第76話 魔力0の大賢者、ガーランドのつながりを知る
前回のあらすじ
ガーランドに疑いが掛かった。
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ガーランドは明らかに動揺していた。だけどすぐに表情を取り繕い。
「全く何を馬鹿な。そんなわけがあるものか」
「ほう? 何故ですかな?」
余裕のある態度に戻り証拠を否定する。その姿にアザーズ様が詰め寄った。
「裏ギルドは王国軍が全力で調査しても実態の掴めない組織。それなのに、証拠など掴めるものか」
「それは、確かにそのとおりです。残念ながら我々がどれだけ調査しても裏ギルドそのものについては掴み切ることが出来ませんでした」
「ほら見たことか! きっとその証拠とやらも捏造したものだろう!」
「なら見てみますか?」
レイサさんの回答に、得意満面で声を上げる将軍。だけどヤラカイさんが書類を手渡し、それに目を通した途端顔色が変わった。
「ば、馬鹿な、どこでこれを……」
「確かに裏ギルドそのものについての証拠は掴めなかった。ですが、裏ギルドがいくら慎重な組織でも閣下は別です。いえ、むしろ閣下は慎重だったというべきですか」
「だからこそ、裏ギルドから届いたそれを処分できずにいた。誰に見られるか判らない不安があったのでしょう」
「く、ふ、ふざけるな! つまり貴様は、私の屋敷に忍び込んでこれを盗んだということか!」
そういうことか。つまり将軍は裏ギルドとやり取りした書面なり手紙なりを後生大事に取っておいたというわけだね。
「この書類を手に入れた方法は秘匿させていただきます。ですが、それが裏ギルドと閣下の関係を裏付ける確かな証拠であることは理解できましたね?」
「……ふ、ふふ、はははははは……パクっ」
「あ!」
「もぐもぐ、ごっくん、ぷはぁ~~~~! おや? どうかしたかね君たち?」
「うわ~……」
まさかの方法だよ。将軍てば、渡された証拠の書面を丸めて食べて飲み込んで、何事もなかったような顔見せてるよ!
「……ガーランド卿、貴方には騎士としてのプライドがないのか? 仮にも将軍の地位まで上り詰めた者があまりに見苦しい」
「ふん、なんとでもいえ。貴様らだってどうせ正規な方法で手に入れたわけではなかろうに。おっと、何も証拠などなかったのだったな」
「こ、この方、それで押し通す気なのですか?」
「……これで閣下とは聞いて呆れる」
「竜殺しの英雄とまで呼ばれた将軍として、恥ずかしくないのですかな?」
フンッ! とそっぽを向きどこ吹く風だ。だけど、ヤラカイさんが嘆息し。
「無駄ですよ。それは原本を書き写させたものですからね。当然ですが本物は持参していません」
「な、なんだと! き、貴様散々かわいがってやったのに卑怯だぞ!」
「どの口がそれを言っているのか……」
姫様も呆れ顔だよ。流石にもうこれ以上何をしても悪循環に陥るだけな気がするよ。
「もういい加減に観念してください。貴方もワグナーも言い逃れが出来る状態ではありません。このまま連行させていただきます」
「わ、私もか!」
「貴方もです。蟲使いの件に少なからず関与していることも調査済みです」
そ、そんな、と地面に両手をつけ項垂れるワグナー。それにしてもまさかあの蟲の件に関係していたなんてね……。
「どちらにしろ証拠が上がっている以上、もう観念するほかないでしょうな。本当に残念だがな」
するとアザーズ様が目配せし、周囲に集まってきていた兵士がガーランドとワグナーを捕らえようと動き出した。ここには他の貴族の姿もあるし、もう言い逃れは出来ないだろうな。
「やめんか! 貴様らこんなことしてただで済むと思っているのか!」
「ガーランド卿、お鎮まりください!」
「せめて最後ぐらいは潔く従ってください」
「黙れ! アザーズ! いますぐこいつらを止めさせろ! オムス公国との関係を悪化させたくなければな!」
「……何?」
アザーズ様が手を上げて、一旦待てと兵士に合図した。ガーランドは両脇から押さえられたままだが、会話を続けられる余裕がある。
「今のはどういう意味だ?」
「ふん、聞いてのとおりだ。だが、本当にいいのか? この状況で話しても?」
アザーズ様は一旦考えた後、ライス様へいって使用人に関係ない貴族たちを屋敷まで誘導させた。
僕たちも離れた方がいいのかな? とも思ったけどアザーズ様から残っていて欲しいと言われたので残ることに。
当然国の名前を出された姫様たちもそのままだ。
「それで、さっきのはどういう意味だ?」
「ふん、聞いての通りだ。この話、協力者はワグナーだけではない。公国の公爵家も関係しているのだよ」
「な、なんだって? でたらめを申すな!」
「でたらめではない! ふふ、姫の命を狙った暗殺者とて、お前の身内なのだぞ?」
「な!?」
姫様が絶句した。暗殺者と言うと、姫様がローラン領を離れた後のあのことか……。
「これは中々興味深い話ですね。それで、一体うちの誰が協力者だと?」
「……それはわからん」
「わからん、だと?」
アザーズ様が胡乱な目を将軍に向ける。自分から公国との関係を示唆しておいてわからないじゃ疑わしくもなるよね。
「わからないとはどういう意味ですかな? それではただの言い逃れにしか思えませんが」
「黙れ、賢者頼みの伯爵風情が偉そうに。貴様など息子の威をかりているだけの愚者でしかないであろう」
「む……」
「父様のことを何も知らないのに、そのような言い方はやめてください」
僕は将軍に抗議した。確かに父様は僕を大賢者と呼ぶけど、同時に子どもとしてしっかり愛情を注いでくれている。それに米作りも含めて父様の協力がなければとても成功できなかった。
「ふん、偉そうに、だが覚えておけ、貴様が偉そうにしていられるのも今のうちだけだ。今に化けの皮が剥がれ落ちるだろうよ」
「それは無理です。お兄様に化けの皮などありはしないからです」
「……マゼルはお前とは違う」
僕を擁護してくれるラーサとアイラの優しさが心にしみる。ただ、もしかしたらガーランドの言っているのは魔法のことなのだろうか?
