第65話 魔力0の大賢者、怪しまれる
前回のあらすじ
王国騎士団が来た。
何か妙に敵意むき出しなヤカライに言いがかりを受けてしまったよ。知ったふうな口をと言われても、本の内容に間違いがないなら、そのとおりのことだと思うんだけど……。
「私も、マゼルの言っていることに特におかしな点はないと思うのですが」
すると、父様が僕を擁護するように割って入ってくれた。ヤカライはやれやれと大げさに両手を上げて肩を揺らす。
「百歩ハンドレットマーチほど譲って領内にやってきた虫バグを排除デリートする分にはまぁいいでしょう。だけど所詮は虫バグに領地ファームが荒らされストームされた程度のことを驚異ビックリとはね。確かに混蟲族バグファミリアは脅威になりえますが、その程度の矮小スモールな虫バグ程度で領地テリトリーの危機パニックとはとても言えませんな」
特徴的過ぎる喋り方で頭が痛くなってきた。でも、何か認識が全然ことなっているよね。蟲一つとっても、まるで普通の虫がやってきたぐらいの感じだし。
「確かに畑も大事でしたが、当然蟲の影響で農民にも被害が出ていた可能性があったのですぞ。息子のマゼルの対応が早かったからこそ民の命は守られ、畑の被害も最小限に食い止めましたが、そうでなければ被害はもっと拡大していた筈。それだけの危険が迫っていたのにまるで大したことがなかったように言われるのは心外ですな」
「むしろそれが完全パーフェクトな証拠エビデンスでしょう。所詮彼はまだまだ幼い子どもチャイルド。出来ることなどたかが知れている。随分と持ち上げリフトアップされて調子にのってハイテンションになってるようですがこの程度の子どもチャイルドに撃退ブレイクされる程度の虫バグなど脅威デンジャラスになりえるわけがない!」
凄い決めつけだ……証明として今回撃退した蟲の魔石も資料まで付けて提示してるのに……。
「まぁ待つがよいヤカライよ。そう一方的に責め立ててはローラン卿も立つ瀬がないだろう。それに、われわれ王国騎士団からすれば全く大したことのない程度の魔物でも地方の領主からしてみれば脅威となりえる。冒険者にしても、ここでは精々Bランク程度しかいないと聞くしな」
あれ? なんだろう? ガーランド将軍の言い方には何か皮肉めいているというか、うちの領が見下されているというかそんな印象があるのだけど……。
「とはいえだ。やはり今回の行為は褒められたものではないな。蟲を食い止め畑を守ったまでは、まぁそれなりに頑張ったと言えるが、その後の行動は問題がある。混蟲族は王国としても密かに危険視し追っていた一族だ。手配書も回そうかという話が出ていた程にな。それほどの相手を独断で追うというのはな」
むしろ、その手配書がなぜ今まで出てなかったかの方が気になるんだけど……。
「ガーランド閣下、そうは言われますが、混蟲族は直ちに対処しなければ危険な相手だったことは確かです。そのことは今回協力してくれた蟲一族の少女も危惧しておりましたし」
「それもだローラン。どうやら勝手に村に帰したようだが、その判断ミスが後々命取りになるのかもしれないのだぞ?」
「判断ミスとはどういうことですか?」
ちょっと将軍の言っている意味がわからなくてつい口を挟んでしまった。
「判らんのか? そのハニーという女は混蟲族と結託してこの領地をいや王国を狙っていた可能性がある。いや寧ろ高いだろう」
「え? いや流石にそれは……ハニーは僕と一緒に戦ってくれましたし、ソルジャーアントのクイーンとも戦ってくれていました。混蟲族のアジトまで連れて行ってくれたのも彼女です」
「そんなもの混蟲族が裏切ったか、仕事に失敗したのを見て、始末するために協力する振りをしたかのどちらかであろう」
「閣下、いくらなんでもそれは決めつけが過ぎるのでは?」
「そんなことはないノットでしょう。むしろ閣下のお考えの方が合理的ナイスです。大体あのあたりは不可侵ノットウォーズ条約など結んだばかりに調子づかせ過ぎてしまったのです。しかしこうなっては仕方ありませんな。あの場所の連中には王国の管理下コントロールに入ってもらう他ありません」
「いやいや! 流石にそれは乱暴すぎるのでは? それに僕も一緒に行動しましたが彼女に不審な点などありませんでしたよ」
