1話 俺と幼馴染みと姉と友人とついでに親父。
本当は2019年六月一日に始める予定でしたんですが、色々あって今日、六月十五日になりました。
地味に長い作品(私の作品では)になりますが、最後までよろしくお願いします!!
頑張ります!
因みに、主人公がナルシストな感じです。
世の中は……間違っている。俺は断じて異論を認めやしない。
荒巻陽一──今年度十七になる。
大好きなものはラブコメだ。ドラマみたいな三次元ではなく、漫画やアニメ等の二次元限定だけど。
突然話を変えるが、恐らく俺は特別な人間だと思われる。何せ、生まれつき一束程度髪が白い部分が存在するからな。
普通だったらあり得ないだろう。一部白髪の赤ん坊なんて。因みに他の部分は黒だ。
……何が言いたいのかと問われれば、かなり話は単純と思われる。
俺は漫画やアニメで表されるところの、『主人公』だということだ。ラブコメかどうかは不明だが。
もし、もしもラブコメだと言うのなら、俺のラブコメは完璧に間違っている。
周囲には可愛らしい容姿をした人間が集まってはいるものの、そこまでだ。
──キャラとして、役不足な者達しかいない。
とある春の一日、俺は午前六時二分頃自室で前髪右端に一束違和感を発する白髪を摘んで遊ばせていた。
こんな朝早くから何をしとんのだお前は、などと呆れられるかも知れないが、主人公である俺にはあるお約束が待っている。
一階、恐らく玄関辺りだろうか。父の『いらっしゃい』といういかにもアホ面をしてそうなおちゃらけた声が微かに耳に入る。
そろそろ来るぞ。俺は右側の窓の方に視線を向け、腹筋に力を入れた。
「おっはよ! 陽一、起きてるー?」
窓が豪快に開かれ、腹部に強烈なストンピングを喰らう。これが俺の毎朝恒例の地獄だ。
お陰様で腹は鍛えられているんだけど。
「お前は……もうちょっと普通に来れねぇのかよ」
「だって、幾ら家が隣だからってわざわざ上がるの面倒くさいじゃん? 窓からダイブした方がらくらく」
「俺は何で毎朝腹痛になりつつ飯を取らなきゃならんのですかね」
「腹痛? トイレ行ったら?」
「お前バカだろさては」
きょとんとして俺の上に正座しているのは、隣に住む『尾長悠』。名前は両親も含め、その場に居た全員が間違えてつけたらしい。本来は『はるか』って読むからな。
まさかそれで十五年間も生きてるとは驚きもんだけど。
隣人の幼馴染み。ラブコメとしては当然とも言えるポジションにいるこいつだが、俺は断じて認めない。
こいつは、幼馴染みの隣人キャラとしては役不足だ!
「わっ! ちょ、強引過ぎるよ立つの。危ない危ない」
「いいか、悠」
ベッドから落ちかけている悠に人差し指を突きつける。これもお決まりなのだが、文句をぶつける前触れだ。自分で言うと違和感極まりないが。
「お前は、幼馴染みとして、ラブコメでは役に立たん!」
「……いや、毎朝言われてるけど」
明らかにお腹いっぱいな様子の悠だが、気にするもんか。本当にそろそろお腹痛いんだよ。
「顔は可愛い! そこは認める。身体も細くて白くてぷにぷにしてて身長も低い!」
「ぷにぷに!? 太ってないよね……!?」
「起こしに来てくれるのも有り難い! 最近は危機反応が覚醒して先に起きるけど!」
「あ、そうなんだ?」
「だが!! だがありゃ何だ!? 何で朝っぱらからダイビングニーパッドかなんかを喰らわなきゃならない!? 俺がなんかしたか!?」
「必死に無罪を訴えてる人みたい」
「答えろや」
こいつ自己中にも程があるだろう。何故こうも人の話を簡単に流せるんだ? しかも大抵この後は──
「ごめんごめん。意識覚醒させるにはいいかなってさ」
こうやってヘラヘラしつつ謝る。が、一切直そうとはしないんだ。
……知ってるさ。世の中に溢れ出ているラブコメの中には、こういったアホとしか言いようのない幼馴染みが存在していることも。ちゃんと知っている。
だが、俺が求めているのはこんなバイオレンス女じゃない。
「妹はな……妹キャラはな……」
込み上げる感情を押し殺そうと必死に耐え、拳をぷるぷると震わせる。
初めてかも知れないが、俺は今こいつに自分の性癖を暴露しようとしているのかも知れない。
だが、言ってやりたい。もう我慢出来ない!
