前にある時に汚い言葉は使ってはいけませんって、教えられなかったのか? それより、駄菓子屋にも来させてくれなかったのか、優梨奈の両親は。

 我が儘とか許されなかったんだろうなぁ。


 詰まらなそうに眉を寄せ、バニラアイスを口に含む優梨奈は時々俺の顔を見つつそれをペロペロと舐めてみせる。溶けるぞ、落ちるぞ。


「何だよ? 優梨奈垂れちまうぞ」


「おっとヤベェヤベェ。えっとほら、男って女がアイス舐めてるの見ると興奮するって聞いてたからさ。童貞だったらどんな反応するのかなぁって……」


「お前いい加減そういうのやめた方がいいぞ。本当マジで」


 今のは誘惑してたつもりだったってことか? だとして、女がアイスをペロペロするくらいで別に興奮はしないんだけどなぁ。誰情報だよ。

 俺は一足先にアイスを食べ終え、ゴミ箱にゴミを投入。ご馳走様、と心で唱えると背後から「あっ」と声が上がる。

 勿論優梨奈だったんだが、人差し指にバニラがついてしまったみたいだ。だから溶けるって言ったのに。


「……ねぇ見てみよーいち。アイス手に付いちゃった」


 優梨奈はバニラのかかった指を俺に見せつける。


「そうだな、さっさと拭けよ。虫が寄って来んぞ」


「舐めて?」


「はいぃ?」


 優梨奈は笑顔で俺の口元に手を伸ばす。この女、今俺に指を舐めろって言ったのか? 痴女? 痴女なのか?

 ……でもこのままじゃアイスに虫が集る。だから俺は優梨奈の手首をがっしり掴んで、顔を近づけた。


「えっ、あっ、あれ? よーいち本気? マジで舐めんの? 嘘だろ?」


「舐めてって言ったのは優梨奈だろ? ちょっと待ってろ今綺麗にしてやる」


「うわわっ!?」


 何やらパニクる優梨奈の指を舐め回す。アイスも美味しいけど、何となく優梨奈も美味しい気がする。そんな錯覚だとは思うけど。

 多分もうとっくに拭えてるとは思うけど、何となく口に含んでいたくてやめない。これがおしゃぶりの効果か? バブー。

 ……または潤んだ眼で顔真っ赤にしてる優梨奈が可愛いからっていうSな思考のせい。


「よーいち、恥ずかしいからそろそろやめろ! また蹴るぞ!」


「はい、やめます」


 また蹴るぞってことは、股蹴るぞっていうことだろう。だから即座にやめた。優梨奈は手加減をしないタイプの人間だ。だからどうなるか分かったもんじゃない。

 俺の涎でベタベタになってますます汚れたんじゃないかって指をジトッと見つめ、優梨奈はちょっと鼻息を荒あげている。

 そんなに嫌だったなら、初めから舐めろなんて言うなよな。


「よーいちバカ。バカ、バカ。バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ」


「連呼すんな」


「うっせぇ変態。代わりにゴミ捨てろ変態。変態変態変態変態」


「連呼すんなっての」


 優梨奈が自分の指を気にしている間に、手渡されたアイスのゴミを捨てる。水道まで駆けて行った優梨奈を背伸びして待っていると、通行人の老人に挨拶された。こんにちわー。


「ただいま。よーいち早く帰ろうぜ。明日が凄く楽しみだから、今日はあまり疲れたくないんだ」


「お帰り。だとしたら何故貴女今日ついて来てしまったんだい? 大人しく家にでも帰ってりゃよかっただろ」


「いーじゃん。家は居心地悪いし」


 ま、そうっすよね。と、不機嫌そうに口を尖らせる優梨奈の頭を撫でる。撫でたら殴られた。

 多分、優梨奈の頭を撫でたら殴られるんだろうな。記憶して注意しておこう。


 帰路の分かれ道。ちゃんと言うと、俺と優梨奈が別れる道で、俺は足を止めた。


「優梨奈、明日の夜五時半頃、家に迎えに行くから待ってろ。化粧でもしたけりゃして、お洒落でもしたければしてろ」


「しねーよ。わざわざ誕生日パーティーの為にんな大袈裟なことするかよ」


「まぁ、どっちだって構わないよ」


 何せ学校には少し化粧して来てるの知ってるからな。もしかしたら当日こっそり化粧してるかも知れない。

 基本的な予定時刻などは伝えておくけど、内容は全部伏せておく。少しくらいサプライズ感が無きゃ楽しめないだろうしな。


「今年は結構ガチで俺も楽しませる。だけど悠には期待しない方がいい」


「チビにはいつもいつも期待してねぇよ。それより、わざわざ迎えに来てくれんのな、サンキュ」


「構やしないよ。何せ優梨奈は俺の親友だからな?」


「ははっ。……キモ」


「何でだよ!」


 冗談と言って笑う優梨奈は本当に楽しそうだ。きっと俺をからかって遊ぶのが好きなんだろう。酷い。

 優梨奈は明日きっと、今日よりもっと華やかな笑顔を見せてくれる筈だ。年に一度の、優梨奈が主人公のステージが訪れるから。俺はそれを精一杯盛り上げるだけだ。


 俺の理想とは違うラブコメだけど、そんなもん気にならないくらいに優梨奈の笑顔は価値が高い。

 だから、優梨奈を見捨てたりは絶対にしない。笑顔は守ってみせるよ。このラブコメの主人公として、な。


 ──家に帰ると、玄関先で真空夜が仁王立ち。腰に手を当てて、鬼の如し眉間に皺寄せるその表情。どこの大王様ですか貴女は。


「どうしたんだよ、明らかに不機嫌な顔して」


 いつ鉄拳が飛んで来るか危険性はゼロではない。だからなるべく距離を置いた上で真空夜に訊ねる。


「いや、緊張していて顔が強張ってしまっているだけだ。気にするな。熱を冷やしているとこだから先に入れ」


「……明日のパーティーでか。それより虫が寄って来るかも知れねぇぞ」


「それを早く言えウジムシ! クソ! さっさと入れ! 直ぐに鍵を閉める!」


「待て待て待て待て!」


 この女は頭がいいんだか悪いんだか分からないな。それと先に入って鍵かけようとしてるし、弟を閉め出すつもりかっての。

 緊張の方は分からなくもない。俺だってしっかり楽しませてやれるか不安だ。だけど、だからと言って仁王立ちで外には出ねぇよ。


 今頃多分優梨奈もそわそわしてる頃じゃないかなぁとか想像しながら、悠達と一緒に最後の飾り付けをする。あまり派手だと居心地悪い気もするけど、俺達流のおもてなし、させてもらおう。

 あー、真空夜がケーキって、何となく不安になってきたな。当日ですらないのに緊張して般若になるくらいだもんな。


 楽しませられるかより、楽しませる側が色々と不安になって来た。

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