第73話 魔力0の大賢者、兄弟の事情を知る
前回のあらすじ
絡んできた相手がミラノ姫の兄だった。
「お兄様もお戯れを。私としてもそういう冗談は勘弁頂きたい」
ルーチン殿下の発言に、回りの皆も目をパチクリさせていたけど、そこで声を上げたのは姫様だった。
「ん? 別に冗談のつもりもないんだけどねぇ」
「そ、それこそ無茶が過ぎる! だ、大体年の差が!」
「はっはっは、何を言うかと思えば。この程度の年の差、5年も過ごせば関係なくなるよ。大賢者マゼルもそう思わないかい?」
え? 僕!?
「へ? あ、いえ、流石に私もまだそういったことを考えるには早いかな、と……」
「そ、そうだぞ! 私とて、まだ、けけ、結婚など考えておらん!」
姫様が汗をかきながら、結婚について否定の意を示した。そりゃそうだよねぇ。僕なんて中身はともかく見た目から言えば姫様からみればまだまだ子どもだし相手にされるわけないもの。
「わ、私もお兄様に結婚は、さ、流石にまだ早いと思います!」
「……右に同意」
「ははは、いやはや、これはまたルーチン殿下は気が早いですな。しかし、気持ちはわかりますぞ。私も孫を嫁がせるなら大賢者様のような御方が理想かと思ってますので」
「え!」
アザーズ様まで突然何を言い出すの!? あぁ、ほらアイラだって戸惑ってるし!
「はは、なるほどなるほど。どうやら大賢者様ともなればお相手が多そうですね。ミラノもうかうかしていては先を越されるぞ?」
「だから! そ、そんな気は、その、ゴニョゴニョ……」
「うん? 最後の方がよくきこえなかったなぁ?」
「も、もう! お兄様など知らぬ!」
姫様がプイッと殿下に背中を向けちゃったよ~それはそうだよね。僕なんかと結婚なんて話をされたら冗談でも氣を悪くしちゃうよ。
「姫様、なにか申し訳ないです」
「な、なんでマゼルが謝る! お主は悪くないであろうが!」
「え? あ、すみません」
な、なんか怒られてる気分になってつい謝っちゃったよ。それにしても、さっきからずっと突き刺さるような視線を感じるな……。
「ローラン卿はご子息のご結婚についてはどうお考えなのですか?」
「私ですか? 私は息子がこの人と決めた相手であれば文句を言うつもりもありません。それに息子であれば生涯添え遂げる相手をじっかり見極めて素晴らしい相手を見つけてくれると信じてますので」
いや父様、そもそも僕なんかを気に入ってくれる相手がいるのかという問題が……。
何せ前世では200年間全く彼女が出来なかったし、うぅ、何かまた悲しくなってきた。
「ふむ、なるほどね。いやいや、これはミラノも今のうちにしっかりアピールして掴まえておかないと他の女性にとられ」
「殿下、もうそろそろその話はおやめになられた方が……」
すると姫様の護衛騎士のタルトさんがやってきてルーチン殿下に耳打ちした。
どうして? と首をかしげる殿下だったけど――
「殿下の命が危ないです。主にミラノ姫の弓で」
「うわ! ちょ、ミラノ!」
「お・に・い・さ・ま」
姫様一体どこから取り出したのか、矢を番えた弓を引いて鬼の形相で殿下を狙っていたよ、こわ!
「わ、わかったわかった。もうこの話はやめるってば。うん、こういうのは当人同士の気持ちが大事だものね」
そこまで言った後、ルーチン殿下が僕を振り返り、ニコニコしながら近づいてきた。な、なんか逆に怖い。
「いやぁマゼルくん、こんな妹だけど末永くよろしく頼むよ。ちょっと年上だけど、経験は間違いなくな」
「お兄様お覚悟!」
「じょ、冗談冗談!」
振り返って慌てて両手を振った。人をからかうのが好きなタイプなのかな?
