第71話 魔力0の大賢者、再びナムライ領へ
前回のあらすじ
裏ギルドの工作員を見破って倒した。
トンネルに入るなり妙な気配が着いてきてるなと思ったけど、案の定ここ最近よく出くわす裏ギルド関係の人だった。
何か魔法の爆弾とかつかってきて随分と物騒だったけど、拳圧でなんとかなってよかったよ。何故か父様やラーサは障壁だと言っていたけど、障壁じゃなくて衝撃なんだけどね。
衝撃も確かに上手く扱えば壁みたいに出来るのは確かだけど。とにかく一旦気絶させた後、起こして話を聞いたけど案の定ギルドから依頼があったから襲ってきただけで依頼主までわからないってことだった。
僕が透明化を見破ったことに随分と驚いていたけど、透明になるなら気配も消さないと意味がないからね。
とにかく話を聞いた後は電気ショックで眠らせた。後は先を急ぐから申し訳ないけどカッター領のギルドに任せることにした。
『ヴァンさん聞こえますか?』
「~~~~!?」
あ、なんか戸惑ってそうな気がする。ちゃんと伝えないと。
『念を送ってます。念じていただければ僕とも話せますので』
『こ、こうか……しかし驚いたな念話の魔法まで使えるとは』
念話? 魔法? いやこれは体内の電気を信号として届けているだけで、相手の念も電気信号で掴んでるってだけの話で普通に物理なんだけどね。
『――というわけです。縛ってこのまま行こうと思うのですが後をお願いしても大丈夫ですか?』
『判った。こっちでやっておこう。安心して向かってくれ』
うん、これでギルドの方でこの裏ギルドの賊は回収してくれるね。
「よし、ギルドのマスターにはお願いしておいたので回収は任せて大丈夫だよ」
「……お願い? は、そうか! 流石大賢者マゼルともなれば念話の魔法程度お手の物なのだな」
「お、お兄様、それはつまり私ともいつでもどこでも会話が可能ということですね!」
「え? いや流石に範囲に限度はあるけど範囲内なら……」
何故かラーサが妙に嬉しそうだな~魔法ではないという点は……中々説明しづらいしそのままにしておこうかな……。
そして僕たちは歩みを再開させたんだけど――何かそれからもやたら盗賊に襲われて、進行を邪魔されたり米を奪われそうになったよ。全部返り討ちにして回収はギルドにまかせたけどね。
そんなわけでトンネルを抜けてからも色々障害はあったけど全て乗り越えて予定通りというより予定より早くナムライ家の暮らす城に到着した。
馬車を止めると、メイド長のメイサさんが出迎えてくれた。
「ようこそおいでくださいましたローラン伯爵。そしてお久しぶりです大賢者マゼル様に妹君のラーサ様もお元気そうで何よりです」
恭しく頭を下げるメイサさん。あいかわらず所作の一つ一つが美しい。流石メイド長だ。
「それではどうぞこちらへ」
お互い軽い挨拶を済ますと、中庭まで案内された。前も見たけど庭園という表現がぴったり来るほど広い。
ふと、中庭で語り合う2人の姿が目に入った。ガーランド将軍とアザーズ様だ。
「はっはっは、しかしローラン領からは果たして時間どおり来ますかな」
「それは問題ないと思いますが。何せ大賢者のトンネルもありますし」
「確かにそうであるな。むしろそれだけの条件で遅れるようなことがあればこれは由々しき事態と」
「それなら大丈夫ですよ。ただいま到着いたしましたので」
「そうそうただいま到着、て、なに~~~~~~~~!」
アザーズ様と話していたガーランド将軍が声をかけた僕を振り返り目玉が飛び出んばかりに驚いたよ。え? どうして?
「どうかされましたからガーランド卿?」
「え? あ、いや、なんでもないが、その……道中危険はなかったのかな?」
将軍の慌てぶりにはアザーズ様も気がついたみたいで様子を確認したけど、すると僕にそんな質問をぶつけてきたよ。
何か随分とタイミングのいい質問だね。僕は道中で起きた出来事を思い出しながら答えた。
「それは、途中で盗賊に襲われたりはしましたね。全部撃退しましたが」
「……チッ」
「うん? いま閣下、もしかして舌打ちしましたか?」
父様が何かに気づいたように問いかける。う~ん、確かにそんな気もしたような?
「せ、咳払いだ。少々喉がな」
「そうでしたか。これは失礼致しました」
「しかし、盗賊とは災難でしたな。お嬢様も怖かったのでは?」
「いえ! お兄様が一緒でしたので何も心配はいりませんでした」
「はっは、なるほど。流石は大賢者マゼルであるな」
アザーズ様が愉快そうに肩を揺らした。盗賊は正直そんなに強いのはいなかったし、ラーサもこう言ってるけど途中からは結構魔法で焼いて、父様も剣術で打ちのめしてたし。
「しかし、妙な話であるな。商人からは盗賊の被害が減ったと喜ばれていたのに、ローラン家がやってくるタイミングで増えるなど」
「それですが、どうも裏ギルド絡みで我々の情報が出回っていたようなのです」
「ふむ、それは看過出来ない話ではあるな。今日のことは関係者だけしか知らないことであるのに、その情報が漏れるとは、ガーランド卿はどう思われますかな?」
「は? ど、どうとは何だ! 何故私にそんなことを聞く!」
「……いえ、裏ギルドについては王国騎士団も調査に乗り出しているではありませんか。ですので何か知っていればと思ったのですがな」
将軍、何か落ち着きがないね。
「そ、それは今もまだ調査中だ。何せあの裏ギルドというのは拠点も持たなく、中々尻尾を掴ませないのだ。しかし、とんでもない連中だな。うん、なんとかせねば」
どうも将軍は苛々してるようで、目つきも剣呑だし、指でしきりに組んだ腕を叩いている。裏ギルドに対しての憤りがあるのかな。
「ところでワグナー家の皆さんも到着されてるのですか?」
「まだ来てないが、なんだ? まだ定められた時刻には早いであろうが! 何か問題があるのか?」
「え? いえ、来ているかどうか確認しただけだったので……」
「フンッ!」
な、なんでこんなに将軍はカリカリしてるんだろう?