「ホワイ? なぜ君ユーはそこまで蟲一族などを庇い立てバックアップするのかな? 怪しいサスペンスですねぇ。そう考えると、スメナイ山地マウンテンをローランとカッターの共同ジョイントで探索したいという話も怪しくミステリーになってきます。これはずばり木を隠すなら森の中ミスリード! 大体本来ならこれはあまりに手前勝手ゴーイングマイウェイな提案です。ですが蟲一族バグファミリアがいたという事実リアルでそれを後押ししようとしている。むむむ、これは怪しいミステリーですよ!」
何かとんでもない方向に話が飛んでしまったよ。ハニーが怪しいという話も僕としてはかなりとんでもない話だけど、それに付け加えて僕たちまで疑われているし。
「少々話が飛躍し過ぎではないかと思いますが……」
「ふむ、だがあながち間違いとも言えないのではないか? 今回の報告を見ても、混蟲族の集落の抜け道をたまたま見つけたというのもな……」
「たまたまではありません。報告書にもあるように、それは息子のマゼルによる魔法のおかげです。マゼルは以前にカッター男爵領でダンジョンを見つけたこともありますし、探索魔法の力は折り紙付きです」
「は、口だけならビッグマウス! いくらでも言えます。それにですよ、混蟲族との件がそもそも自作自演フェイクオアフェイクであれば、蟲に襲われたにも拘わらず被害ダメージが異様に少ないのにも納得がいきます」
「いや、それは先程この程度の魔物などと言ってましたよね?」
「とにかく! ここまで怪しいミスティックならば、この領地も含めて徹底的に調べる必要があると私は進言アドバイス致します。そのためにも、ローラン家の方は一旦拘束プリズンもやむを得ないかと……」
え? いやいやおかしいよ! 大体いま拘束されたら畑の件とか収穫時期も控えているのに!
「あの、ちょっとよろしいですか?」
ふと、レイサさんが手を上げて発言を求めた。そういえば今まで静観を保っていたけど……。
「どうしたカレント?」
「はい。その疑問なのですが、今回はあくまで伯爵領を襲った蟲の魔物に関して、その原因や被害状況についての確認が主の予定だったと思いますが、これまでの話を聞くと本件から逸脱しすぎに思えるのですが……」
「何をホワット! 言い出すかと思えば。頭の悪いバッドな人ですね。貴方ユーは! その肝心の報告書が」
「あ、はい。ヤカライの意見は聞いていませんので結構です」
「――何? クレイジー!」
「そのわけのわからない話し方の方がよっぽどクレイジーなのでちょっと黙ってて貰えますか?」
な!? と大口を開けたままヤカライが固まってるよ。でも、確かに頭が痛くなるような話し方だったからよくぞ言ってくれたといった思いだよ。
「とにかく、これまでの話も全てそこのヤカライの推測でしかないなと、私は感じましたが閣下は本当にこの稚拙な推測を鵜呑みにして蟲一族を捕獲したりあまつさえローラン家の皆様を拘束なされるおつもりなのですか?」
「いや、まぁそれは確かに少々行き過ぎな発言もあったかもしれないが……」
あれ? 何かレイサさんの意見で雲行きが変わってきたかも……。
「しかし、色々と不審な点が見られるのも確かであろう」
「そ、そのとおりです! その女が」
「ヤカライは黙っててください。てか黙れ」
「き、貴様! 女の分際で!」
「そうですか。ですがその分際の私も同じ団長ですから。とにかく今は私が話しているので黙っていて、というか黙ってろ」
「ぐっ!」
ヤカライが悔しそうにぎりぎりと歯噛みしてるよ。う~ん、この女の人強いね~。
「さて、今回の件ですが、怪しいというのはつまるところ、この大賢者マゼルがそこまで強くないと思われているからですよね?」
「む、いや、それはまぁ、まだ子どもであるしな」
「はい、その子どものマゼルがここまで活躍出来るのはおかしい。あまりに不自然、だから怪しいと要約すればそういうことだと思います」
「いや、そこまで簡単な話でもないのだが……」
「ですので私から一つ提案があります」
「私の話を聞いてるのかレイサ?」
「なんとなく聞いてます」
「なんとなく!?」
何か、ガーランド将軍も軽くあしらっているように思えるよ。もしかしてこの人すごい人なんじゃ……?
「で、提案なのですが、これから王国魔法騎士団の団長である、私、レイサ・カレント相手に大賢者と一戦交えて貰うということで宜しいですよね?」
「……え? えええぇええええぇえ!?」
戦いを挑まれました。




