第94話 魔力0の大賢者、マグマワームと戦う
結局、やっぱり心配だということで案内ついでとあってドメステさんもついてきてくれることになった。
確かにいまいち忘れがちだけど僕やアイラはまだ9歳でラーサなんて7歳だからね。一番年上のハニーでも12歳だし、心配になるのも当然といえば当然かな。
アースマウンテン最大と呼ばれる鉱山は、そう呼ばれるだけあって確かに一際大きな山の中にあった。出入り口からして巨人でも入れそうな程に大きいね。
トロッコ用の線路が穴の奥まで続いているからそれにそって進むことになる。当然坑道も僕たち全員が入ってもかなり余裕があるほどに広い。
そこに僕たち3人とドメステさんで入っていく。これだけ広いと蜂たちも入ってこれそうだけど羽音でワームを惹きつけるかも知れないとドメステさんがいい顔しなかったから留守番してもらっている。ビロスが寂しそうにないていたからたっぷり撫で回したら嬉しそうだったよ。
さて坑道に入った僕たちだけど思ったより中は明るかった。この鉱山には特殊な鉱石も多くて煌々石なんかは鉱石そのものが発光する。磨けば明かりも強くなるから坑道内を照らすのにも利用されていたようだね。
だから奥まで進んでもある程度の明かりは確保されている。う~ん、でも本当にもぬけの殻だね。
坑道には横倒しになったトロッコや壁に突き刺さったままのツルハシや地面には柄の折れたスコップなんかも散見出来た。天井や壁に大きな穴も見えたけど、これはドワーフが掘った穴じゃなくてマグマワームが掘ったものらしい。
だから、この穴が見えているということはワームが出てくる可能性があるということだ。気をつけないとね。だから僕も周りの気配に神経を尖らせる。
だけど、今のところ僕たちを襲ってくる様子はない、というより。
「このまま真っ直ぐ進んだ先に広い空洞がありますね。多分マグマワームは今そこにいますよ」
「へ? なんでそんなことが判るんだ?」
「……そんなの当然、マゼルの魔法があればこの程度の鉱山の構造を把握するなんて当たり前」
「はい、お兄様の魔法があれば世界の果てでも余裕で見通せるのです」
「前にアリの巣に入ったときもあまり迷ってなさそうだったもんねぇ~」
「坊主どんだけだよ……」
「いや、流石に世界の果てまでというのは言い過ぎかなとは思います」
目を細めるドメステさんに一応弁解しておく。流石に僕のはただの物理的察知だし、世界の果てまではね。やったことないし。
それはそれとして、恐らく潜んでいるだろうマグマワーム達との距離が近づくにつれモワッとした熱気が漂ってくるようになった。
「おいおい、なんだよこの暑さは。まるで蒸し風呂のようだぜ」
「ううぅう、これはキツイです~蜂たちはつれてこなくて正解でしたぁ」
ハニーが額を拭いながら口にした。蜂は暑さに弱いのかなぁ?
「……確かに暑い。脱ぎたくなってきた」
「ぬ、脱いだら駄目だよ!」
「そ、そうですよ! でもどうしても脱ぐと言うなら私も!」
「いや、何言ってるのラーサまで!」
2人揃って脱ぐとか脱がないとか、ちょっと落ち着いて、てハニーが既にシャツの裾に手をかけ始めているし!
「待って待って! 今涼しくするから!」
「は?」
僕は全身を小刻みに振動させ、気化熱で周囲の温度を下げていった。ちなみにこの振動はやり方によっては摩擦で炎を生んだりも出来るんだよね。
「おぉ、本当だ。何か涼しくなったぜ」
「お兄様は生活魔法も当然扱えますから」
これ生活魔法扱いなの! 全く僕にはそんな自覚ないんだけどね。
「……むぅ、合理的にマゼルに迫れると思ったのに」
「な、何を言ってるんですかアイラさんは、もう!」
ん? なんだろアイラとラーサが何か僕について言ってるような? 気のせいかな。
さて、そんなやり取りもありつつ奥へ奥へと突き進んでいく僕たちだけど、ん? これはちょっとまずいね。
「みんな少し後ろに下がっていて」
「は? なんだよ一体?」
「お兄様がこういっているのですから早く」
「え? お、おい!」
「……早く下がる」
「大賢者様、お気をつけを!」
疑問の声を上げていたドメステさんは3人に引きずられるようにして下がっていった。
うん、多分大丈夫だとは思うけど一応念の為ね。
さて、やってくるそれに備えて身構えていると、真っ赤に染まった灼熱の液体が僕たちに向けて地響きを奏でながら迫ってきた。
「な、なな! ま、マグマだぁあぁああ! もう駄目だぁああ!」
「……大丈夫」
「お兄様ならこんなの平気です」
「大賢者様は無敵ですからね!」
マグマの洪水にドメステさんが慌てているようだけど、他の皆は落ち着いているね。僕が言うのもなんだけどとても子どもと思えないよ。
さて、それはそうと、うん、やっぱりこれなら――大丈夫だね!