でも、例え僕が本当は魔法が使えないってことが公になったとしても、僕はただそれを受け入れるだけだ。
「話を本題に戻させてもらおう。それで、何故相手が誰かも判らないのに公国からだとわかるのか?」
「手紙だよ。私宛に届いた手紙にしっかりと公家の調印があった。何度か目にしているから間違いない。誰かは書いていなくてもそれがあったからこそ判ったのだ」
アザーズは目でレイサさんに確認するけど、彼女は首を横に振った。
「その手紙は見つかりませんでした」
「当然だ、裏ギルドの書類と一緒にするような迂闊な真似を誰がするものか」
「中々に用意周到なことですね。ですが、貴方は何故その者と協力することに決めたのですか? いくら調印があったとしても誰かもわからなかったのですよね?」
これを聞いたのはルーチン殿下だった。
「……私と志が一緒だった。それしか言えんな」
「志……」
ルーチン殿下が顎を押さえ考えている。だけど程なくして、その目が何故かドナル殿下に向けられた。
「これは、どういうことかな兄さん?」
「……何がだ」
「まさかここまで来てとぼけるわけじゃないよね? 僕はこれでも諸国の情報には強いつもりだ。だからガーランド将軍かかなりの強硬派だという事は知っている。そして兄さんも普段から国の軍事力をもっと強化すべきだって訴えていたよね?」
「……何が言いたい?」
「文字通りの意味だよ。ガーランドの言っている志が一緒という人物は兄さんしか考えられないじゃないか」
「……馬鹿を言うな!」
ドナル殿下が立ち上がりルーチン殿下を見下ろした。そして見上げるルーチン殿下の瞳もこれまでと違い真剣なものだ。
「やめてくれ兄様! 今はそのようなことを話している場合ではないだろう!」
一触即発にも感じられる空気の中、姫様が立ち上がり声を荒げた。どこか悲痛な響きだ……。
「ガーランドよ、話は判ったが、何故それを今話した? これで状況が変わるなどと本気で思っていたのか?」
「当然だ。よく考えてみろ。こんなことが公になれば一体どうなるか。折角の王国と公国の関係が台無しだ。米の件もどうなるか……だが、ここで全て見なかったことにしたらどうだ? なんと全てが丸く収まるのだ! 素晴らしいではないか!」
「そんな馬鹿げた話が通じると本気で思っているのか?」
「思っているのさ。丁度いい具合にここに全ての責任を取らすことが出来るやつがいる」
「な! まさかガーランド、貴様!」
将軍がワグナーを見ながらククッと笑った。本気で言っているなら、心底性根が腐っているとしか思えない。
「嘆かわしいな」
「何?」
「全く、そんな話を呑むものがここにいると思ったか? 周りを見てみろ、全員貴様に呆れ果てているぞ」
「な、馬鹿な! 貴様らわかっていないのか! ここでワグナー一人に押し付けるだけで、全てが丸く収まるのだぞ!」
だが、その言葉を無視するようにアザーズ様が立ち上がり、姫様と公子様へ頭を下げた。
「殿下、申し訳ありません。ですがこのような事になった以上、私どもも調査を徹底せざるを得ません」
「勿論判っていますよ」
「我々のことは気にせず、真相究明に尽くして欲しい。勿論私たちも、戻り次第父上に報告しこちら側でも調査をすることにしましょう」
「……」
3人の中で唯一ドナル殿下だけが何も言わなかった。ただその表情は真剣そのものだった。
「ありがとうございます。ですが、それでお互いの関係が悪化するのは避けねばなりません」
「それはもちろん判っています」
「き、貴様ら本気で言っているのか! こんなこと馬鹿げている! 私はこの国の将軍だぞ! それを失うのがこの国にとってどれほどの損失か!」
「黙れガーランド!」
「ぐっ!」
アザーズ様が一喝した。ガーランド将軍はうつむいて悔しそうに歯牙を噛み締めている。
色々と課題は残された。特にオムス公国とのことは心配でもある。でもとりあえずこの場はガーランド将軍とワグナーが連行される形で……。
「し、失礼致します!」
その時だった。一人の兵士が息せき切ってやってきた。その目には狼狽の色が見えるよ。
「どうしたのですかそんなに慌てて?」
ライス様が問う。兵士の顔色は非常に悪い。何かただごとではない雰囲気だ。
「そ、それがご、ゴブリンがあらわれて!」
「ゴブリン? なんだそんなことか。それならば冒険者に依頼を出して……」
「そ、それが、数が尋常でないのです! 報告によるとゴブリンの大軍が街に向かってきており、その数、およそ5万と!」
その瞬間、場の空気が一気に凍りついた――
とんでもない数です。