「閣下! ワグナー卿が到着いたしました」
「これはこれはガーランド閣下、もうご到着でしたか。いや、私も少し早いかなとは思ったのですが」
「遅いわこのバカモンが! 恥を知れ!」
「え、えええぇえええぇえええぇええ!?」
な、何か凄い怒鳴られてガミガミ言われてるなぁ。ワグナー家も予定より1時間は早いのだけどペコペコしててちょっと気の毒かも。
「くそ、予定より早く来たのになんで怒鳴られないといかんのか」
「はは、どうやら閣下は虫の居所が悪かったようで災難でしたな」
「……ふん、随分と余裕であるな」
将軍から解放されたワグナーに父様が声をかけた。睨むような目で応じるワグナー。何か敵愾心がありありと見て取れるね。
「余裕とまではいかないが息子のマゼルが頑張ってくれたのでね。自信の米は用意できたつもりだよ。だが、それはきっとお互い様だろうし、いい勝負が出来ると期待してますよ」
「……つまり、前の米より旨いというのか?」
「そうですね。それは自信があります」
僕が答えた。米の味は実際自信がある。ゴールデンスカラベから採取出来る肥料のおかげでね。
「ところで今日はラクナは一緒ではないのですか?」
「な! だ、誰のせいだと思ってるんだ! くそ、性格の悪い! 失礼する!」
何か頭から湯気が上がるぐらいカッカした様子で立ち去ってしまった。僕のせい?
「噂によると、あの時大賢者マゼルに敗北し、すっかり自信をなくして家に引きこもってしまったらしいな」
するとアザーズ様が近づいてきてワグナーが不機嫌になった理由を教えてくれた。
でも、そうだったんだ……参ったな。正直言えばあの勝負でも僕は魔法なんて使ってなかったし。
「申し訳ないことしたかな……?」
「……そんなことマゼルが気にする必要はない。大体最初にちょっかい掛けてきたのはあいつ」
「アイラ」
ドレス姿のアイラがトコトコと近づいてきた。相変わらず可愛らしい。
「お兄様、アイラさんの言うとおりです。あのラクナは私にも強引に迫ってきて、自業自得です」
確かにもとを正せば、あいつの自業自得ではあるんだろうけどね。
「アイラの言っていることは尤もです。それにそのぐらいの事で自信をなくすなら、彼も所詮その程度だったということです」
ライス様もやってきたね。眼鏡を掛けて相変わらず穏やかそうではあるのだけど、ラクナに関しては割と辛辣だ。アイラのこともあったからかも。
「ライス様、ご無沙汰しております。そしてその節はお嬢様に手を貸して頂き助かりました」
「その件は父として私からもお礼申し上げます――」
領地の件もあったので、父様と僕で頭を下げると、いやいやとライスさんが両手を振り。
「むしろ大賢者マゼル様のお役に立てたなら光栄なことですから気にしないでください」
「いや、あの、大賢者や様とつけられるのは流石に恐れ多すぎます」
爵位で言えばうちより遥かに上だし、確かにもうしわけない。
「いやいや、あの混蟲族を打倒したわけですし、それに娘もお世話になってます。これぐらいは」
「は、はぁ」
ライスさんの方からそう言われてしまうと……あまり否定してしまうと逆に失礼に当たるかも知れないよね……。
「……パパ、マゼル困ってる」
「うむ? そうか、困らせるのは申し訳ないかな。それなら、マゼルくんでも構いませんか?」
「いやいや、それはもう私としては息子をそう呼んで頂けるなら光栄です」
「それは良かった。今後のこともありますし」
「なるほど、今後もですな」
何か父様とライスさんが妙に判り合ってるような、そして何故かアイラの頬が赤くなってて、ラーサがむ~と唸ってる。
「オムス公国の公女と公子がこられたので、どうぞこちらへ」
暫く僕たちが歓談していると、執事の方がやってきてオムス公国の皆さんも到着したと教えてくれたので一緒に向かう。すると僕と目があった姫様が近づいてきてくれた。
「マゼル、ついに約束の日が来たな。最高の米を期待しておるぞ」
「はい。前回よりも美味しいお米と料理をご披露いたしましょう」
姫様の口元がふと緩むのを見て、僕も笑みを返した。期待してくれてるんだと思うと、より気合が入るね。
「お前がマゼルか――」
すると姫様の背後にぬっと現れた人物が僕を見下ろしながら、どこか不満そうな顔で僕へ語りかけてきた。え~と、この人は?
「……まさかお前のような子どもが、認められるとはな。話には聞いていたが、魔力が0だということだが、そんな男がよりにもよって、この場にとは全く、相応しくない男だ。いいか、俺は絶対に貴様など、は、認めないからな!」
俺たちの戦いはこれからだ!
これにて平成の大賢者の物語は完結となります、ここまで読んで頂きありがとうございました。
そして引き続き、令和からの新たな魔力0の大賢者にご期待下さい!