「歳下の幼馴染みならもっと献身的で俺想いじゃなきゃダメだろう!!」
妹キャラはどこ行った、なんて自分で恥ずかしくもなりつつ、仁王立ちで悠を見下ろす。
あり得ないものを目撃した様な、酷く悲しそうな視線が注がれるが、後悔はない。言いたいことは言ったんだ。
だけどやっぱり恥ずかしい。
でもあるだろう? 妹みたいな歳下の幼馴染みキャラには『お兄ちゃん』とか呼ばれたいって。腕とかぎゅって抱きついて来たら萌え死ぬだろう!?
──まぁ、悠にそんなことを期待出来る訳がないんだが。
「あのさ……」
悠が申し訳なさそうに上目遣いで覗いてくる。やっぱ顔だけ見れば超美少女。
「僕、男って知ってるよね?」
……そう、顔だけなら美少女なんです。
「知ってるよおおおお!! クソォ! 何でだ! 何でお前は女じゃないんだよ! 幼馴染みは大抵女の子じゃねぇのかよ!」
泣崩れるが、心の内では「別にそうでもないか」と嘆息する。
女でもなくて優しくもなくて非常識でアホな幼馴染みとか、ラブコメで何の役に立つんだよ。端役だろ。脇役だろ!
「何でって言われてもなぁ。そだ陽一、早くご飯食べよ! お腹空いちゃったぁ」
「何でうちで食べる気満々なんだよお前。自分の家で食え」
「先行くね〜」
「おい待て! てか天辺跳ねてんぞ! おい悠、髪とかしてから行け」
「あ、あれ? 今日もちゃんととかしたんだけどなぁ」
「癖っ毛はそう簡単になおらないだろ」
「そっか、そだね」
懇願して来る悠のしつこさに負け、男にしては地味に長い鎖骨辺りまである綺麗な髪を整える。
何でここまで女らしいっちゃ女らしい容姿してるのに、男なんだこいつ。しかも、制服の下に見える下着が妙に可愛らしいし。
「ちょ、陽一どこ見てんの!」
「何だ急に真っ赤になって。男同士、別に減るこたないだろ」
「バッカじゃん!? 嫌なものは嫌なの!」
「今度久々に一緒に風呂入んねぇか? うちの風呂、何故か広いし」
「知ってるけど入んない! ほら行くよ!」
釣れないなぁと苦笑する。だが、内心こいつと会話を交わすのはとても楽しい。
八年間、日々を共にしているからこそなのか、安心出来る。
「遅い。お前達は朝食を食べに降りて来るまでどれだけ時間がかかるというんだ、このナマケモノ共が」
「……ああ、遅くなった悪い」
「お前達が遅いと私まで遅刻するだろうが」
「先に行きゃいいだろ」
「僕が一緒に行きたいんだもん」
「勝手にしろや」
一階に降りて最初に腹を立てていたのは『荒巻真空夜』、俺の一つ歳上の姉だ。
肩にかかるストレートの黒髪が、より一層クール感を際立たせて、この口調だからとっつき難い。何故か悠は仲良いんだよな。
因みに余談だが、首元に生まれつきBB弾程度の小さな痣がある。気にはしてないらしいけど。
真空夜がいるだけで俺は胸が痛い。胸じゃないな、こりゃ胃だ。正面に座られるだけでいちいち圧が尋常じゃないんだよなぁ。
高校では、文武両道の天才娘とか持て囃されているのを見かけるが、真空夜はそんな天才というわけじゃない。
とにかく毎晩勉強漬けで、朝早くから簡単な運動やストレッチを入念に繰り返しているだけだ。要するに努力の賜物だよ。
だって、真空夜泳げねーもん。
「何か失礼なことでも考えたか、陽一」
「いんや別に」
「ならいいけど」
猫の目なんて可愛いもんじゃない。この姉の目つきは最早百獣の王だ。流石に弟でも圧に負けるわ。
親族に対して何つう目つきしてんのお前。
「だっはっは! 朝から仲がいいこったなぁ。羨ましいぜ。お前達が学校行っちまったらおっさん虚しく寂しく独りだよおい!」
朝から酔っ払ってる……訳ではないっぽい髭面の男は俺達姉弟の父親。
名前は両親の遊び心で決められた『春巻』だが、過去に嫌がらせを受けたこともないらしく、嫌ってもないそうだ。
にしても子供に遊び心で名前つけるなよな。
そうだ、名前と言えば俺の名前だよ。嫌いじゃないけど、主人公らしくもっと格好のいい名前をつけて欲しかった。
例えば『龍雅』とか『秀』みたいな感じで。ノリはそんな感じで。
黙々と食事が続く中、突然悠が立ち上がった。目線の先は、時計。
ああそうだあの時計、今調子悪いんだよなぁ。朝なのに十一時になってるし。
えーっと? 今の時間は……
「やべぇ七時半になんぞ! いつの間にこんな時間経ってんだ!?」
「ああ悪い言い忘れていた。陽一の部屋の時計、狂ってたぞ」
