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俺に本当のラブコメをくれ!  作者: 源 蛍
一章『俺と幼馴染みとラブコメと』
13/23

13話 幼馴染みとデートと裏切る俺。

(はる)は可愛いよ、そこはもう仕方ねぇし認める」


 鏡に映る不機嫌そうな自分に向けて、そう言い放った。自分がそうしたからだろうが、鏡の中にいる俺は歯を食い縛っている。

 悠の愛らしさは認められようと、今のあいつ自身は認められない。


「何でわざわざ女装なんてして来んだよ。俺は男友達として好いてんのに、何で女らしくしてんだよ……」


 俺に男を愛でる趣味は多分無い。幾ら可愛い容姿をしていようと、最早美少女にしか見えなくても、それは絶対曲がらない本心だ。

 だから今の悠が嫌だ。女装なんかして、化粧までして、俺の気を引こうとしてるっぽい悠が嫌いだ。

 俺はサバサバした性格で、サッカー少年な悠が好きなんだよ。


「……帰るか」


 ──予期せずに溢れた。

 きっとこの判断は間違いだ。真空夜(まあや)ならそう言う。今直ぐ戻れって、多分ブチ切れる。

 俺だって我慢の限界ってもんがある。今まで共に馬鹿騒ぎした男友達を『可愛い』なんて思うのが、どれ程気持ち悪いことだか分かるのかよ……。


「済みません、あの六番テーブルの奴の分も会計済ませちゃっていいですか。俺、先に帰るんで」


「……?」


 まだ若そうな女性店員は、まだ食事中の悠の後ろ姿を覗いた。不思議そうに首を傾げて、納得がいかなそうに眉を曲げた。


「彼女さん……置いてくんですか?」


「彼女じゃないんで」


「でもデート中ですよね? は? 先帰るとか、マジで言ってるんですか?」


「そう言ってるでしょ。大声だけはやめてくれよ、店にも迷惑かかるし。何より、あいつに気づかれる訳にはいかないし」


「……さいってい」


 俺を、まるで虫を睨みつける時の真空夜みたいな、嫌悪丸出しの眼で見てきた店員はレジに歩いて行った。

 一応、伝票は先に持って来ていた。こっそり。だから俺も彼女に続く。


「二千三百六十円になります。ご来店、ありがとうございました」


「うっす」


 どんだけ早く去ってほしいのかは知らないが、金払う前に言ったな。わざわざ嫌味な言い方だったし。

 店を出て直ぐ、窓際に座る悠を見た。頬に手を当てて美味しいと言ってるのが丸分かり。

 ──悠が中の方に眼を向けてそわそわし出したとこで、俺は歩を進めた。


 *


 家に、なるべく音を立てずに入った。……が、玄関そばの廊下に真空夜がボウルを抱えて立っていた。


「おい陽一。何故、一人なんだ? 悠はどうした?」


 キョトンとして訊いて来るが、その疑問には疑問で返させてもらうぞ。


「寧ろ何で一緒に居るんだよ。悠の家はここじゃねぇだろ」


「バカ。おいバカ陽一。悠は基本的、まだ明るい内はうちに来る。私達と悠は家族も同然だろう」


「さも当然の様に言うなよ。今日は早く帰りたかったんだろ」


 面倒なことになりそうだな。早めに自室で籠もることにしよう。

 階段を一段上がろうとしたら、襟を後ろから掴まれてやむなく停止した。振り返らなくてもハッキリ感じる、尋常じゃない殺気。

 真空夜がキレてる。


「陽一……私は冗談は好かん。悠や優梨奈に関することなら尚更な」


「そうかよ。俺は冗談大好きだ」


「答えろ。悠は今何処にいる。そして何故、置き去りにした」


 真空夜の声は少しだけ震えている。これは怒りじゃない。姉弟だから分かる。

 真空夜は今、悔しそうな顔をしてる筈だ。


「……ファミレス。多分、そろそろ食い終わった頃だと思う。海浜公園付近にあるだろ? そこだ」


「分かった。……何か言いたいことはないか?」


「言いたいこと。えーと、会計は済ませたから気にすん……」


「お前は馬鹿か。ノミか。蛆虫か」


 言い切る前に罵声を浴びせられた。いつもより早かったな。それだけキレてんのか。

 襟を放されたから、ようやく階段を上がった。玄関の方で金具の外れる音が聞こえたから、何となく向かってみる。


「……何やってんだ真空夜。ボウル、置きっぱで」


「うるさい黙れカス。悠を迎えに行く。飯が欲しければ自分で作れ」


 俺に眼もくれない真空夜の目元には、多分少量の涙が溜まっていた。何で自分じゃねぇのに泣いてんだ、お前。

 それと、飯は食ったばかりだから要らねぇよ。

 エプロン姿のまま家を飛び出して行った真空夜は、夜遅くまで帰って来なかった。悠の家にでも居たんだろうけど。