「ハァアアアァアアア!」
だから僕は迫ってきたマグマに向けて両手を広げ、そして灼熱の液体を受け止めた。
「いいぃいぃいいぃいいいぃいいいィ!?」
ドメステさんの絶叫が耳に届く。マグマにびっくりしちゃったのかな? でもこれ、思ったより熱くないんだよね。マグマと言ってもこのマグマはあくまで地上のマグマだから、精々3000度程度といったところだ。
それにマグマは粘度が高いからドロってしている。そのおかげで物理的にも受け止めやすいんだ。
そんなわけで僕は受け止めたマグマに力を込めて、そのまま押し返した。木材を筒状にして入れた水を反対側から栓で押し出す水弾という玩具があるんだけど、感覚的にはそれに近いね。この坑道が筒で僕が栓だ。そんなわけで僕が発生させた圧力でマグマは来た時よりも勢いをまして反対側へ流れていった。
「――い、一体何が起きたんだよ」
「……今のが大賢者マゼルによる伝説の超反射魔法イージス」
「あの太陽神が放った太陽すらも跳ね返したとされる伝説の魔法ですね」
「そんなものまで使いこなすなんて、マゼル様はやっぱり神様です!」
「マジかよ……」
また新しい魔法が!? イージスって、あれ、でももしかしてイージスの盾のことかな?
だ、だとしたらちょっとしたトラウマ。実は前世でちょっとうっかりして粉砕してしまったことがあるんだよね……その時、模擬戦した騎士はとてもいい人で、太陽神の太陽さえも跳ね返すこれを割るとは素晴らしい魔法を見せてもらった、なんて笑いながら許してくれたけど、内心怒っているんだろうなと思うと気が気じゃなかったもの。
まぁ流石に僕の拳で割れるぐらいだから太陽を跳ね返すはいいすぎかなとは思うけど、だから今の行為にイージスという名はふさわしくないと思うんだけどなぁ。だって壊したほうだもの。
でも、何か盛り上がっててそんなこと言える雰囲気じゃないんだよねぇ。
仕方ないからそのまま先に進んだよ。ところでドメステさんが何かあまり喋らなくなったけどどうしたのかな? 疲れたのかな?
「「「グォオオオオオォオオォオオオ!」」」
暫く進んだら広い空洞に出たんだけど、案の定3匹のマグマワームがいたよ。しかも空洞内のど真ん中に大きなマグマ溜まりが出来ていて、その中からニョッキリと首を出してる感じだね。
見た目が巨大な口を有したミミズってところだからどこが首なんだって話ではあるけどね。
「……何か怒ってる?」
「そりゃ位置的にはさっき押し返したマグマが当たる位置だしな」
「え? でもマグマワームが自分で吐いたマグマでしょうから、平気じゃないかな?」
「やっぱさっきのアレはこいつらか……いや、にしてもとんでもない勢いで押し返されたからな……マグマは平気でもあの勢いで戻ってきたら警戒したり怒ったりするんじゃないか?」
え? そんなに凄かったかな? 確かに勢いよく押し返されはしたけど、子どもが水弾で遊んでる程度の感覚だと思うんだけど。
う~ん、でも基本は魔物だからやっぱり短気なのかもね。
「お、おい! そんなことよりあいつら口を大きく広げ始めたぞ! またマグマを吐き出すつもりじゃねぇか? 流石にこんな広いところじゃさっきみたいな真似は無理だろ!」
う~ん確かにさっきと同じ真似は無理かな。でも、それならそれで手はある。
僕は回転を加えた拳を打ち出した。すると物理的に生まれた竜巻が直進上に進んだ後、マグマワーム達を飲み込むように持ち上がった。
「た、竜巻まで起こす魔法が使えるのかよ」
魔法じゃないんだけど……まぁとにかく、これでマグマワームを怯ますことが出来た。竜巻の中だとまともに口も開けないみたいだしチャンスだね。
ちなみにこの竜巻に相手を倒すほどの威力はない。あくまで動きを封じるのが目的だ。あまり威力ある竜巻だと洞窟が崩れちゃうからね。
それにこのワームに食べられたという燃鉱石のこともある。だから一旦動きを止めた後、僕はマグマの中に飛び込んだ。
「な! 何してんだ坊主!」
「お兄様!」
「……いや、心配はいらない」
「え? あ。お兄様……」
「凄いです! マグマの中を泳いでます!」
「ば、馬鹿な! マグマの中を泳ぐだと!」
そう、僕はマグマの中を泳いでいた。それにドメステさんが随分と驚いているようだけど、別にそこまでたいしたことないよ。さっき触って温度も常識の範囲内だってわかったものね。だって3000度程度だもの。地獄のマグマに比べたら全然大したことない。
ちなみに溶岩地獄に流れてるマグマは最低でも3000京度だ。これは昔師匠に教わったんだけどね。
ちなみに地上で唯一地獄のマグマが吹き出るところがあってかつて僕はそこで修行してたんだけどうっかり落ちたことがあってね。
その時、地獄のマグマの温度を知ったんだ。師匠は良く無事だったななんて驚いていたけどね。
そんなわけでこの程度のマグマなら僕にとってはあまり問題ではない。そのうえで、マグマの中をぐるぐると超高速回転することで気化熱を発生させ、急速に温度を下げていった。その結果。
――ピキィイイィイイイン!
「な、なんだってぇえええぇええェ!?」
そう、これでマグマごとワームを氷漬けすることに成功したんだ。