「ついでに僕のも」
「お前らバカだろ! のんびりしてないでさっさと行くぞ!」
朝食は粗方済んだので、バッグをさげて玄関に走る。うちから高校までは凡そ一時間な為、遅刻になる八時二十分までに……着くかなぁ。
そんなことを考えて不安になっていると、いつの間にやら悠達が外に出ていた。怖いわお前ら。
「おっと。陽一、悠待て。忘れているぞ」
駆け足になろうと身を低くした直後、真空夜に襟首を掴まれて急ブレーキ。苦しい苦しい。
「あ、忘れてた。……行ってきます」
三人で声を揃えて家に向き直り、ターンして今度こそ走り出す。
今のは母に対しての『行ってきます』だ。
五年前、交通整備をしていた母は衝突事故に巻き込まれて即死。俺達が知ったのは、既に冷たく固まってしまった母だった。
三人にとっても尊敬出来る母だった為、毎朝こうして挨拶をしている。
今でも後悔してるよ。何も知らずに花をプレゼントした自分に。
……あ、父には挨拶してねぇな。
俺達の通う南川町私立高等学校では、毎朝クソ面倒くさい朝会が行われる。
主人公は朝会をサボってこそのもんだろ。サボったら課題を増やされるんだけど。全教科。
眠りたい衝動に駆られつつ脳内でネズミを走らせていると、背後からつん、と背中を突かれた。
「よっ、元気かよーいち。あたしは朝から元気だぞ」
悠以外で唯一と呼べる友人、『鳥羽優梨奈』だ。
茶髪のショートカットで、容姿は可愛い女の子って感じだが、性格はガサツ。
因みに二重瞼がチャームポイントらしい。
何故かいつもいつも、見る度別の飴を口に含んでいる。恐らく校則違反だと思われます。
「お前なぁ、俺の友人ならもっと上品に振る舞えよ」
「何で? お前が下品だから?」
「誰が下品だ」
「へっ、冗談だよジョーダン」
屈託無く笑うのはまぁ、こいつのいいとこだろうな。でも元々こいつこんなだっけ? 臆病な感じだった気も──いや、今は現状のことだけ見りゃいいか。保育園児の頃なんてもうどうだっていい。
「いいか優梨奈。俺の同級生で幼馴染みなら、俺に対して気兼ねなく且つ笑い合える様な人間じゃないと。つぅか女子なのにガサツ過ぎだろ」
俺の嘆息に眉を曲げる優梨奈。
「気兼ねなく話してんじゃん。てか、女子だからって大らかじゃ悪いのかよ?」
「一方的に俺が笑われてんだろ。あとお前は大らかっつぅより『雑』だろ」
「何だそれ」
またまた笑う優梨奈。こいつは家族の次に長くいるとはいえ、未だに掴めない。俺をからかって遊ぶのが好きみたいだけど。
十年以上共にいるが、ラブコメ的展開になったことは一度も無かったりもする。選りに選って一番多いのは悠だからな。
男だぜあいつ……。
「そうだよーいち、今日放課後付き合ってくんね? 買いたいもんあってさ」
朝会が済み、普通棟一階の廊下を歩いている時だった。丁度自販機あるから便利なんだよなぁ。
……あ! 今更だけどあの親父仕事サボる気か!
「おい、聞いてんのかよ」
ジトっと下から睨まれる。俺地味に身長高いから見上げられること多いんだよな。
悠とか優梨奈は顔が可愛いから上目遣いがキュンと来る──いや、悠にはキュンキュンしちゃダメだろ。
「悪い、何だっけ」
「本当に聞いてなかったのな。はぁ。あのな、今日放課後一緒に買い物来てくんねぇ? って聞いたんだよ」
「ああ、別にいいぞ。何か一人じゃ持てない物でも買うのか?」
「いや、本を数冊。余裕で持てるけど、別にいいだろ? 一人じゃつまんないんだよ」
「まぁいいけど」
「サンキュー。じゃ、放課後門でな。あたし一限体育だから先行くな」
「またな」
駆けて行く優梨奈と手を振り合い、姿が見えなくなったとこで周りを確認した。そしてちょっとだけニヤける。
「放課後買い物ね。相手は優梨奈だけど、要するにデートってことだろ? 初デートだへへ」
むしろ、今まで何で無かったのか不思議なくらいだ。あんなに周りに美少女がいるってのに。
待てよ、俺の周り髪型似過ぎじゃね!? 個性乏しすぎるだろ! 殆どショートカットじゃねぇか!
あと、皆顔がロリっぽい。俺的にはいいんだけど全然。性格全然ロリに合わない奴等だけど。
「ま、いいや。別に人の個性を否定するつもりはないし」
自販機で先程買ったコーンスープを飲み干し、気合を入れる様に盛大に鼻息を出した。
──通過した女子が嫌そうな目で睨んで来る。あ、あの子達タレ目だ可愛いな。