「何か今日は一段と疲れたな。あれから真空夜とは険悪な状態が続いてるし。まともに話せそうなのは優梨奈だけか……」


 悠とは別れて以降、会っていない。だからどんな顔をしてるのかもさっぱり分からない。

 湯船に浸かる俺は、あまり深く考えないことにした。女以外とのデートなんて興味ないし。アイツ男だし、デートなんかじゃねぇし。

 どうせ明日朝一緒に登校すんだし、その時様子見とけばいいだろ──。


「あれ? なぁ親父、朝飯は? 真空夜は?」


 今朝は悠が飛び乗って来ることもなかった。下に降りても、真空夜の姿すらない。

 あいつら、先に行きやがったな? スマホで確認したけど、いつもより早起きな筈だし。


「んなもんねぇよ? 真空夜は『今日は勝手に作れ』って鬼の形相で言ってたからな」


「俺らが何も作れないの知ってる癖にか」


「おうよ。因みに俺はお調子もんだからよ、飯は出されたもん食えばいいや〜ってな訳で何も作れねぇ」


「それは偉そうに言うことじゃないと思うぞ」


「んま、ぜーんぶお前の責任だわな。俺はまた出かけて来るから遅刻はすんなよ〜」


「遅刻常習犯だから無理」


 普段より早起きだと言っても、結局はギリギリだからな。またペナルティか……。

 あれ? 悠、もう学校着いてんだとしたら初めての非遅刻じゃね?

 冷蔵庫に卵があったから、真空夜の見よう見まねで焼いてみたら案の定焦げた。


「あ、おーいよーいち! 今日も遅刻おめでとさん」


「嬉しくねぇわ」


 やっぱり優梨奈は平然と話しかけて来る。もしかしたら事情聞いてないだけかも知れないが。


「そういや、今日はチビ達と登校してないんだな。あいつら遅刻してないって騒ぎになってたぞ」


「そんなことで騒ぎになるとかもう末期だな。いっそのことこれから全部遅刻してやろうか」


「んなことしたら苦労すんのお前だかんなバカ」


 優梨奈が呆れた様にスマホを弄り始める。うん、悠達についてしつこく来ないのは助かる。下手したら優梨奈にも見捨てられるからな。

 全員に見捨てられたら流石に泣く。


「あ、そうだよーいち。悠のやつ泣いてたっぽいけど……」


「眼にゴミでも入ったんじゃね? 授業始まるから行こうぜ」


「今日は休日だぞ」


「じゃあ何で皆しているんだよ。忘れてたわ今まで」


 そういや創立記念日で何故か休みなんだった。でも教師も皆居るし──全員間違えた?


「自由登校だぞ、一応。よーいちみたいな遅刻常習犯とか校則違反してる奴とかは中々知らないっぽいけど、登校したらあまったパンとか貰えるから便利」


「あ、マジ? ちょっと俺今日朝飯抜きだったから行ってくるわ」


「おう、いてら〜」


 歩いていた音楽教師に訪ねたら視聴覚室で配ってるって言ってたから、別棟に向かって走り出した。


「うおっ⁉︎ 真空夜に悠に静南(せいな)先生! 何で珍しく纏まっていやがる……もしかして俺の悪口とか言ってないよね?」


 空中廊下で話す三人に隠れつつ、話に耳を澄ましてみる。流石に遠過ぎて聞こえない。

 だとしてもあの三人が揃ってりゃ俺が罵倒されるのが眼に見えている。昨日の今日だし。俺は、悪くないと思うけど。


「よーいちお前、絶対何かやらかしたんだろ」


「どわぁ⁉︎ お前っ、しー! しー!」


「この状況見れば分かるけど、まず自分が静かにしてろよ」


 いつから居たんだ優梨奈お前。背後から覆い被さる様にされると胸元丸見えだぞ。超近いし。

 悠も充分無防備だけど、優梨奈も相当だよな。しかもノーブラっぽいし、悠は男だけど優梨奈は女だし。


「何処見てんだド変態。黙ってればバレないとでも思ってたか」


「鼻血出るっての……」


 先生も優梨奈も鼻を殴らないでくれ。悠みたいに可愛らしく胸部叩いてくれた方がよっぽどいい。

 あと、黙ってればバレないなんて考えてもなかった。凝視し過ぎて他のこと考えてなかった。

 ふと優梨奈が溜め息を吐いて、あっかんべーをしてみせた。


「童貞オタクは女の子の身体に敏感だって聞くしな。じゃーな」


「お前だからそれ傷つくっての……」


 優梨奈って何で恥ずかしげもなく童貞なんて言えちゃうんだ? いや、よくよく考えてみるとクラスの女子とか普通に言ってるわ。そんなもんなのか。

 俺は処女とか言うの照れ臭いけど。


「おーい真空夜達! 何話してんだ?」


「ん? 優梨奈か。実はな……」


 優梨奈が真空夜と悠の腰に手を回して、そこから連れ去るように体育館の方へ向かって行った。俺に気を利かせてくれた、のか?

