第96話 魔力0の大賢者、ドメステの自信作を受け取る
翌朝は、ドワーフ族特製のマグマパンを食べさせてもらった。なんでも炉を利用して焼いてるんだとか。かなり暑そうだけど大丈夫なのかな? と思ったらマグマを栄養に育つマグマ麦を使ってるから寧ろ炉の熱でないと上手く焼き上がらないんだとか。
ちなみにできたてのパンを、一口食べてみるかい? とドワーフのお姉さんに言われたから、好意に甘えて食べてみたら凄い慌ててたよ。
どうやら冗談のつもりだったようで、なんでも焼けたばかりのパンは5000度にもなるんだとか。
だから普通は熱いのに気がついて食べようとしないらしいし、冷めるのを待つらしいんだけど、普通に食べちゃった……そしてやっぱり魔法で瞬時に冷やしたんだとか思われたけど、いえ5000度のまま食べました。でも美味しかったよ。
「大賢者様! 出来たぜ! ヒヒイロカネの剣が出来たんだぜ!」
朝食も摂り終えて食堂で皆と談笑していたらドワーフのドメステさんが飛び込んできた。凄く興奮した口調だ。それにしても本当にこんなに早くできちゃうんだね。
興奮冷めやまない様子のドメステさんに促されて僕たちは工房に移動した。
するとすぐにドメステさんが1本の剣をもってやってくる。
「これがその剣だ。いやぁ苦労したがおかげでかなり納得の行く出来になったぜ。これまで打った剣の中でも1、2を争う出来だ!」
それは凄い。ドメステさんはこの辺りのドワーフを纏め上げる長だからね。そんなドメステさんがここまで言うのだから相当な物が出来たのかも知れないって期待が膨らむよ。
「さぁみてやってくれ!」
「はい、ありがとうございます」
ドメステさんが差し出してくれた剣を受け取る。あれ、でもこれって……。
「何か変わった形をしてますねお兄様」
「はい、このような剣は初めてみました」
ラーサとハニーが興味深そうに見つつ言った。うん、確かにこの大陸じゃあまり見ない形状だよね。
「これは――刀だね」
「おお、流石大賢者様だ。これを知ってるとはな」
「……刀って?」
「うん、東方の島国で主に使われている剣のことだね。向こうではこの形の刀が主流なんだ」
「東の、あ、イナ麦の原産地ですねお兄様!」
「うん、そうだね」
そう、イナ麦が伝わったのも東方の島国からだった。刀については前世で一度東方から来た侍にあったことがあるから知っていた。
「実は俺も勉強のために東に渡ったことがあるんだが、もともとヒヒイロカネって鉱石は東の島国で発見されることの方が多くてな。まぁ向こうでも希少なことに変わりはなくて幻の鉱石と言われてるぐらいなんだが、とにかく刀との相性はかなりいいとされていてな。だから俺もそれに倣って今回はこの形で打たせてもらった」
なるほどね。向こうで勉強したからこそ、刀の打ち方もわかっていたんだね。
「それで、どうだ? さっきも言ったが、俺はかなり自信があるんだが……」
鞘から刀を抜いてみた。刃は70cm程度かな。反りがあって片刃の物が多いのが刀の特徴だ。僕は素手での戦いが主で自分で剣を振ったりはしないけどそれでもいい品だっていうのはわかるよ。
「うん、凄くいいと思う」
「本当か? いやぁ大賢者様にそう言ってもらえるなら気合い入れて打った甲斐があるってもんだ」
ドメステさんが安堵した顔を見せた。すると。
「……でもマゼル、これ、今までマゼルのお父様が使っていたものと形がかなり違うけど大丈夫?」
「た、確かにかなり変わってますね」
アイラとラーサが心配そうに指摘してくれた。確かに言っていることはよくわかる。これまでの剣とこの刀じゃ使いかっても大きく異なるだろう。
でも――