「ま、それはそれとして、さっきの兄の言動に関しては本当にもうしわけなかったね。でも気を悪くしないでやって欲しい。兄も悪い人間じゃないんだよ」
「え、えぇ。僕はもう気にしてませんから」
「それなら良かった。いや、でも困ったものだよ。兄は頭が固いというか融通が効かないと言うか。魔法の重要性は判っているんだけどだからこそより魔力の多いものでないと強力な魔法は使えないと思いこんでるんだ」
「でも、確かに一般的にはそうですからね」
「でも、君のような例外もいる。魔力0なのに伝説級の魔法で様々な難題を解決してきたというじゃないか。それは本当に素晴らしいと思う。でも、兄様にはそれが理解できないんだ。だからあんな不遜な態度を取ってしまう。そこは弟としてもちょっと残念なところかな」
魔法が使えないのは確かだから間違いではないんだけど……う、う~ん。でもなんだろう。妙な不協和音を感じるな。一見兄であるドナル殿下を擁護しているかと思えば、不満のほうが大きそうな、う~ん。
「……お兄様、ところであまりここにばかり留まっていては、他にもご挨拶が」
「うん? あぁそうだね。それではこれで一旦外させて頂きますね。マゼルくん、妹のことよろしくね」
「お兄様!」
「判った判ったって」
そしてルーチン殿下もこの場から離れていった。ふぅ、ドナル殿下よりはフランクで話しやすかったけど、どうにも掴めない人だな。
「マゼル、その本当に色々とすまなかった」
「いや、本当に気にしてないから大丈夫だよ。ミラノ姫のお兄様と出会えて光栄に思えるし」
「そう言ってもらえると……だが、大賢者のマゼルならもう気がついていると思うが……」
右手を胸の前に持っていって、姫様が言いよどんだ。自分の口からはいいにくいのかもだけど。
「え~と、もしかして、兄弟はあまり仲がよろしくない?」
姫様がじっと僕の目を見てきて、そしてコクリとうなずいた。
「昔はそんなことはなかったのだが、ここ数年で明らかに空気が変わってきていてな。父上が一度倒れてから特にそれが顕著になったのだ。兄様はどちらも表立って対立することはないのだが、口を交わすことは滅多になくなってしまっている」
そうなんだ。姫様が少し悲しそうな顔を見せた。僕の家は家族は仲が良いけど、世の中の家族のすべてがそう上手く行くとは限らない。
特に公国の公子ともなれば世継ぎの問題なんかも絡んでくるかも知れないしね……。
「――いや、すまなかったな。こんな話をしてしまって。全く今日は折角マゼルの用意してくれた米が食べられるというのに」
「……うん、そうだね。僕も今回は自信があるんだ。だから、姫様もお兄様たちも笑顔になれるお米を用意してみせるよ」
「……マゼル、ふふ、判った。楽しみにしておるぞ」
そして姫様もこの場を後にした。さて、僕の方もそろそろ準備しないとね……。
「中々の自信ではないか」
「ガーランド閣下……」
振り返るとすぐ正面に閣下がいた。そして、何故だろう。僕を見下ろす姿がやたらと高圧的に感じられる。
「しかし、ミラノ姫に随分と大きく出たようだが、相手がいることを忘れてはいないかね? ワグナー家の米のほうが旨ければ、とんだ赤っ恥だぞ?」
「別に僕は、姫様が笑顔になれるならうちの米でなくても構わないと思っています。ただ、だからといって負けるつもりはないですけどね」
「……ふん。どうやら大賢者と持ち上げられすぎたのか自惚れが見えるな」
「そうでしたか。それはどうもありがとうございます」
「何?」
「自分では気づかない、微妙な心情の変化をガーランド閣下は感じ取ってくれたのですよね? だからこそあえて私に厳しい言葉を掛けてくれた。おかげでより気持ちが引き締まりました。自分に厳しく、取り組ませていただきます」
「……ふん。自分の愚かさが少しは理解出来たようだな。さぁ、ボヤボヤしている暇はないぞ。もうすぐ味比べだ。さっさと持ち場までくるがいい!」
空気を切るように将軍が踵を返し、大股で歩き出す。僕も後に続くが。
「お兄様、私はお兄様を信じてます」
「……マゼルが苦労して改良したお米が負けるわけない」
「そのとおりだ。いざ大賢者米のお披露目のときだな!」
「うん、そうだね父様……て、えぇええぇええ! 何その大賢者米って!」
「勿論、我が領地で取れた米のブランド名だ!」
親指を立てて、いい笑顔で父様が言ったけど、それ、聞いてないから~~~~!
ブランドは大事ですね。