 それより、優梨奈が腰を触った瞬間ピクッと跳ねた真空夜が何処かエロかった。

 *

 コンソメパンって美味いのか? よく分からないがそれしか残ってなかったから貰っておいた。折角だし昼まで取って置こう。


「陽一、おはよ」


「うおぁっ、は、悠……!」


 背筋をなぞられて変な声が出た。ゾクゾクって感覚、癖になりそうだけど気持ち悪くも感じる。

 後ろにいたのは悠で、珍しく制服を着てる。下はミニスカで傷だらけの脚が──ん? 何でスカート?


「悠、とうとう学校でも女装する気に……」


「ううん、女装にはなっちゃうけど、これマーヤの」


「更に訳分からん」


「コーヒー零しちゃって」


 汚れたから借りたと。なるほど、おっちょこちょいですね悠さん。で、その服は何処へ? そして制服を脱いだ真空夜は何処に? 下着姿とか、ないよな。


「マーヤなら今日はジャージだよ。またプール掃除してるんだってさ」


 悠は窓に身を乗り出して、プールの方に手を振る。危ない怖い危ない怖い。……あ、真空夜だ。

 軽過ぎるから落ちないか不安な悠の身体を抱き締めて支えると、その身体が一瞬強張った。どんどん縮こまっていって、窓から降りる。


「……昨日は、その」


「くすぐったいよ陽一。触る時は声かけてくれないと、ビックリするから」


「あ、ああ。次からは声かける」


「うん、そうして」


 悠は遠慮がちに微笑んだ。

 あー、ずっと気づかない振りしてたんだけど、完全に視界に入った。

 悠の目元、腫れてる。絶対泣いてたんだ。てか優梨奈が泣いてたって言ってたじゃんな。


「そうだ陽一、これ以上残ってると補修受けることになるかも知れないよ? 僕は既に先生に見つかっちゃったから逃げられないけど、陽一はまだ大丈夫でしょ?」


「補修……嫌だな。つまり逃げろってことか」


「そゆこと! 僕が上手く誤魔化しとくから、帰っちゃいなよ。健闘を祈ります!」


「サンキュー、またな悠」


「うん!」


 悠は俺から離れて行くと、途中でこけた。駆け寄りたかったけど、何となく踏み出せなかった。

 ──謝ることも出来ず門を出た。途中で真空夜の悲鳴が聞こえたが、どうすることも叶わない。プールは校内だし。


「今日は優梨奈とも帰れなかったし、何か妙に寂しい日だな」


 帰路の中で、ふと親父の言葉が胸に刺さった。

 確かに自業自得だなって、自分の責任だって、ようやく受け入れた。

 ……初めて家の段差で転んだんだけど。


「あれ? 親父いねぇのか。またハ○ーワークにでも行ってんのかね」


 キッチンスペースを通り過ぎ様に見て、また真空夜が何も作ってくれなかったらどうしようかと不安になった。コンソメパン、美味いのかも怪しいし。

 つーかアレだな、いつまでもうじうじうじうじ悩んでたら真空夜にまた『蛆虫』って罵られるな。やめとこう。


「悠も、目元以外は普段と変わらなかったし、気にすんなってことだろ。きっと、そう……」


 自信がなくて、自室のカーペットに座り込んだ。コンソメパンを食べてみたが案の定上手くない。正直に不味い。

 ヤバい。俺は悪くないって納得はしてる筈なのに罪悪感が半端じゃない。悠が優しいので更に罪悪感増す。


「謝ろうにも、何かもやもやするし。そもそも俺悪くないし謝る必要もないし……。だとしてこのままじゃ楽しくないしなぁ」


 ──ごちゃごちゃ考えてたら、完全に昼を過ぎた。夕方もそろそろ終盤である。

 どんだけ長時間考えてたんだ俺。でも全部記憶にないな。どういうことよ。


「……真空夜さん、俺の晩飯はございますでしょうか」


 一階で料理を始めた音が聞こえて来たので、真空夜に確認しに行った。昨日のがフラッシュバックして、自然と敬語になる。

 ジロッという効果音が似合いそうな睨みを利かせ、真空夜はそっぽを向いた。


「一応作ってやる。大人しく座っていろ」


「うす」


 そっぽを向いた訳じゃなさそうだ。多分料理してるから眼を離せないだけ。多分。

 席について待っていたら、焼き豆腐が一つ手前に置かれた。


 これじゃ腹減るよ……。

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