「確かに形は違うけど、なんとなく僕は父様にはこの刀の方が合っている気がするんだ。それに父様なら形状に関係なく使いこなしてくれると思う」
「うむ、確かにいい剣士ってのはどんな剣であっても適応できるものだな」
そうだよね。だから僕もそれを信じてる。父様は今でも日々の鍛錬は欠かさず、肉体的にも精神的にもそして技術も進化し続けている。そんな父様だからこそ、この刀は相応しいと思う。
「ところで、この刀には何か銘があったりするのかな?」
剣もそうだけど、これはという物が出来た時、鍛冶師は名前をつけたりする。それが銘だ。そして不思議なもので銘がつくことでその性能が変わることもあるんだ。
「あぁ、実は決めてあってな。この刀の銘は――ヒノカグツチだ!」
ドメステさんがそう宣言した時、刀が嬉しそうに光った、そんな気がした。
「ヒノカグツチ――うん! 何か凄くこの刀にあっていていい銘だと思うよ!」
「ガッハッハ! 大賢者様のお墨付きを貰えたなら間違いないな」
「……良かった。これでマゼルの願いが叶った」
「はい、お父様にいい贈り物が出来ましたねお兄様」
「やったね大賢者様!」
みんなも父様の為に用意した新しい刀の完成を喜んでくれた。そしてその後はハニーが頼んでいた蜂用の鞍と鐙も見せてもらったけど、蜂たちに乗せてみたらかなりしっくり来たみたいで嫌がる様子も見せずすんなり受け入れてくれたよ。
「手綱もセットで付けておいたからまぁ上手く活用してくれ」
「ありがとうございます」
「こんなにいいものを作ってもらえるなんて、本当に嬉しい! ありがとうございます!」
僕とハニーがお礼を言うと、いいってことよ、とドメステさんが少し照れた様子を見せた。ちなみにこれも作成したのはドメステさんだった。革細工もいけるなんて本当すごい腕の鍛冶師だよね。
「正直鉱山の再開に協力して貰った上、こんないいものを打たせて貰って、余りのヒヒイロカネまで譲り受けて、こっちとしては感謝してもしきれないぐらいだ。だから、何か困ったことがあったら何でも言ってくれ! 俺たちドワーフ鍛冶組合は大賢者様の為なら何だってやるからよ!」
「わかりました。何か相談がある時には是非頼らせて頂きます」
本当は何か申し訳ない気持ちも強かったけど、逆に感謝されて協力したいって思いが凄く伝わってきたから下手に遠慮できる雰囲気でもなかったしね。
でも結果的にドワーフとのつながりが出来たのはうちとしては大きいかも知れないね。
そして男女含めて数多くのドワーフに見送られて僕たちはアースマウンテンを出た。
それから早速ドメステさんの作ってくれた鞍に乗ることになったけど、確かにより安定して乗りやすいね。
ただ、乗って暫くしたらビロスが寂しそうに鳴いてきた。なんだろう?
「あぁ、きっと大賢者様が直接乗れないことに気がついたのかも。撫でてもらえると機嫌も直ると思うんだけど……」
「こう?」
「――ッ! ビ~♪ ビ~♪」
あ、確かに機嫌が良くなった気がするね。もしかして結構甘えん坊さんだったりするのかな?
すると巨大な鳥の魔物が沢山やってきた。このあたりは空の魔物も多いんだね。
「ビー! ビー!」
すると、蜂たちが張り切りだした。自分たちに任せて! と言ってるようだったから、ならお願いしていい? と聞いたら。
「ビッ! ビ~!」
そしてビロスが中心になって鳥の魔物たちを次々とたおしていったよ。
思ったけど、蜂たちも随分と強くなってるよね。スメナイ山地の探索にはハニーも協力してくれていたしその経験も大きかったのかもね。
そんなわけで空の魔物も蜂たちが倒してくれたから、ほぼ問題なく領地まで戻ることが出来たよ。これなら父様が王都までいくのも安心だよね~。




